第910話、団長特権
リダラ・ダーハはよい機体だった。
俺は、十二騎士たちが見守る中、リダラ・ダーハを操ってみせた。リダラ・バーンに試し乗りした時の魔力的疲労感はほとんど感じなかった。
魔力を少し取られている、という感覚はあるが、本当に微妙な量だった。
『おお、団長専用機を自在に扱いこなすとは!』
『さすが、ジン様だ!』
外野の声を音響システムが拾っていて、俺にもしっかり聞こえた。俺の団長就任に反発していた者たちも驚いているようだ。
ひとまず、魔神機適性はクリア。正式にリダラ・ダーハを獲得した。
さて、このダーハであるが、重厚な騎士を思わすシルエットに違わず、防御重視の魔神機である。
展開可能なシールドビットが攻防一体の装備として機能しているが、俺の本音を言えば、若干『重い』。
もう少し機動性が欲しい――そう言ったら、ディーシーがそのように機体を改造した。
「実はな、主よ。アヴァルク・カスタムに換わる新型を用意していたのだが、そこで使った技術も投じている」
ここ最近のアポリト軍魔神機や魔人機を解析していたディーシーは、独自に俺専用アーマード・ソルジャーを設計していたらしい。
アポリト軍のリダラ・シリーズやセア・フルトゥナは浮遊石を装備せずとも浮遊や飛行が可能である。その技術を応用した魔法スラスターを、ダーハの各部に増設。シールドビットに、フレキシブルブレードの飛行魔法技術を内蔵したことで、重厚なダーハはスピードと運動性を確保した。
ドヤ顔、ディーシーさん。
「精霊コアも書き換えてやったからな。多少性能がいいゴーレムコアと思ってくれ。あと、我が接続できるように専用端末も作った」
「……整備員たちには、どう言い訳するんだこれ?」
勝手に改造してしまったら、整備員たちが困るだろうに。
「そやつらには、精霊コアが主に合わせて作り替えた、とでも言っておけばよい。どうせアポリトの連中も、あの精霊コアがどういう仕組みなのか理解していない」
「……どうして理解していないんだ?」
それって、ブラックボックスを抱えて動かしているってことだろう? よくそんな危ないことをしてきたな……。何が入っているかわからないシステムをそのまま使ってるなんて。
「設計した奴か、奴らかは知らんが、アポリト軍関係にデータは残っていない。性能がいいから使っている。たとえ、得体の知れないシステムを積んでいてもな」
「……」
気味が悪いな……。魔神機には操縦者も知らない特殊な装備や機能が内蔵されているのかもしれない。
「心配するな。我が解析した精霊コアには、パイロットに害を与えるような機能はインプットされていなかった」
ディーシーは当然と言わんばかりだった。
「だが精霊コアは、操縦者の魔力や思考に応える機能がある。ベルさんが、ASを魔力で作り替えていただろう? あれと同じように機体が変化することはなくはないようだ」
「そういうことなら、問題なさそうだな」
「そう、問題ないよ、主」
いやはや、本当に頼りになるな、このダンジョンコアさんは。
・ ・ ・
俺はアポリト中央島に引っ越した。
これも十二騎士団長の特権というやつだ。なだらかな球形の天井は青、白い壁は清潔感に溢れ、少々未来的。一人で住むには広すぎる、いわゆる豪邸の類だ。
まあ、俺も一人じゃなくて、ディーシーもいるし、メイドさんにカレンとニムがいるけどね。新築ピカピカ、前任者のゴールティン卿の家を取り上げたわけではない。……念のため。
「お帰りなさいませ、ジン様」
「ただいま、カレン」
緑のメイドドレス姿の金髪エルフ美女が、にこりと出迎えてくれる。
「だいぶ笑顔が板についてきたね」
最初の頃は、生きた人形のようだったカレンである。
「ただいまとは言ったが、まだ慣れないな。君は慣れたかい?」
「はい、ジン様に不自由がないよう、すべて慣らしています。何なりとお申し付けください」
「うん、じゃあ今夜は添い寝してもらっていいかな?」
「かしこまりました。精一杯、ご奉仕させていただきます」
「あぁ、夜伽じゃない。あくまで添い寝だ」
……はい、そこで少し残念そうな顔をしない! このエルフさんたちは、俺に仕えている。当然、夜のお世話も職務のうちに入っているのだろう。でも、相手側に好意がない場合は、抱かない主義だ。アーリィーにも怒られるしね。
「失礼ながら、ジン様」
「何だい?」
「私を抱かないのは、好みではないからでしょうか?」
おっと、彼女からそのような言葉が出てくるとは。
「それとも、私がエルフだから……でしょうか」
「職務に忠実なのは感心だけど――」
「いえ、出過ぎたことを申し上げました! 私はエルフです、ジン様が抱くに値しない人形です!」
深く頭を下げるカレン。
「意見するなど、どうぞ、この愚かなエルフを罰してください!」
「……何かあったのかい?」
俺は、たまらず聞いた。アポリト人には奴隷の如く使えているエルフであるが、俺はそういう扱いはしてこなかったし、強要もしていないつもりだ。
「……」
「ジン様」
もうひとりのメイド――緑髪をショートカットにした美女エルフ、ニムが奥のキッチンから現れ、頭を下げた。
「俺の留守中にカレンに何かあったのか?」
「はい、実は――」
ニムが、昼間にあった出来事を教えてくれた。買い物に出かけたカレンが、町の人間の陰口を聞いたのだそうだ。
『白エルフが、上等な格好をしやがって』
このアポリトでは、エルフは人工的に生み出された種族。家畜とまではいかないが、物扱いである。
俺は、エルフを人と同等に扱い、その服装などもメイドドレスながら上等のものを用意させた。それが上等過ぎて顰蹙を買ってしまったようだ。
どうも周囲は、それを認められないようだった。
そして彼女たちエルフもまた、そういう人間ではないという劣等感のようなものがあったようだ。
俺が彼女たちに性的な奉仕を要求しないのは、種族で差別しているから? 冗談じゃない。これでも我慢してるんだ! 嫁の知らないところで浮気はしないだけだ!
しかし、辛い思いをさせたようだ。
「済まなかった。悲しい思いをさせて」
「いえ、そんな!」
「ジン様が悪いことなどございません!」
カレンもニムも慌てて謝ってくる。始めは人形同然だった彼女らも、最近ではずいぶんと表情豊かになったな……。
「立ち話も何だ。食事にしよう。……ニム、用意は?」
「できております、ジン様」
「よし、それじゃそれをいただきながら話をしようじゃないか」
○リダラ・ダーハ:S級魔神機。団長専用とも言われる機体。白銀の騎士を思わす重厚なフォルムを持ち、魔神機の中でも大型。機動性より装甲が重視されている。装備しているシールドビットは、通常時はマントのように見えるが、使用時は操縦者の魔法制御によって独自に飛行。防御のみならず、攻撃にも使用可能。
全高:6.5メートル
武装:魔法剣×2
シールドビット×6
肩部魔砲×2
アームキューブ×2




