0 昔話
俺は、辛い事があった時や自分自身が弱っている時にいつもあの時の夢を見る
俺がまだ、小さくて弱くて何もできないただの子供の頃のことを…
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孤児院の裏で隠れて遊んでいた
「リィー?リィー?何処にいるの?」
「ここだよ。シスター」
「そこにいたのね。そろそろ夕飯の時間だから孤児院に戻って来なさいよ」
「はーい」
俺の育った町アリューダ
そこそこ大きな町で周りは森で囲われていて、町の至るところに川が通っている。毎日、商人達の愉快気な声や町の住人達の楽しそうな声で賑わっている。
俺は橋の下で拾われた。15年前、男女2組が赤ん坊らしきものを置き去りにして逃げていこうとしている所をこの教会のシスター、シャアナがたまたま見ていて俺を拾ってくれて、教会で他の孤児の子達といっしょに育ててくれた。
シスターは、とても綺麗で優しかった。いつも笑顔で俺達と遊んでくれた。そんなシスターが俺は大好きだったんだ。
『いただきまーす』
「今日はリィーダの5歳の誕生日だからちょっと奮発して、シチューにしてみたわ」
「ナイス誕生日」「誕生日最高」「マジうまい」「リィー様ー」
「ありがとうシスター。今日は最高の誕生日だよ」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ」
俺はこんな楽しい日々がずっと続いていくんだと信じていたんだ
いつまでも、いつまでもずっと…
あの時の事は今でも忘れられない、しっかりと覚えている。
あいつ達は俺の誕生日から10日くらいたった時に突然にやってきた
「邪魔する」
急に勢い良く扉が開いたと思うと、体格の良い男達が6,7人部屋に入ってきた
「誰ですか。いきなり部屋に入ってきて」
「俺達が誰だって?お前さんが金を借りている連中の仲間だよ」
「早く貸し金を返してくれないか」
「すいません。今はお金がなくって…」
「来月には、来月には返せると思いますのでそれまで待ってください」
シスターはとても苦しそうな表情で小さな声で怯えるように言った
「もう待てないんだよ。金が用意できないなら…後はわかるだろう?」
男はニタニタと気持ちの悪い笑顔で、シスターの身体を舐めるように見てから言った。
「わかりました。でも、その代わりこの子達には何もしないでください」
「あぁ、それは約束するぜ。俺は約束は死んでも守るんだよ」
「じゃあ、ちょっとついて来てもらおうか」
そう言ってシスターと男達は出ていこうとした
「待ってよシスター」「行かないで」「すぐに帰ってくるよね?」「シスター…」
シスターは何も言わずにこっちに笑顔だけを向けて、連れていかれた
それからもうシスターは孤児院には帰って来なかった
シスターがいなくなってから、孤児院の子達が毎日1人また1人と帰って来なくなった
俺はシスターが帰って来なくなってから、ずっとシスターを探していた
ある日、俺が暗い人は誰も通らないような裏路地で1人の女性が壁にもたれかかって倒れているのを見つけた
俺はシスターじゃないようにと願いながら走って駆け寄った
そこに倒れていたのは腕や足が痩せ細り、目もとには隈ができ、元々の綺麗だった顔もひどくやつれ、誰だかわからない状態のシスターがいた
「シスター?シスター!」
「シスター大丈夫!?」
すると、微かに目を開けたシスターがリィーダを見た瞬間、驚きからか大きく目を見開いた
「リィー?」
「そうだよ、リィーだよ」
そう言って近寄っていこうとするリィーダをシスターは激しく拒絶した
「近寄らないで!」
もう声をだすこともできないのか、とても小さな声で掠れているがリィーダの耳にはしっかりとその言葉が聞こえてきた
「な、んで。なんでそんな事言うの?」
すると、シスターは前までの澄んだ瞳ではなく、濁りきった瞳で何か汚らわしいものに対して言うようにこう言った
「お前のような拾った、白髪の忌み子なんか拾わなければよかった。お前を拾ってから次々に災難が起きて今だよ。ふざけるな。私が何をした!何もしていないのになぜ私ばかり…お前もあいつ達みたいになる。だからお前には一生残る苦しみを味あわせてやるよ」
そう言ってシスターは何かを持ってこっちに近寄ってきた
そして俺の手に何かを握らせてこう言ったんだ
「お前はこの事を一生苦しみながら生きていけ」
そう言って、俺の手に握らせたナイフをつかって首もとを掻き切った
俺の手には大量の血と人を切った感触、最後のシスターのニヒルに歪んだ以前とはまったく違う笑顔だけが自分の中に残った
その後の記憶は俺にはない、ただ俺の中にはなんでも、誰でも1人で守れるだけの力がほしいということが胸の中に残った…
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そして10年後、
「明日から王都の国立ミリアン学園に入学だ」
「第1目標友達をつくる!よし、いくか」
これからリィーダの学園生活が始まる