第951話、勝利と犠牲と
「女帝陛下の十二騎士ですから」
俺はヴァリサに向かって一礼した。彼女を取り巻く女帝派の方々にはそのようにアピールしておく必要がある。
何せ彼らの中では、女帝陛下に反逆した大公の一派だと思われているのだ。
「どういうことですか、陛下!?」
案の定、エリシャがヴァリサに噛みつくような勢いで聞いた。
「どうもこうも、わたくしを暗殺から守り、その追っ手の目を避けるために尽力したわたくしの騎士よ」
他に何かありますか、と言えば、女帝派の面々は顔を見合わせる。
「皆を救い、不当な罠で殺されそうになっていた白エルフたちを救った、まさに大英雄。彼なくば、今のわたくしたちはおりません」
この時代でも英雄認定されてしまった。とりあえず、状況説明は彼女に任せたほうがいいかな。
「陛下、一度、浮遊島の様子を確認したく思います。大公派の動きを知っておきたい」
「大義でした。そちらはお任せします」
「はい、陛下」
俺は再び頭を下げて、その場を辞する。タイラントに乗り込もうとした時、先に来ていただろうレウと顔が合った。
「父さん……」
目元が腫れていた。何かを必死に堪える顔を見て、俺は嫌な予感がした。
「どうした?」
どうか外れてくれ。俺の思いをよそに、レウは絞り出すように言った。
「サントンが……死んだ」
・ ・ ・
負傷したサントンを乗せたリダラ・ガルムを護衛したレウ。二人の機体は、離脱する艦隊に合流した。
その時まではサントンは生きていたという。レウはコクピットから降りて、出てきた白エルフに負傷者がいる、と叫んだ。
そしてサントン機の元まで走ったが、機体からそのサントンが降りてこない。慌てて機体を駆け上り、ハッチを開いたところで、レウは血だらけのコクピットに絶句した。
『やあ、レウ……』
『サントン?』
呼びかけたがそれ以上、返事はなかった。動かなくなった彼、そのバイザーを開けた時、安らかな笑みを浮かべて眠るようにサントンは息を引き取っていた。
辿り着き、兄弟の顔を見て、彼はホッとしたのだろう。そのまま魔術人形として作られた13歳の少年はこの世を去ったのだ。
「僕のせいだ……!」
レウは溢れ出る涙を押さえきれなかった。
「僕は、兄さんなのに! あいつを、引っ張ってやんなきゃいけなかったのにぃ!」
「お前のせいじゃない、レウ」
俺はレウを抱きしめた。父さん、と嗚咽を漏らし、レウは俺の肩で泣いた。その声があたりに響き、他の子供たちに伝染した。白エルフたちも、沈痛な表情で俯いている。
サントンは、体は大きかったが、とても優しい子だった。プラモデル作りが趣味で、物を大切にする子だった。口数はあまり多くないが、大抵のことはソツなくこなし、チビたちの面倒見もよかった。
男の子たちの最年長であるレウを支える次男。レウが不安な時や手が足りない時、彼は率先してサポートした。
だが、あの心優しき少年はもういない。
「これが戦争なんだ。人は簡単に死んでしまうんだよ」
そして俺も、お前も、戦場に身を起けば、ふとしたことで死んでしまうこともある。そして忘れてはならないのは、俺たちは『敵』を殺した。
「殺し、殺される、それが武器を持って戦うと言うことだ」
「うう……」
「サントンの体はもう動かない。だが俺たちが彼のことを忘れない限り、彼の魂は俺たちの中で生き続ける」
「魂……?」
レウはわからないと言った。俺は囁いた。
「お前の中のサントンは、何と言っている?」
「……」
押し黙るレウ。亡くなった彼のことを考えたのか。いや、自然と彼の生前が蘇り、レウの口を開かせた。
「『大丈夫だ』と……」
「うん」
「サントンは、大丈夫だと言った」
「そうだな。サントンは、最期までお前の後についてきた。それはお前が頼りになる兄だったからだ」
目頭が熱かった。俺だってこの子たちは一カ月ちょっとだ。だがこの心臓を抉るような痛みは、久しく忘れていた。父さんと呼んでくれた子供たち。俺にとっては、血を分けてなくても、俺の子たちだ。
「これからも、あいつはそばにいて、お前を助けてくれる。あいつのためにも、お前は皆に優しい兄さんでいてくれ」
「うん……」
再び泣き出すレウ。そしていつの間にかディアとアリシャが来ていて、俺たちに抱きついてきた。子供たちの背中をさすりつつ、プラモ好きだったサントンの、その無邪気な笑みを思い出して、涙がこぼれた。
・ ・ ・
転移魔法で、リダラ・ダーハのコクピットに戻り、母港のアミウール戦隊旗艦『エルピス』に帰投した。
グレーニャ姉妹ら、ブルが俺を出迎え、白エルフが艦艇を奪った今回の騒動について語ってきた。軍港はもちろん、艦の乗員たちも動揺を隠せないようだった。
何より、白エルフの逃亡艦隊に、女帝専用の光の魔神機が同行したことが大きな混乱を生んでいるようだった。
光の魔神機セア・アイトリアーは、女帝しか扱えない。そしてヴァリサ女帝は、先日暗殺されたはずだから。
その後、メギス艦長が事態の確認のために俺を訪ねてきたので、リダラ・ダーハで逃げた敵を捜索していたと適当な嘘をついた。
「大丈夫ですか、団長? お加減でも?」
「ああ……。疲れた」
「ごゆっくりお休みください、と言いたいところでありますが、団長に帝国城より出頭要請が入っております」
「白エルフの逃亡艦隊の件だろう」
「団長は、大公閣下の危機をお救いになられたとか」
メギス艦長は温かい表情を浮かべた。
「さすがですな」
「あぁ。……そうだな」
さて、アリバイは作った。大公閣下の前で、敵と戦ってみせたが……はてさて騙せたかどうか。
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