7日目、再び大通りにて
「7日かぁ、まぁ持ったもんだなぁ!」
「グレックさん、グレックさん! 本当にどうするんですかぁ~!」
1週間前と同じ道を、俺達は再び爆走していた。ただし今度はごろつきの数が桁違い、20人近い連中がミミルを抱えた俺を全速力で追ってくる。赤土の大通りに奴らの怒号と、無関係な連中のヤジが響きもう完全にちょっとしたお祭り気分といったところか。
「というか、この1週間で事態を解決する為に動きまわったんですよね?」
「ああ、ちぃと色んな問題のベクトルをお前さんに向ける為にな!」
走る、走る、走る! 硬い地面はちょいとばかりキツイが、新調したばかりの革靴は予想よりも調子がいい。これが無ければここまで逃げ切ることも危うかった。ドドウに無理を言って追加の依頼をしたのは間違いなく英断であった。
「まって、待ってください! 最近どうもワチャワチャしてると思ってたら!」
「そりゃ、街中の荒くれ物がお前さんに注目してるからな!」
「な、なにやってるんですかぁ!?」
ミミルが叫んだ瞬間、わき道から木槌を持ったドワーフの職人が飛びだしてくる。女子供や人間相手に手加減しているつもりなのだろうが。普通の人間はアレで殴られたら死ぬ。間違いなく死んでしまう。やさしさの絶対量が足りていないと苦笑する。
「見せてみろ! ミミルぅ! テメェが作った武器の力って奴を!」
「依頼主に代わって披露してやるぜ!」
左腕でミミルを抱えたまま、右手で彼女のリボルバーを引き抜き撃鉄を引き絞る。乾いた音が街中に響き、その職人が構えていた木槌のヘッドが吹き飛んだ。
「な、何ぃ!?」
「おー! 何気に私より普通に扱い上手いですよね?」
「そりゃな、弓と比べりゃ随分楽だからな!」
周囲から湧き上がる完成に、リボルバーを持った手を掲げて応えつつ。がっくりと膝を付くドワーフの横をすり抜け、更に走る、走る、走る! 体力こそ最盛期と比べれば多少下がってはいるが、魔力を練り上げれば補える。
今朝も黒衣の魔女から飲み薬を貰っておいたのだ。このまま夕方まで追いかけっこをしてもまだ余裕はあるだろう。当然翌日の筋肉痛は覚悟しなければならないのだが。それは必要な犠牲である。
「それで、どうするの? これだけの騒ぎにした上で事を納められるんですか?」
「ああ、しっかり手は打ってある!」
走って走って、辿り着いたのは自治領の北の端。馬車が並ぶロータリーだ。人の数こそ王都と比べれば少ないが。国内でも有数の馬車停留所である。出荷を待つ製品が山と積まれた荷馬車が立ち並ぶ光景は壮観だ。
そしてその合間から王都からの貸し切り馬車がやって来るのが見えた。
「ニャ! グレック、そいつらが敵かニャ?」
屋根の上に立つ猫耳獣人の姿を見て俺は笑みを浮べる。魔女が確かめた通りのベストタイミングで、パーティメンバーが到着したのだ。もしもずれていたらもう一周、自治領をランニングする必要羽目になったのだから運が良い。
「ああ、ドワーフ相手の喧嘩だ。派手にやれ!」
後ろから走って来る連中を指さし声を張り上げる。ここまで走る中で、余計な連中は全員振り切った。未だに追いかけて来るのは気合が入った18人。数は多いが俺達ならどうにでもなる。
「ニャ!」
チャコが放った弓が、戦闘を走るドワーフの肩に突き刺さり一発でその意識を刈り取った。軽いマヒ毒である。正面から殴り合うと面倒なドワーフだが、こうやって搦め手を使えば案外簡単に行動不能にする事が出来る。
勿論回復力は高いので油断は禁物だが。取りあえず動きを止める時は有用だ。
「ったくっ! 金は割増しで払って貰うからな。オッサン!」
アッシュが窓から身を乗り出し、矢を番える。奴の本分は剣だが、一通り武芸は収めているのだ。1発、2発、3発……! 倒れたドワーフを飛び越えて戦闘に躍り出たドワーフに数本の矢が突き刺さるが止まらない。
単純な物理攻撃でドワーフを止める事は難しい。チャコの様に毒を使うか――
「氷の精霊よ、我が剣に宿り敵を縫い止める力となれ!」
レイナの様に属性武器を使うのも悪くない。彼女の剣に宿る加護が矢が数本突き刺さったドワーフの足を切りつけた。その直後、精霊が地面に足を縫いつける!
「むぅ! なんという細工の武器、エルフの精霊剣か!」
「ああその通り、我が剣の冴えを受けたいものからかかってくるといい」
普段は平たんなレイナの声も心なしか弾んでいる。エルフとドワーフは不遇大敵とは言わないが、互いに競い合う傾向にある。追手のドワーフ達もニヤリと笑みを浮べて武器を構えなおす。
「野郎共! いくぞ! お転婆のミミルにエルフの助太刀がついたんだ! こりゃ負けられんぞ!」
時の声を上げ、ドワーフのごろつき共が突っ込んで来る。さて、普通ならここで泥臭い乱戦が始まるのだが。こちらにはまだ、切り札が1枚残っている。
「静まれ! そして妾の声を聞けェ!」
貸し切り馬車から赤色が飛びだして、突っ込んで来たドワーフ3人を吹き飛ばす。低身長の彼らと比べてもそう大きくはない。少しだけ伸びた金糸の髪と、強い意思を湛えた碧眼の瞳、そして竜血で染め上げられた赤のジャケットとズボンが彼女が何者か示している。
「貴様は、金髪の竜殺し!」
「西辺境の救世主!」
ドワーフ達は力を持った英雄を尊ぶ、それこそ男であっても、女であっても。偉業を成し成し得た者の噂は矢よりも早く彼らの中で広がっていく。そういう意味で己の剣でドラゴンを打ち倒した彼女の名は、今この自治領で急速に広まっている。
「「「即ち、婚約破棄令嬢アリア!」」」
「ええい! そこか! 一番知られているのがそれか!」
己が吹き飛ばした3人のドワーフから、煽られながら宝剣を正眼に構える。さぁこれで準備は整った、集まって来るヤジ馬を前にして、俺はリボルバーを空に向け引き金を引く。アリアが稼いだ注目を俺に引きつける為に。
さぁミミルが何とどう戦うのか、ここで決めてしまおうか。




