アッシュ、パーティを纏める?
「全く…… グレックの奴め。あの魔女と1か月も旅行だと!? 妾だって!」
「安心しなさい、あの2人の関係は20年近いけれどまだ男女の関係じゃない」
「ニャー、長命種はどうしても恋愛的には奥手になるからニャー」
なんやかんやで3日後、俺の部屋に残りのパーティメンバーが集まった。竜殺しのアリア、エルフの剣士のレイナ、猫耳の盗賊のチャコ。よく考えれば7人中5人が女性のパーティは非常に珍しい。ある意味グレックのハーレムなのでは? と考えて少しモヤモヤする。
この中で1人位は俺に惚れている奴がいてもいいのでは? などとやや不埒な事を考えながらベッドの上でゴロゴロ転がりながら、俺にじゃれついて来るチャコをいなしながら話を続ける。
「とりあえず1か月で出来そうな依頼を幾つか見繕って来てはいる」
「チャコが盗賊だが、他は全員剣士だぞ? 幅が狭くならないか?」
「その辺はな、色々と考えてるさ」
俺はギルドで写した依頼書を3枚、丸テーブルの上に広げていく。
「ふぅむ、北の森の調査?」
「ああ、昨日入ったばかりの依頼で。オーガの痕跡が見つかったらしい」
依頼料は金貨50枚、オーガを倒せた場合は更に追加で50枚。やや依頼料は渋いが俺達の実力なら手ごろなクエストと言えなくもない。
「妾には少し安く思えるが。拘束時間も長く、場所も王都から離れておる」
「ニャー、けど北の別荘地で真夏の暑さを避けられるならいいと思うのニャー」
「ああ、王都よりも物価が安い場所での避暑も兼ねているのか」
派手な冒険も悪くはないが、選択肢としてこういう奴を入れておくのも大切だ。パーティメンバーが全員イケイケな気分で無い時もあるのだから。この辺りも昔グレックに学んだ細かいテクニックの一つである。
「二枚目は何ニャー?」
「ふぅむ…… ゴブリンの軍勢の殲滅?」
「ああ、夏の風物詩だな。この時期になると東側の平野に千匹近い群が湧くのだ」
依頼料はF級パーティが金貨10枚、E級が20枚、D級が30枚、C級が40枚。結構近場で短期の小遣い稼ぎとしてみれば最上である。乱戦の経験が少ないアリアにとってはいいチャンスだし。チャコの弓でも余裕で倒せる相手なのも悪くない。
「ただ少々物足りんか……」
「だな、レイナもエルフで似たような事を何度もやっているだろうし」
ただ俺とレイナにとっては物足りない。それこそ鼻歌交じりに無双している間に全てが終わってしまうだろう。この2つは全体的に冒険といった雰囲気が薄い。そういう意味ではどちらも薄味だ。
「それで、最後の1枚が本命か?」
「ああ、結構面白いし。うちのパーティにはぴったりだと思うぜ?」
「ふむ、前金が金貨150枚で、解決すれば更に150枚。それも王都で?」
アリアが依頼票の写しに目を通し、口を丸くする。実際王都の中でこれほど高額なクエストが発行される事はそうそうない。
「だが条件があるな…… パーティメンバーに貴族がいること」
「ああ、妾がいるからそこは問題無い」
アリアが不敵な笑みを浮べる。何だかんだで彼女は竜殺しの功績をもって貴族として取り立てられた。理不尽な婚約破棄からの貴族籍剥奪の埋め合わせと、分かっているが少々羨ましい。
けれどこの事例がが俺にとってプラスになると、考えなおして切り替える。
「あと、最低限のマジックユーザーが必要。一応私が使えるが」
レイナはエルフの剣士で、実戦レベルの付加魔法を使いこなし。黒衣の魔女から薫陶を受けた日常魔法をある程度操れる。最低限という要件なら余裕をもって越えられるだろう。
「そしてある意味ダンジョンアタックになるので盗賊も必要と」
「ニャー、にゃらチャコの出番ニャー」
チャコは単純な器用さならばグレック以上。経験を積めば超一流のスカウトになれる逸材だ。俺に喉を触られゴロゴロニャーと鳴いてる姿からは全然想像できないし。よく不機嫌になって俺に辛辣になるが、まぁ信用していいだろう。
「しかし、王都でダンジョンとは…… 幾つか思い当たるものはあるが」
「ああ、そこそこ有名な奴だなこれは。貴族街の幽霊屋敷だ」
今は平穏無事なこの王都も、3代前の王位継承で結構血なまぐさい話があったりもする。この幽霊屋敷もそんなエピソードの一つで、第二王子を生んだお妃が政変の最中、幽閉されそこで暗殺されたとの曰くがある物件だ。
その怨念からダンジョンになったと噂されていたが、ようやくそれをどうにかする気になったらしい。
ヤバい可能性もあるが、冒険らしさという意味ではこの中でぴか一である。
「それじゃ、どのクエストを受けるか決めるぞ。投票の棄権も認めるぜ――」
そして、パーティメンバーの意思を確認した結果は確認するまでもなく。俺達は王都で有名な幽霊屋敷にダンジョンアタックを仕掛ける事になるのであった。