第774話、エツィオーグの刃
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イービス率いるエツィオーグ隊は、ファントム・アンガーの戦闘機隊の迎撃を受けていた。
偵察機の観測、誘導を受けたストームダガー戦闘機隊は、エツィオーグ隊の後方に回り込み、追い上げながら、空対空ミサイルを発射。
簡易ゴーレムコア搭載の誘導ミサイルは、スティックライダーを追尾したが、きちんと命中したのは三分の一以下だった。
というのも、スティックライダーが小さ過ぎる上に、機敏だったためである。ただ、その小回りで直撃こそ回避したものの、爆風と衝撃波にあおられ、地面や木に激突して果てる飛行魔術師もいた。
ミサイルの後は、近接しての機関砲やプラズマカノンの掃射だが、エツィオーグたちはその小ささゆえに、器用に立ち回った。むろん、一発でもかすめればそれでおしまいというシビアなものではあったが。
飛行魔術師たちは、迎撃をかいくぐり前進する。
『障壁を張れる者は障壁を張れ!』
イービスは魔力念話で呼びかける。敵戦闘機の一撃なら何とか耐えられる。連続して喰らえばやられてしまうのだが、その一発だけでも生存率に雲泥の差があると言ってもいい。……しかし。
懸命に回避しながら飛ばすイービスは表情がより厳しくなった。三十人はいた飛行魔術師が、もう半分も残っていない。
携行している爆弾槍で反撃し、敵機を撃墜した仲間もいたが、明らかに劣勢。すでに二波の攻撃を受けて、まだファントム・アンガー艦隊は見えない。
このまま目的のものを見る前に全滅してしまうのではないか……? 不安がイービスの脳裏をよぎる。
『この作戦の成否は、貴様らエツィオーグの働きにかかっている!』
出撃前の指揮官の訓示がよぎる。見返してやれ、と言った彼の言葉に、若い飛行魔術師たちは戦意を漲らせたようだったが、イービスには指揮官のそれが上辺だけの言葉だというのがわかった。
彼は、エツィオーグたちがいくら死のうとも悲しんだりはしない。ただ作戦が失敗した際は怒りのぶつけどころを探すだろうから、何の成果もなく、おめおめと帰るわけにはいかなかった。
つまり、我々は死ぬしかないということだ。
イービスは自嘲する。それが彼らの本音だ。道具なら壊れるまで使え、である。
『見えた、イービス! 雲の間!』
仲間の声に顔が上がる。空の上に見える小さな点。それが規則的に横一列に並んでいる。雲が多いが、その切れ目の間に、確かにそれは見えた。
『全員、上昇! 敵艦隊へ突撃っ!』
スティックライダーを急上昇させるイービス。加速装置に魔力を投じてスピードアップ。ロケットさながらの加速でエンツォーグたちは急角度を描いて、天へと飛翔した。
それは一時的にストームダガー戦闘機を振り切った。だがイービスを入れても、その数は五機しか残っていない。
さらに悪いことに、ファントム・アンガー艦隊の方から、さらに戦闘機が降ってくる。空中で待機していた迎撃隊だ。それらが艦隊とイービスたちの間にあって、猛スピードで急降下してくる。
「障壁!」
誘導弾とプラズマ弾の雨。魔法障壁が砕かれ、敵機がすれ違った時、エツィオーグたちは残り三人になっていた。
「ジール!」
イービスは吠える。生き残りのエツィオーグ――ジールが携帯していた使い捨て魔器を敵艦隊に向けた。紅蓮の禍々しい光が空に向かって放たれた。
直後、血の臭いを嗅ぎつけて集まった鮫の群れのごとく、ファントム・アンガー戦闘機がエツィオーグたちに襲いかかった。
・ ・ ・
黒い光の束が、前衛に配した軽空母の一隻の艦首を下から上へと貫いた。
『イントゥルーダーに直撃!』
見張員の報告が、アーリィーの耳朶を打った。
四隻のリヴェンジ級軽空母のうち左から二番目に位置していた『イントゥルーダー』は、防御シールドを抜かれ、艦首もろとも艦橋が吹き飛んだ。そのまま艦体の前半分が消失。格納庫に達した光により爆弾などが誘爆したらしく、あっという間に火球へとその姿が飲み込まれた。
やられた!
旗艦『レントゥス』の艦橋から、そのまばゆい閃光から目を庇いながら、アーリィーは思わず歯噛みした。
敵は小型の浮遊バイクもどき。こちらの戦闘機隊は、数の利を活かして敵の数を減らしていったが、残念ながら敵の攻撃範囲内に入る前に撃退できなかった。
敵の放った一撃により、空母一隻を喪失したのだから、余計に悔しさが募った。
大帝国を侮ってはいけない。先日のシャドウ・フリートの壊滅で、それを思い知った。ジンからは注意するように言われたし、敵の襲来に備えて艦隊の陣形も変更した。……この隊形変更がなかったら、失ったのは軽空母ではなく、より強力な中型空母だったかもしれない。
最悪は回避したが、素直に喜べる状況でもない。
第二航空戦隊の管制を担うシップコア、エメラルドが報告した。
「アーリィー様、戦闘機隊が接近していた敵機を全て排除しました。敵影、確認できず。偵察機からも新たな敵の報告はありません」
「うん。……作戦に影響は?」
「『イントゥルーダー』の欠により、攻撃力の若干の低下は否めませんが、最小限と判断します。以後の地上支援に支障なしです」
「了解。では、今出ている攻撃隊を収容後、地上攻撃の第四次攻撃隊を編成。それと――」
アーリィーは艦橋から前方に見える軽空母部隊を見やる。
「敵の第二波攻撃に備えて警戒を厳に。これ以上、空母は失えないよ」
「はい、アーリィー様」
エメラルドは首肯した。緑髪の女性軍人姿のシップコアは艦橋後方の戦域ボードへ視線をやる。
「現在、偵察機は、敵攻撃隊の発見ポイントを逆にたどり、敵母艦ないし、攻撃隊を飛ばしてきた拠点を捜索しています」
「SS諜報部が掴んでない敵」
アーリィーは戦域地図を睨む。
「ジンは、必ずその戦力が出てくると言っていた」
「事実、現れました」
そして空母一隻を失った。
「その出所を突き止めて、叩かないといけない」
何故なら、帝国の飛行部隊は、ファントム・アンガーの艦艇を撃沈する能力を持っているからだ。
「近くの帝国拠点にはSS諜報部が目を光らせていたから、彼らが飛んできたのはそのあたりじゃないはず。そうなると、移動するもの――ひょっとしたら二隻目の空母が潜んでいるかもしれない」
「仮に空母であるなら、我々の作戦行動に支障が出る恐れがあります」
「横合いから突かれたら、目も当てられない」
アーリィーは呟き、顔を上げた。
「エメラルド。イールを数機出して、地上の捜索を命じて。もしかしたら、撃墜した敵機の生存者がいるかもしれない」
可能性は低いが、もし捕虜が取れれば、どこから飛んできたのか、敵の所在を掴めるかもしれない。
そう。それだけ、この謎の敵に関する情報が不足しているのだ。藁にもすがるような話だが、手掛かりは何でも欲しいのだ。
エツィオーグ:大帝国の飛行魔術師。キメラウェポンとは別に、人体を改造・強化した。現状、試験段階であり、孤児や売られた子供が素材として使われている。エツォーグとは『翼」の意味。




