準々決勝『ミミルvs樽腹ガガン(前編)』
状況をコントロールする時は、逆説的な話になるが全てを制御しようとしない方がいい。あくまでも最終的な狙い以外には頓着せずに。ある程度の余力を持って事に当たるのが一番だ。けれどどうしても予想外の事態という奴は発生してしまう。
「……よう、ミミルか。どうやら最近色々やってるみたいじゃねーか」
「うう、ほんとなんでガガンのおじさんが出て来るんですか? 大親方でしょ!?」
そう例えば、準々決勝でミミルを華々しくデビューさせようとしたところで。何故かこの自治領の為政者の一人である樽腹のガガンが対戦相手に出て来る。そんな事態が起こってしまう事もあるのだ。
「ちょいと待て、樽腹! お前運営側で組み合わせを知ってるだろう!?」
ちょいと物言いをつけて来る程度は予想出来ていた。その時は俺がエキシビジョンの形でリボルバーを使って戦う予定だったのだが。まさかここまであからさまな方法で介入してくるのは予想外。
というか色々調べている時、妙にミミルの事を気にしていると思っていたら。そんな理由があったとは驚きである。
「悪いな、グレック。叔父と姪っ子のコミュニケーションって奴だ。ペナルティとして防具は着ない、武器は片手剣1本、ついでに優勝賞金を倍にしてやろう。それで構わんだろう?」
「おおっと、大親分ガガン! 金と権力でごり押しするスタイルで攻めて来る!」
実況のストークが煽り立て、勝ち残った連中から喜びの声が上がる。5人で金貨10万枚、1人当たり金貨2万枚という金額はそれこそ一生遊んで暮らせる金額だ。最初からこの金額を提示していれば、もっと面倒な事になっていたのは間違いない。
「……一つだけ追加で注文だ」
「物によっちゃ聞いてやる」
「俺が勝負が決まった。と判断したら試合に介入して止める」
ミミルには即興で戦術を仕込んだが、ガガン相手では手加減が効かない。場合によってはやり過ぎてしまうかもしれない。
「良いだろう、何ならお前が審判をしても良いぜ?」
「おいおい、依頼者のミミルを贔屓するかもしれないぜ?」
「はっ、こっちが無理筋を通そうとしてるんだ! それ位認めんと話にならんわ!」
勝ち残った連中、負けた連中、そして観客を見渡せば。全員俺達のやり取りを固唾を飲んで見守っている。俺の答え方次第で会場の盛り上がりが左右される大事な場面――
「それじゃ、お言葉に甘えて。この試合に限り俺が審判をやる。ただし判定は公平に行う、依頼者であるミミルが不利になったとしてもだ」
会場からどよめきが走る。ここまで来れば見世物にした方がいい。外連味を混ぜ、勢いをもって、可能な限り公平になるよう、ガガンが荒らした場を整える。
「え、ちょっと待ってくださいグレックさん!? 展開についていけません」
「なぁにミミル、俺が教えた通りにやれば勝てる」
完全に置いてきぼりのミミルに俺は笑顔を向けて親指を立てた。
「ミミル、お前もこれで良いだろう?」
「えぇ、まぁ―― はい」
腰のホルスターからミミルはリボルバーを取り出した、それも2丁。この短期間でよくもまぁ組み上げたものだ。戦闘中のリロードは考える必要は無い。そもそも10発こいつを喰らって生き残れるのは相当な化物だけである。
「グレックさんが止めに入ってくれるなら、叔父さんを万が一にも殺す事は無くなりますから」
「はははは! いいぞ! その傲慢さ! 悪くない! それでこそドワーフの職人だ!」
己の生み出したリボルバーの圧倒的な性能を、傲慢なまでの態度で誇るミミルを、ガガンは大きな笑い声で祝福する。
「女だからと手加減したが、もうちょっと派手なの持ち込んでも良かったか?」
「何なら今からクロスボウを持ちだしても私は良いけど…… どうする叔父さん?」
「流石にそれはカッコ悪すぎる。それにな――」
空気が変わった。ガガンの表情が姪っ子と話す叔父から、かつて竜に挑んだ冒険者に切り替わる。
「俺は昔、このグレックがまだガキだった頃に、一緒に冒険をしてたんだぜ。そしてこの得物は俺が俺の為に打った最高傑作、ただの片手剣って舐めて貰っちゃ痛い目見るぜ?」
ニヤリと、獰猛な笑みを浮べる。俺が止めるって事でどうやらガガンもハメを外す気らしい。よく見れば服装も作業着ではなく、昔のシャツとハードレザーアーマーを着込んでいた。
「それでは! 準々決勝第三試合! リボルバーのミミルと、鉄壁のガガン! 因縁の対決に勝利するのはどちらなのか!」
ストークの声が響き、ミミルがリボルバーを構え。ガガンは片手剣を右に、そして左手に革のバックラーを構える。この先ドワーフの中で末永く語り継がれる事になるこの戦いの始まりは――
意外なほど静かな睨み合いからスタートすることとなった。




