最終日前夜の大衆酒場にて
「ったくよぉ、あの小さかったミミルがよぉ…… あんなものこさえちまってなぁ」
「それは悪い事なのか、ガガン?」
「悪くはねぇんだ、悪くは……」
夜の大衆酒場は、また昼とは違った雰囲気で運営されている。夕食の時間が過ぎれば、人数は少なくなり比較的静かになり、ゆっくり酒を飲めるようになる。ドワーフは騒いで酒盛りする連中だが、そういう風情を解さない訳でもない。
「けどよぉ、色々寂しいだろう。あれは……」
「まぁ、分からんでもない」
実際あのリボルバーは恐ろしい武器だ。恐らくあれが普及すればそれこそ世界の進む方向が一変する。100年も過ぎればモンスター達を冒険者が駆逐し、世界の端まで人の世界が広がっていくだろう。
「あれが量産され、万人の手に入るようになるまで何年かかると思う?」
「……ミミルは100年に一度の天才だ、あれをそのまま職人が作れるようになるには、それこそ世代を重ねてどうにかって話になる。10年20年じゃ無理だ。それこそ100年はかかるぜ」
ガガンは肉汁が滴るステーキにかぶりつきながら、ワインをがぶ飲みする。既に数本赤ワインの瓶が周囲に転がっていて、最早ウエイトレス達も片付ける事を諦める。そんな勢いでガガンは杯を重ねていく。
「そして冒険者と拡大の時代は終わり、市民と平穏の時代が始まるって感じか?」
「あるいはモンスターを駆逐した後、人間同士の戦いになるかもしれんぞ?」
確かに最終的にはそうなるかもしれない。今はまだモンスターという敵がいて、人間の戦いはどこかで止まる、歯止めが効く、誰かが走れば止められる。
けれどこのリボルバーが主流となった世界では、剣よりも早く人は殺して殺される。その戦いがどうなるのか俺には予想することすら出来ない。
「そこまで人は愚かじゃないって信じたいけどな」
蒸留酒で唇を濡らす。人間である俺はドワーフみたいに無茶な飲み方は出来ない。けれど一緒に酒に酔うことは出来る。当然食べられる量も違うし、こんな夜中に肉を喰えば明日に響くので、軽くチョコレートを口にしながらではあるが。
癖の強い菓子を、度数の高いアルコールで流し込む飲み方が俺は好きだ。そうする事で未来への漠然とした不安を流し込み、希望だけを残して口の中で転がせる。
「何だかんだで、話を通せれば戦いは止められる。それ位には賢いんだ」
「だがこうやって、このままじゃ不味いって分かった上で自分達では何も変えられない。そんなドワーフも人なんだぜ?」
「だから話すんだろ? その為に俺が企画した闘技大会に乗ったんだろう?」
親方会議が闘技大会をここまで大体的にやったのも、手詰まりだから、どうにか新しい風が欲しいから。そう彼らが考えたからだ、そしてミミルのリボルバーは彼女が利用する人間の規格と道具の正しさをドワーフ達に強く印象付けた。
強い拘りによって、価値を失いつつあるドワーフの技術が、人の規格を受け入れる事で新たな可能性に繋がっていく事を彼女を示したのである。
「だな、その辺は上手い事やってくれるんだろう? 信じてるぜ」
「ああ、いい感じにな。ドワーフと人間と、色々含めた人間にとって」
改めて互いに、手に持った杯に酒を注ぐ。
「それじゃ、何度目かになるか忘れたが、乾杯しようぜ」
「今度は何に? ミミルの勝利とお前の敗北には乾杯したと思うがな」
「んじゃ、未来だ。俺達の未来が素晴らしい物になるように――!」
乾杯! と杯を掲げて、一気に中身を飲み干した。色々とめんどくさい話はあるけれど、それでも出来る事は幾らでもある。
より良い未来を手に入れる為に、明日の為に、今日はゆっくり樽腹のガガンに、姪っ子好きの叔父に付き合ってやることにしよう。




