準々決勝『ミミルvs樽腹ガガン(後編)』
ミミルが作り出したリボルバーとはいかなる武器なのか? 手で持てる大砲なのか? それとも片手で撃てる鉄の矢じりを飛ばすクロスボウなのか? それとも遠距離攻撃が出来るナイフなのか?
そのどれもが本質を現していない。
あれはナイフより気軽に、片手で撃て、連射可能な、大砲である。
「まずはっ!」
ミミルが左手に持ったリボルバーの引き金を三回引いて、三発の弾丸を撃ち放つ。曲がりなりにもB級の冒険者が10年かけて会得した弓の三連射。それに匹敵する威力と精度を、一度も戦場に立ったことのない職人が成し得る事が出来る武器。
当然大砲としての機能は抑えてある。ミミル曰く本気で作れば鉄すら砕く弾丸が作れるらしいが。今回のレギュレーションでは逆に使いにくいと俺が止めたのだ。
音を切り裂いて飛ぶ弾丸がガガンの額に向かう。
今回用意させたのは気絶を狙った衝撃弾。一発魔女に立ち合って貰った上で喰らったが、急所に当たれば暫く動けなくなる程度の威力があった。ドワーフであっても直撃すれば無事ではすまない。
「――いい武器だな。だがっ!」
けれどガガンは片手剣を振るい、己に向かう弾丸を切り払った。
「なっ!? 超音速ですよ叔父さん!?」
「出たァァァ! 鉄壁のガガン! その二つ名の元となった絶技『矢落とし』! ミミルの機械仕掛けから放たれた3発の矢じりを見事一閃で打ち払う!」
どよめき、どよめき、どよめき。ヒューマンとエルフと獣人とリザードマンはガガンの目にもとまらぬ早業に。ドワーフ達はミミルの作り上げた精緻なリボルバーの仕掛けに言葉を失った。
「そのリボルバーは、持つだけで一流の冒険者並の強さが手に入る代物だ」
「そうよ、だってそう作ったんだもん」
「便利な道具って奴だ、いつかそいつは冒険者の相棒になるだろう。誰も彼もがそいつを振り回し、相棒として尊び、剣の時代は終わるだろうさ。だがな――」
再びガガンは片手剣とバックラーを構える。
「抗ってやりてぇじゃねぇか! そいつが広がってるのを見ながら、俺の剣の方が凄いんだってグチグチ言うよりは! 正面から突っ込んで、勝っても負けても! 笑いてぇじゃねぇか!」
その一言に、その日一番の歓声が降り注いだ。ドワーフの、ドワーフ達の、この街に集うどうしようもなく職人で、そして戦士のドワーフ達の咆哮が闘技場に広がっていく。
ミミルの作り出したリボルバーが自分達の武器を駆逐する不安を、正面から切り捨てて挑むと言い切ったガガンに対する称賛の声が鳴り響く。
「こっちは手加減してるのに?」
「だからって、こっちは手加減しねぇぞ。全力だ!」
まったくとミミルが笑う、ニヤリとガガンが微笑む。
そこそこ二人の事を知っている俺から見れば、彼らは分かり合えていない。どこまでも互いの価値観は食い違っていて、それは一生埋まる事はないだろう。けれど、それでも―― たぶんこのやり取りで互いを認め合うことは出来たのだ。
「後5歩の距離、どう埋める?」
「鉄壁の名と、気合で埋める!」
「じゃあ、やって見せてよ叔父さん!」
ガガンが進み、ミミルが放つ。左手のリボルバーから吐き出された弾丸は、再び振るわれた片手剣で切り落とされる。残りは3歩――
「これからは、利き手――っ!」
右腕のリボルバーから更に度を上げた弾丸が放たれ、再びガガンの片手剣に弾かれる。
「はっ! 急所ばかりを狙うのが悪い。見え見えだ!」
「まだ、3発残ってる!」
残りは1歩、互いの吐息が感じられる距離で。二人の職人が、二人のドワーフが睨み合う。
「弾が残っていても、距離は詰めたぞミミルっ!」
1歩踏み込む、1発放つ。金音が響く――
ミミルのリボルバーはガガンの額に押し付けられ、ガガンの片手剣はミミルの首筋に押し付けられて―― いなかった。ガガンの剣はへし折れて、柄だけしか残っていない。クルクルと回った刃が、闘技場の床に突き刺さる。
「改めて、勝敗を告げる必要はあるか? ガガン」
「いや、いい。俺の負けだ。きれいさっぱり、正面から手加減されて負けちまったぜ!」
余りにも剛毅な敗北宣言に闘技場に拍手が鳴り響き。ガガンも、そして彼に勝利したミミルも、そのどちらもが讃えられ、その響きが街中に広がっていく。
「どうだ、ミミル」
「あ、うん…… 確かに、これは凄いかも――」
この瞬間、彼女はこれまで積み上げた努力に対して正当な評価を与えられた。まぁ半分以上樽腹のガガンが良いところを持っていったのだが――
無駄にやり切った笑顔を見て、姪っ子に何かしてやりたかったのだろうと笑ってやることにした。
さてとりあえず依頼は半ば完了してしまったが。それはそれとしてまだ闘技大会は続く。むしろここからが本番で。
俺はリングから降りながら、今後の予定を練り直すのであった。




