第776話、砲弾の嵐
英雄魔術師はのんびり暮らしたい、1巻TOブックスより発売中。
ソードナイト大隊は、三個AS中隊から編成されている。
AS定数は一個中隊につき二十四機。六機ずつで小隊を編成し、それが四個集まる。
第一AS中隊は、マッドハンターが指揮し、ウィリディスの陸上部隊の中で、もっとも戦闘経験が豊富だ。ここ最近、連合国とその周辺でファントム・アンガーの傭兵部隊として戦っているためだ。
なお、マッドハンターはソードナイト大隊の一個中隊だけでなく、シェイプシフター兵が使用する鹵獲した甲鎧、カリッグの二個中隊も指揮して、連合国戦線で活動していたから、実質は大隊長だった。
これらに加え、今回初参戦のビートル中隊――ナースホルンケーファー多脚戦車中隊は増強中隊二十輛で戦場に姿を現した。
六本の脚を持つ歩行戦車がノシノシと歩くさまは、鋼鉄の魔獣を思わせる。その一本の角の如く突き出た長砲身88ミリ砲が火を噴けば、部隊を再編成中だった帝国兵たちは音速を超えて飛翔した砲弾に吹き飛ばされていった。
帝国のⅡ型砲戦車が、この歩行する戦車に砲を向けるが、短砲身の57ミリ砲では届くはずもなく、次々にアウトレンジされ玩具のように四散した。強力な88ミリ砲の威力に対抗する装甲がないⅡ型砲戦車は、ブリキ缶のように破壊されていく。
そこへ、マッドハンター率いる第一AS中隊と、鹵獲カリッグの二個中隊がホバーよろしく滑るように突撃を開始。イールⅡによってすでに戦意を大きく削られていた帝国兵たちは、集結したのもつかの間、戦う気力を根こそぎ奪われてしまった。
始まったのは逃走。軍団先頭を形成していた部隊は完全に崩壊した。
そして敵右翼でも俺たちAS第二、第三中隊が暴れ回った結果、こちらでも敵兵が戦意を喪失し、逃げ出しはじめた。
『まあ、無理もねえわな』
ベルさんのブラックナイトが大剣を振り回す。逃げる兵に対して、そもそも戦意なるものが存在しないゴーレムは、なおも前進を続け――ベルさんの手により次々に破壊されていった。
まるで一分間に何体破壊できるか試しているかのように、流れるようにゴーレムが瓦礫へと変えられていく。
追い打ちをかけるソードナイト大隊。俺も魔法で流星雨さながら岩の雨を降らして、ゴーレムや甲鎧を破壊、敵兵を追い立てた。
『ウィザード、こちらガーディアン』
第二中隊を率いる近衛のオリビア隊長の声が通信機から響いた。
『部隊の携帯弾数が半分を切りました』
だいぶ派手にやっているからな。俺は、第三中隊の各機にも残弾報告をさせる。
数では大帝国のほうが圧倒的に上。奇襲を仕掛けたとはいえ、少数で仕掛けた上で敵に混乱、そして壊乱まで持ち込むには弾を節約している余裕などなかった。まあ、それだけ派手に撃ちまくったからこそ、敵はこちらを過大認識して逃げ腰になっているんだけどな。
ポイニクスから送られてくる敵情を改めて確認する。六万を数えた敵兵は、いまやその半分ほどに減っていた。俺たちファントム・アンガーが攻撃した前衛、右翼は崩れたが、軍の後方にいた連中は損害が軽微で、また再編が終わったらしく、進撃の構えをとっていた。……敵戦車が集結して、横陣を展開しているな。砲撃してこちらに損害を与えようって腹だろうが、こちらも射撃武器があるから一方的にはならない。が、やはり多数の砲が並ぶのは面白くない。
『敵さんは逃げないんだな』
ベルさんが皮肉る。普通の軍隊なら、数が半減したら撤退も視野に入れる。少なからず通信装備を持っている大帝国はよく持ちこたえているが、この世界の通常の軍隊なら、一部でも崩れたら、どれだけ数がいようと全面崩壊もありうる。
『こちらが少数だと判断したのでは?』
サキリスのアヴァルク・ヴァルキリーが俺の機体に近づきながら言った。
『数においては、こちらは向こうの三百分の一程度ですし』
そう、普通なら一捻りにされる物量差なんだけどね。機械兵器中心とはいえ、数字だけみたら、これで戦いを挑むなんて正気を疑われるな。もっとも、俺だって勝算もなく仕掛けたりはしないよ。
「連中にとっては、ファントム・アンガーは、東方方面軍を傾けてでも倒しておきたいということなんだろう」
邪魔な傭兵軍さえ始末してしまえば、残るは弱体の連合国だけ。それならば多くを犠牲にしてでも、ファントム・アンガーを殲滅しておきたい、ということだ。屍が山になっても。
『確かに、物量は厄介ですわね』
サキリスの機体が、装備する騎兵槍型ランスに、魔力パックを装填する。このマギアランスは、実体型の槍としても魔弾を放つ武器としても使える武器だ。
『弾薬が欠乏すれば、やがては殲滅されてしまうでしょうから』
「ま、そこまで消耗するつもりはない」
俺のアヴァルクは天を見上げた。あいにくの曇り空。……いや、それは隠れ蓑。
今、空母機動部隊は、前衛の魔獣群に対応していて、突撃隊の艦艇も敵空中艦隊に対処している。
ウィリディスの主力艦隊は使えない。だが、用意していた別の艦隊がある。
「では連中に、数の暴力というのを教えて差し上げよう。ウィザードより同盟艦隊、全艦前進!」
俺の命令は、ただちに待機中の艦隊に届いた。
擬装雲から、次々に艦艇が姿を現した。その数六十隻。ヘビークルーザー二十、航空型クルーザー十、護衛艦三十がその顔ぶれだ。
そう、廉価兵器計画で、連合国向けに建造した艦艇群だ。どうせ連合国に配るのだから、その前に実戦で使ってしまえという魂胆だ。
もちろん、納品前に大きな傷をつけるわけにもいかないので、制空権を確保して、敵の攻撃の届かない範囲で使う。
だが、大帝国には、こちらの都合など知るはずもない。
故に、空軍の空中艦隊しか見たことがない陸軍連中は、それに比肩する規模の大艦隊が空を支配することに驚愕し、呆然となるのだ。
・ ・ ・
ゴーレムコア、シェイプシフター兵が運用する連合国艦艇は、各主砲の砲門を開き、地上の東方方面軍に砲撃を開始した。
プラズマカノンは搭載していないため、大帝国艦同様に実体弾だ。重巡洋艦の20.3センチ連装砲、護衛艦の12.7センチ連装砲が噴煙を上げて、砲弾を地上に叩き込んだ。
これまで帝国の空中艦隊が、連合国地上軍を一方的に叩いたように、今度は帝国陸軍将兵が、空中からの艦砲射撃にさらされることとなった。
さらに航空巡洋艦、その後部飛行甲板から、ストームダガー戦闘機、タロン艦上爆撃機が発艦。大帝国軍に爆弾の雨を見舞った。
もはや三万の軍勢とて、ひとたまりもなかった。地上に具現化した地獄は、帝国将兵の命を刈りとり、本当のあの世へと肉体から魂を抜き出していった。
大帝国東方方面軍司令官であるコパル将軍は、全軍に退却命令を出し、ここにレアルタ・ラヴァッハ作戦は失敗に終わった。
ウーラムゴリサ王国を攻略し、さらに迎撃に出てくるファントム・アンガーを撃滅する作戦は、東方方面軍主力に多大なる損害を強いた。
およそ五万五千人以上が戦死ないし行方不明となり、自軍勢力圏にたどり着いた部隊もほとんどが装備を失い、戦力として機能していない有様だった。
空軍もまた、空中艦隊の主力を失い、ここに、大帝国東方方面軍は事実上壊滅した。
連合国提供艦:廉価兵器製造計画で作られた、連合国への輸出兵器群、その航空艦艇。第一段階として、重巡洋艦、航空巡洋艦、護衛艦、輸送艦の四タイプが、アリエス浮遊島軍港にて建造された。
非常に簡略化された設計であり、共通ブロックの多用、共通規格の採用により、魔力コストを抑えつつ、早期建造が可能な仕様となっている(計画中のウィリディス艦艇やウィリディス式帝国艦と、艦橋の位置や主砲配置、外装に違いはあれど、中のブロック構造に共通点も多い)。
ゴーレムエスコートと異なり、乗員を乗せるが、艦の制御にはコピーコアを用いることで必要な乗員数を減らしている(連合国の兵、士官の大量育成、その期間のなさを考慮。またジンは、連合国兵の乗員不足を、大量のシェイプシフター兵によってカバーすることを考えている。これにより表向き連合国軍としながらも、実質、ウィリディス軍としての活動、連携を取りやすくする目論見である)。
連合重巡:全長150メートル
機関:魔力推進式エンジン×2
武装:20.3センチ連装砲×3
12.7センチ単装砲×12
対空機銃×12
連合護衛艦:全長90メートル
機関:魔力推進式小型エンジン×3
武装:12.7センチ連装砲×3
53.3センチ三連装ミサイルランチャー×2
対空機銃×10
連合航空巡洋艦:全長160メートル
機関:魔力推進式エンジン×2
武装:20.3センチ連装砲×2
対空機銃×20
艦載機:小型戦闘機30機




