二回戦『チャコvsドワーフナイト』
「さぁて、大会2日目の中盤! 既に6試合が終わり残り2試合!」
言葉の魔術師ストークの煽り文句は今だに衰える事を知らない。戦場で三日三晩声を張り続けた逸話を持っているだけの事はある。拡声魔術を使っているとはいえ、ここまで延々と声を張り続けられる体力が桁外れだ。
「グレックさん、グレックさん。次の相手って結構有名なんですよ」
「ああ、ドワーフナイトといえば、自治領における数少ない公的な戦力だな」
自治領とはいえ統治機構である以上、自前の戦力を保有している。王国の名だたる大貴族と比べれば規模は小さいが、種族として武道派なドワーフが最高級の装備を纏ったドワーフナイトは間違いなく一流の戦士だ。
「その、大変申し訳ないのですけれど。チャコさんでは相性が良くないのでは?」
「真正面からやり合ったら、間違いなく負ける組み合わせだぜ?」
仮に真正面からやり合った場合、それこそ俺でも勝ち目は薄い。アッシュやレイナなら互角、アリアなら油断しなければ正面から打ち勝てるといったところか。
「だ、駄目じゃないですかー!?」
ミミルが慌てだす。ゆるり、と向かいからフルプレートのドワーフが立ちあがった。背丈こそ平均的な人間よりも頭一つ低い。だがその上でしなやかな筋肉が鎧の上からでも見てとれる。取扱いに熟練を必要とするハルバードを引っ提げ、のっしのっしとリングに向かう。
「ニャ、依頼主さん、依頼主さん?」
「ちゃ、チャコさん? 勝てないのは困るけど、ほんと無茶はしないで下さいね?」
まぁ素人ならば、そんな風に心配するだろう。どう贔屓目に見ても小柄な獣人の少女が、鉄と筋肉の塊であるドワーフナイト相手に戦えるとは思えないのだから。
「大丈夫ニャ、グレックも正面から戦えばって言ってるニャ」
あっと、ミミルが口を抑える。そう彼女も一流と呼ばれるB級冒険者なのだ。完全な真正面からだと勝てなくとも。ある程度小細工を仕掛ける余裕があるこのルールなら充分に戦い様はある。
「グレック、一応確認するけどニャ。怪我させない範囲で何でもありかニャ?」
「相手のプライドを引き裂かない程度なら大丈夫だ」
「ニャ! その辺りは上手くやるニャ!」
ニヤリと猫人族特有の悪戯っぽい笑みを浮べ、尻尾を揺らしながらチャコはリングに向かう。全身を覆うマントを纏い、獲物は短弓、チラリと見えたのは真新しい貫通刺突短剣と幾つかの小袋。それだけ見れば何をやりたいのかは理解出来る。
「さぁて、これは面白いカードだ! 猫人族のB級冒険者チャコ! 対するはドワーフナイトのポポン! 奇しくも女性同士の対決と相成った!」
周囲から驚きの声が響く、それに合わせてガチャン。とポポンはヘルムのバイザーをカシャンと開けた。年齢は20代半ばといったところか。ドワーフの女は背丈が低いがそれが少女らしさに繋がるかと言えばそうではない。
しっかりとした、大人びた勇ましい女の顔がそこにはあった。
「読みが外れたな。2回戦までなら盗賊の使う痺れ薬や毒に対して対策していない連中が出ると踏んだな? だが我々ドワーフナイトは一通りの毒に対して耐性を持っている。訓練を積んだドワーフに生半可な毒は効かぬと思え」
そう宣言し、再びポポンはバイザーを落し。改めてハルバードを構える。
「ニャー、こっちだって本職の盗賊ニャ。生半可じゃない毒は持ってるけどニャ。流石にちょっと加減が効かないから使わないニャ! その上で色々とやりようがある事を"魅せて"やるのニャ!」
チャコも引かずに姿勢を低くする。猫人族は一部の例外を除いて筋力は低い。けれど数ある種族の中で最も反射神経と俊敏性に優れている。先手を取るだけなら彼らに敵う存在は殆どいない。
「それでは、二回戦第七試合の始まりだぁ!」
ストークの声と共に、あえてチャコは距離を詰め。ハルバードの間合いギリギリの距離から何かをポポンに投げつける!
「毒は効かんと言っている!」
ポポンは手甲でチャコが投げた容器を打ち払うと、そこから液体が飛び散った。
「毒じゃないニャ! ただちょっと刺激臭はするから気を付けるニャ!」
チャコはマントを翻しバックステップで距離を取る。間合いの自由度においては圧倒的にチャコが有利。たとえ全身鎧を纏っていなかったとしても。充分な訓練を積んでいたとしても。種族の差はそうそう覆せるものではない。
「ふん、このまま体力勝負に持ち込む気か? だが、この戦いに時間制限は存在していない。そもそも単純な体力で私に勝てると思わない事だ」
当然その逆もしかり。単純な筋力と体力において、チャコがポポンに勝てる道理もない。そして距離を取る為に動き続ける必要のあるチャコは、体力勝負に持ち込まれると分が悪い。
「そして、我が武器はハルバードだけではない!」
さっとポポンは右手でハルバードを構えて、左手で腰の投げナイフを掴んでチャコに投げつける。狙いは正確、直撃すればチャコなら刃が潰されている事を考えても一撃グロッキーは間違いなしだ。
「ニャァ!? 危ないニャ!」
「ならば降服しろ、ドワーフナイト相手ならば不名誉という事もない!」
「そうするとしても、やることはしっかりやるのニャ!」
さっとチャコが弓を引く。クロスボウなら兎も角、短弓それも 猫人族の力ではフルプレート相手にはさしたる意味はない。ポポンは防御姿勢すら取らずにその矢を受けた。
「どうした? その程度の矢で我が鎧が貫けると――」
「思ってないニャ、けど狙い通りの場所には当たったけどニャ」
「何?」
チャコが放った矢が当たったのは、先程投げた容器を弾いた場所。不自然にポポンの手先の動きが固まった。
「これは、接着剤!?」
「そうニャ、この街で買った混ぜると固まる接着剤ニャア!」
改めてチャコは姿勢を低くし、ポポンに向かって距離を詰める。当然彼女もハルバードで迎撃しようとするが、再びチャコが投げつけて来た容器を投げつける。
「二度も、同じ手を!」
ポポンは鎧ではなく、ハルバードで容器を切り払う。チャコの奇策に対し、間接に溶剤が流れ込まなければ問題無いと直に問題点を見切る辺り、対応力に優れているのは間違い無いだろう。
「使うと、思ったニャ?」
だがそれは囮、チャコはあえて初手で接着剤の効果を見せつける事で。ポポンの警戒を引き出したのだ。彼女も一流の戦士だ。けれど初めて目にする戦法に対しては一瞬反応が送れてしまった。
カン! とポポンの背後に回ったチャコがナイフを首筋に突きつける。
「ただのナイフじゃニャくて、その鎧と同じ工房で作られた貫通刺突短剣ニャ」
「……そうか、ならばこちらの負けだ。降服を受け入れてくれるか?」
「ニャ! こう見えてもチャコはB級冒険者、降服しても恥にはならないニャ」
ある意味ポポンに対し、意趣返しをしながらもチャコは勝利を掴み取った。無論実戦ならばこうも綺麗に決まらなかっただろう。ここまで好条件でぶつかれるパターンは少ない上、ドワーフナイトが本来装備する武器はクロスボウなのだから。
「はぁ、本当に凄いですね。チャコさん」
「おいおい、気軽に言っているが三回戦はミミルさんが出る事になるんだぜ?」
「ああ、それは大丈夫です。ちゃんとリボルバーを用意してますから!」
ここで臆するかと思いきや、どうやらミミルは充分に自分が作り出した武器に自信を持っているらしい。余計な発破をかける必要も無かったらしい。
改めてリングに目を向けると、チャコとポポンが互いの健闘を讃え合い握手をしている。さて次はある意味本番だと、俺は気合を入れ直す。最も俺が出来る事はもう何もないのだが、それはそれである。




