アッシュ、追放される?
という訳で事実上の続編というか続きみたいな感じで外伝を追加します。軽めのエピソードを2~3本位投稿出来ればと。
「アッシュ、すまん。暫くパーティを抜けてもらう」
「ハァ!? ちょっとまてオッサン! どういうことだ!?」
夏真っ盛り、昼間っからオッサンと二人でグダグダしていたら。グレックの野郎いきなりとんでもないことを言いやがった。3杯目のエールでようやくご機嫌に気分が一気に吹き飛ばされる。
「あー、ちゃんと順を追って説明するし。パーティから追放する訳じゃない」
「いや、それならいいんだが。けどやっぱり事情次第じゃ首を横に振るぞ?」
気が付くと右手に握っていたフォークが半分に折れいて苦笑する。貴族の血を引いてるとこういう所が面倒だ。感情的になると結構こうやって物を壊しちまう。ちゃんとした家に生まれたなら訓練されるんだが。娼婦の息子な俺はこの通り。
ため息をつく俺の横で、グレックはさっと給仕を呼び止め大目のチップを握らせ新しいフォーク用意していた。こういうことをサッとやってしまえるのがオッサンの一番大きな強みだと最近気づけた。
「黒衣の魔女が、この前手に入れた宝玉を加工する為に南のドワーフ領にいきたいって言い出してな。どうしてもその交渉の為に俺が行く必要がある」
「ぐっ、確かにドワーフとコネがあって、実力がある冒険者っていったらなぁ」
チクリと、終わったはずの恋心が痛む。何だかんだで俺がやらかした騒動の最中、黒衣の魔女から手痛いしっぺ返しを喰らってしまい。彼女に対する恋は終わった、それでもグレックと彼女が二人きりで旅行するという話を聞けばモヤモヤとした気持ちが浮かんじまうのが男ってものである。
「で、全員で行くのは仰々しい。かといってオッサンと魔女以外のメンツを遊ばせておくのもどうかと」
「嫌なら休日料金で給金を支払っても良いが、月金貨2枚じゃ辛いだろ?」
「何だかんだで1か月はかかると……」
だいたい状況は把握する。まぁアリアが一番文句を言いそうだが、そこはそれだ。グレックがちゃんと責任をもって説得するのだろう。多少胸は痛むしやっかみの感情は大きいが、本当にこのオッサンは一度くらい大火傷した方がいい。
「それで臨時のパーティを作るからお前がリーダになれ。金は用意してある」
「あいよ、っと。ひーふーみー…… 4人で金貨30枚って。オッサン本気か?」
「安いか?」
「多いんだよ、オッサン財布の方はどうなんだよ?」
そう俺のパーティに参加していた時と比べて、このオッサンが一番変わったのは金勘定の部分だ。俺に合わせてカリカリとした利益が出る冒険をやっていたくせに。いざ自分がリーダーになると、こっちが心配する程に金を出しやがるのだ。
「舐めるなよ、小僧。年取った冒険者は儲かるんだ」
「……派手に冒険して、その結果集まった情報を貴族に売る?」
「そういうこと、コネさえあれば結構な金になる」
手の内を晒す真似をしてくるグレックに、何が目的かと頭を捻って閃いた。ああコイツは俺を育てようとしているのだろう。いや、改めて考えれば昔からこいつは色々な技術を俺に伝えようとしていたのかもしれない。
「まぁ、顔は売る事にするさ。けど今はそこまではやらねぇ」
「へぇ、何でだ?」
ニヤニヤと笑うグレック。ああだが、こっちに気を使って大人しい顔をしていた時よりもずっと気持ちいいし本音が言える。俺が憧れたグレック=アーガインという冒険者はこうであるべきだ。
「まだ老け込む歳じゃねぇからな、オッサン。俺は今が冒険者真っ盛りなんだよ」
「ははっ、言ってくれるなぁ。だが楽しめ、お前くらいの年じゃないと出来ない冒険って奴が世界には山ほどあるんだ」
その言葉と金貨30枚を受け取って、俺達は改めてジョッキでエールを注文し乾杯した。温めの空気の中、魔法でキンキンに冷やされた飛沫が肌に跳ね。そして心地よいアルコールが喉を駆け抜けていく。
全部グレックの掌の上ってのは気になるが、精々勉強させて貰って。いつかぎゃふんと言わせてやる。そんなことを考えながら、俺は新たなつまみに揚げイモを注文しようと給仕を探すのであった。