1日前、とある武器工房にて
ドワーフの社会は基本的に男の社会だ。男が死ぬまで何かを作り続ける為に組み上げた、意地っ張りで面倒な世界。けれど、だからこそ。彼らはたとえ女性であっても、他種族であっても、技術さえあれば尊重し、受け入れる。
荒くれ者が多いが、最低限女や他種族に殴り合いを挑むのは格好が悪い。そう思う程度の矜持はあるので技術さえ認められればそれなりに居心地は悪くない。
(けど、それは……)
同格ではないのだ。技術で並び立っても、どこかよそよそしさが残っている。どこまで行ってもドワーフ以外の種族は、そして女である私は彼らと同じ場所には立てない。
「とても、寂しいのです」
たとえ、彼らと同格の武器を作っても。ただそれを振るえぬというだけで、どこか一段下に見られる。それがどうしても我慢できない。男と女の間にある力の差だけで舐められるのがとても悔しい。
だから私は旋盤を回す。ドワーフの男達が人間の玩具と一段下に見るそれを、比較的恵まれた魔力の才能を持って回して鋼を削っていく。男達が恵まれた体力をもって成し得る仕事を、道具の力をもって彼らと同じ。いやより高みにある筈の技術で形を生み出す。
「本当に、ドワーフの脳筋男共は、めんどくさいんですよねぇ……」
削る、削る、削る。しゅるしゅると、削り取った部分がバネになって下に落ちていく。
「ふむ、ふむ…… こんなものですかねぇ?」
魔力を切り、旋盤が止まるのを待ち、ハンドルを回し、ネジを緩め。私は仕上がった部品を取り上げて仕上がりを確かめる。手触りから精度は充分。けれど軽く油を落した後、研磨剤と柔らかい布でさっと磨き上げた。
これで完璧、最後に削りかすを拭き取って。既に磨きまで終わっているパーツとカチャカチャと組み合わせていく。図面は見ない、そもそもめんどくさくて頭の中にしか用意していないのだから。
先程削り出した銃身を、手で削り出した回転式弾倉がはめ込まれた機関部に組み合わせて、バランスを確認。パーツ同士のかみ合わせは完璧、鋼が吸いつくように噛み合って、まるで始めから一つの塊を削り出したと見紛うばかり。
「よしよし、ならここをこうやって……」
グリップの部分に磨いた木をはめ込み、ネジで固定する。まぁネジに関しては人間の真似をして、同じサイズの物を大量生産した方が便利が良いと思っている。ドワーフのめんどくさい男共は一々ネジを切る事が正義だと思っている節がある。
「よし、これで…… 完成!」
動作試験として引き金を引く、クロスボウを改良した機構が回転式弾倉を回したのを確認してニヤニヤと笑みをこぼした。貴族のお坊ちゃんが玩具代わりに使うマスケットとは次元が違う。
もっと小型で、もっと便利で、特注の弾はもっと威力が高い。
そもそも弾と火薬を別々に込める時点で実戦的ではない。火薬と弾を真鍮のケースで纏めてしまえば便利がいい。
ドワーフがちょっと頑張ればその程度の加工ならどうにでもなる。試作品には丸一日かかったが、道具さえそろえば10分に1発は組み上げられる。
ついでに、衝撃を与えたら爆発する仕掛けを組み込めば、火縄式や燧石式とはよりもずっと、ずっと安定して使える武器になる。
「さてと、弾をこうやって詰めて…… っと」
手作りの弾丸を、手作りの回転式弾倉に詰めるが、パッと見た感じパーツの干渉もなく恐らく想像通りに機能してくれると確信できた。
「……ちょっとくらい、良いですよね?」
本当はあまり良くない。一昨日作った弾丸の試験していたら、親方から雷が落されたのだ。下町ではなく職人街で変な音を立てれば、集中力を乱された他の職人から怒鳴り込まれても文句は言えない。
けれど、この武器を一刻も早く試したい。自分で作った力を使ってみたい。その欲求を抑えられず、私は部屋の隅に用意していた鉄板に向けて、引き金を引く。
パァン! と音が響き、分厚い鉄板がベコリと凹む。設計通りこの手に握った鉄の塊が、大型のクロスボウと同じ威力がある事を確かめ、私の体は歓喜で震えた。
「れ、連射も試してみます!」
三度、炸裂音が響く。狙い違わず同じ場所に命中した弾丸は、最終的に分厚い鉄板に穴を開けた。
「凄い、凄い! これなら……っ!」
私が作り出した、この武器に名前を付けるのなら回転式であろうか? 間違いなく、時代を変える武器を、女や人間であってもドワーフの男と渡り合える武器を作れたという実感が。私の中で興奮として駆け巡る。
この時の私は自分が明日、面倒な事件に巻き込まれることを。まだ知らない。




