第845話、保護した少女と襲撃者
世界樹遺跡で、謎の少女を発見したリーレと橿原トモミ。
とりあえずカプセルを開けてみよう、というのがリーレ。少し調べてからのほうが、というのがトモミ。
だがこの場合、リーレのほうが早かった。彼女は不死身の魔獣戦士。何らかのトラップ的なものに不意打ちされたところで死なない。
それ故の手の速さだが、こういう相棒の行動にはトモミも少々頭を痛めている。もし複数巻き込まれ型のトラップだったら、自分が巻き添えを食らう。トモミは戦士であっても不死身ではなく、事実、この異世界で何度も死にかけている。
いや、それより、そのカプセルが少女の延命装置とかだったら、勝手に開けたらまずくないか――
だがさっさとカプセルを正規の手順ではなく、力技で開けてしまうリーレ。出身世界のせいか、時々野蛮人っぽく見える。
……これ絶対直せないやつ――呆れるトモミをよそに、リーレは少女の首筋に手を当てる。
「……脈はある。かすかだが、生きてるぞこれ!」
生きている! このいつ滅びたかわからない魔法文明時代の遺物で! トモミはその事実に少なからず驚いてしまう。
「で、どうするのですか、リーレ?」
「これここに閉じ込められていたんだぜ。なら決まってる、連れて帰る」
「決まってるんですか?」と言ったのはシェイプシフター・クルーのスーク。相棒のルータの顔を見て、互いに肩をすくめている。
とか言っている間に、リーレは眠っている少女を肩に担ぎ上げる。
すると、それまで緑色の光を放っていた装置が止まった。ふっと光が消え、ルータが慌てて携帯照明のスイッチを入れた。
「止まったな……。まあいい、魔力をこの娘から吸い取っていたみたいだし」
「そうなのですか?」
リーレの発言にトモミは驚く。もしそうなら、確かに早々に救助すべきだったかもしれない。
「スーク! クリーズにこれから戻ると伝えろ。あとウィリディスのジンにも報告な!」
「おれはルータです」
「んなもん、どっちでもいいだろう。早くしろ」
ルータとスーク、そしてクリーズの三人のシェイプシフター・クルー。クリーズは体躯がでかいのでわかるが、ルータとスークはそっくり双子と見まがうほどの激似である。
リーレに言わせれば、そっくりなのが悪いのだが、トモミは初めて自己紹介された時の印象を第一にして、彼らにそっくりなままでとお願いしたのだ。
閑話休題。
少女を運びながら、ワンダラー号の元に戻る一行。少女は目を覚まさず、ぐったりしたまま。人形みたい、とトモミは思った。
トモミはリーレから少女を預かると船室のベッドへと運ぶ。見た目は女子高生、中身は剛腕戦士である彼女である。少女のひとりくらい簡単に運べる。
その間に、リーレは操縦席に行った。
「クリーズ!」
「いつでも出せます」
操縦席から副操縦席へ移動するクリーズ。リーレは操縦席についた。
「オーケー、それじゃ遺跡を出て、魔力消失空間から出る。そこで護衛の連中と合流してポータルジャンプだ」
「了解」
「通信はどうなってる?」
「護衛の連中を通して、ウィリディス、それとキャスリングに報告しておきました」
「上出来」
リーレは、戻るまでに待機状態だったワンダラー号の発進手順を進めた。この辺りは慣れたもので、流れるように作業を終える。
「船長、ひょっとして急いでます?」
問うクリーズに、リーレは操縦桿を握った。
「脈が弱かったからな。だいぶ弱ってるみたいだし、早いとこ医者に診せたほうがいいだろう」
なるほど、とクリーズは頷いた。
ふわりと、浮遊装置で浮かび上がるワンダラー号。折れた世界樹の穴から外へ飛び出し、南西方向へ針路を取る。
「妙だな……」
クリーズが燃料魔力計を睨む。
「魔力が減ってない……?」
「冗談、壊れてねえよな? ここは魔力がない空間だぞ? エンジン吹かしてたら、燃料だって――減ってない?」
リーレも計器に目をやる。
「魔力吸収装置が動いている?」
「どうやら、大気に魔力が含まれているようです」
クリーズはキャノビーから外を見た。
「魔力消失空間じゃなくなった……?」
「どういうこったい」
わからない。何かが起きている。
「まあ、とりあえず、燃料の心配がなくなったってことだな」
「そのようで」
同意するクリーズだが、すぐに通信機が音を立てた。
『ワンダラー号、こちらエスコート・コントロール。周辺一帯の魔力の回復を確認――』
護衛部隊からの通信だった。原因はわからないが、魔力が戻ったらしいのは知ってるよ、とリーレは内心ニヤニヤする。
『――報告。魔法文明時代の航空機と思われる物体が8機、出現。急速にそちらに近づく』
「え……?」
魔力文明の航空機が現れた。それもワンダラー号に近づいていると言う。リーレは目を丸くした。
まったく意味がわからない。
『――おそらく大帝国所属機と思われる。注意されたし』
「大帝国だって?」
魔法文明時代の、じゃなかったのか? 疑問に思うリーレ。クリーズは護衛部隊からの送信されたデータを確認する。
「大帝国が遺跡発掘をして、そこで手に入れたやつらしいですね。推定データですが、ワンダラー号より足が速そうです」
「くそが」
スロットル全開。リーレはワンダラー号を最大速度で飛ばす。広がる荒野、地平すれすれに高度を落とす。
「防御シールド」
クリーズはスイッチを入れる
「ルータ、スーク! 銃座につけ!」
シェイプシフター・クルーが、ワンダラー号の銃座へと駆け込む。船体上面と下面に一基ずつ、マギア砲が搭載されているのだ。
ワンダラー号はインフィニーエンジンを唸らせる。あまりに高度が低くて、地表の砂が舞った。下部銃座のスークは、さぞ肝を冷やしているだろう。……シェイプシフターに冷やす肝があれば、だが。
「魔力レーダー、飛行体捕捉。その数8」
見えた。右斜め後方から移動する高速飛行体。航空機の機首に円盤状の胴体を持つ機体だ。間違いなく、ワンダラー号を追尾している。
なかなか整った編隊飛行で、練度の高さを見せつける。追いつかれるのも時間の問題だ。
リーレは乾いた唇を舌で湿らせる。こっちは小型輸送船。向こうはたぶん戦闘機だ。まともにやりあえば勝ち目なし。
アドレナリンが弾けまくっている。久々の戦闘前の昂揚感。
「さらに魔力レーダーに反応!」
クリーズが報告した。正面上方より新たな機影――
「IFFに反応。護衛機です!」
敵味方識別装置が返答を受け取った。護衛部隊の空母『ビンディケーター』から緊急発艦した援護機が飛来したのだ。
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Web版、次話は明日9日も更新予定




