第905話、ぶつかる騎士たち
翌日、十二騎士選抜大会、決勝リーグの開幕。
アポリト浮遊島の五番島にある円形闘技場。まるでローマのコロッセオのような荘厳さ。万を超す観客が詰めかけた会場は、熱気に包まれていた。
女帝陛下、タルギア大公ら首脳陣も専用のボックス席からご観戦。……ふと、ヴェリラルド王国の武術大会を思い出す。あの時は帝国の工作員が王の命を狙っていたが、今回は、そういうことはないよな……?
ここからは現職の十二騎士も参加する。倒せば十二騎士の座に近づくとあって、予選を勝ち抜いた挑戦者たちの鼻息も荒い。
十二騎士志望の予選通過者八名。そして自らのポジションを守りたい現職の十二騎士六名、計十四名が総当たりする。
ルールは昨日の予選と同じ。勝ち数上位九名が、十二騎士だ。
……つまり、このメンツの中で落ちるのは五名。戦績五分五分でも、十二騎士になれる率が高いということだ。
さて、かのディグラートル皇帝並に強い奴はいるか? 俺は、現職の十二騎士――揃いも揃って黒を基調とした装備をまとう連中を見やる。
開催の挨拶として、タルギア大公が参加する戦士たちを激励。栄えあるアポリトを守護する騎士たちよ――うんたらかんたら。
女帝陛下の挨拶はなし。置物のように専用ボックス席から御観覧あそばせるらしい。
なおそのそばには、十二騎士団長ゴノス・ゴールディンも控えていた。いかにも堅物らしく、厳めしそうな顔の大男だ。全然似ていないが、Sランク冒険者のヴォード氏に似たパワータイプの騎士か。
……後で喧嘩を売る相手を見ていたら、大公閣下の演説は終わった。一際高い歓声が上がり、かくて決勝リーグは始まった。
・ ・ ・
俺の初戦の相手は、十二騎士ナンバー6、カファー。痩身の槍使い。
「貴様が噂の流れ人か。強いらしいが、流れ者に十二騎士の座をくれてやるわけにはいかないのでな!」
試合開始早々、カファーの魔法槍が輝く。
「流星雨! この弾幕、躱せるか!?」
圧倒的多数の槍、その穂先が飛んできた。射程もくそもあったものじゃない。初見、回避不能! ――だがな!
「!? 消えた、だと!?」
人が避ける隙間さえない多数の槍。俺は短距離転移で回避、そのままカファーの後ろに現れる。
「うし――!?」
俺に気づいたカファーだったが、魔力をまとわせたひじ打ちが、彼の側頭部を直撃。魔力で増幅された一撃に、槍使いの体が回転しながら飛んで、そのままリングアウトした。
まずは一勝。瞬間転移に、観衆はどよめきが収まらなかった。少々うるさい……。
「さすがですね、ジン様」
従騎士のクルフが声をかけてきた。
「うん、まあ、君も頑張って」
「はい!」
従騎士であり、同時に生徒でもある彼の奮戦を期待しよう。俺は休憩所に下がる。
初戦突破とはいえ、さすが十二騎士の一角だ。予め得意技や戦い方を聞いておかなかったら、後れを取ったかもしれない。あの槍の多重攻撃、見事だといわざるを得ない。
もしウィリディス勢が、あれと戦ったら誰が勝てたかな……。ベルさんなら勝ちは揺るがないが、他のメンツだと……いるかなぁ。
休憩所のモニターで、他参加者の試合を観戦する。俺の試合も同じように見られているから、後半で当たる奴ほどこちらに対策をしてくるだろう。ほどよく疲れてきた連中が、小細工を使ったり、まあ、読み合いだろうな。
さて、クルフは危なげなく勝ち、レオスも十二騎士の下位相手に勝ちを拾った。気掛かりなのは消耗具合。何せ、まだ一戦目だ。まだまだ先は長い。
「まあ、それも込みで、選抜なんだろうけど」
騎士たるもの、体力がなくてはいけない。素養で言うなら、短距離走ではなく長距離走向けのスタイルが望ましい。
順調に一回戦が進捗。一回りで四十分くらいか。
続いて第二戦目。相手は予選グループ突破者。なお一回戦、クルフと当たって負けた騎士だ。俺も剣で戦ってあげよう……。
試合開始。盾を前面に出して、様子見の騎士。俺はゆっくりと歩み寄ると、床を一部分だけ持ち上げる魔法で相手の足元を崩す。バランスを取ろうと踏ん張る相手だが、そこでできた隙を見逃さず、剣を叩き込んで一撃KO。……十三秒ってところかな。
俺の試合だけ、あっという間に終わってしまう。今回は十二騎士じゃなかったしな。
休憩所に戻り、また四十分くらいお休み。クルフは十二騎士に負け、レオスは勝った。正面からの打ち合い殴り合いで、お客は喜んでいるが、果たして最後まで体力持つんだろうか、彼は。
・ ・ ・
三回戦目の相手はクルフだった。
俺のもとで、主に魔法を教わっている彼。彼は二刀流の騎士であり、手数が多いが、類別するとバランス型だ。
それがここにきて、魔法を伸ばしたものだから、その実力はかなり跳ね上がっていた。何気に予選グループでは、俺と同じく全勝で勝ち上がった。
加速魔法で、俺の周りを駆けつつ、両手に剣を持ったまま詠唱で投射魔法を打ち込んでくる。
俺は剣に魔法弾きの魔法をかけて、放たれた氷弾、炎弾、電撃弾を器用に跳ね返す。
「さすがです、ジン様」
その瞬間、俺の足もとが持ち上がり、グラリと揺れた。姿勢が崩れたところで、クルフは飛び込んできた。
俺が二回戦でやった策だ。――うん、お前、俺のやることなすこと、すぐにコピーして取り込もうとしてたもんな。熱心なのは結構だが、でも迂闊だぞ、クルフ君。
飛び込んできたクルフ。
「障壁を張っているんでしょう? でもその破り方は障壁で中和して――」
「残念。障壁じゃないんだ」
重力魔法、発動。クルフは通常重力の数倍の負荷を突然かけられ、床へと引っ張られる!
「いちおう聞くが、もし俺が転移魔法で避けたら、次はどうするつもりだった?」
クルフの頭に剣を当て、その衝撃で倒す。……すまんな、これも勝負だ。
彼は連敗。そして俺は三連勝。
休憩所へ戻る途中、さっそくクルフがやってきた。
「負けました。やはりあなたは底が知れない」
随分とさっぱりした口調の彼。ある程度、負けるのを見越していたのだろうか。負けが先行したのだが、さほど深刻さはない。
「直接対決は終わりました。……ジン様、よろしければ、今後の対戦相手の攻略の助言をいただけますか?」
「ちゃっかりしているな」
俺だって初対決の相手ばかりだぞ。
「最終的に、上位九名に入ればいいわけですから」
クルフは、モニターの試合を見る。
「ここから全勝すれば、何も問題はないわけですし」
「そうだな」
繰り返すが、直接対決は済んだわけで、ヒントくらいは先生として教えるのはいいだろう。その代わり、俺も相手のことで質問するかもしれないからよろしくな。
「いや……全勝は難しいかもしれませんね」
クルフが目を細めた。
「何せ、『彼』がいますから」




