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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第773話、陸上戦を前に


 その頃、大帝国東方方面軍の主力侵攻部隊は、先発する魔獣群の後方をゆっくりと進んでいた。


 前衛が耕した土地をのんびり散歩するが如く、帝国将兵たちにはまったりとした空気に包まれていた。魔獣の大群が通った後には敵兵のひとりもいない。すべてを踏み潰した後を、行進するだけの簡単な道中である。


 だが一方でコパル将軍ら東方方面軍司令部はピリピリしていた。その前衛たる魔獣群がファントム・アンガーの航空隊による爆撃を受けて、大きな損害が出たこと、そして空を守る空軍の空中艦隊がほぼ壊滅したことが、通信機のもたらされる情報によって掴めたからだ。


「将軍閣下、いかがされますか?」


 幕僚が、主力軍の進退について伺う。コパル将軍は禿げ上がった自身の頭を撫でながら柔和な笑みを浮かべた。


「いやぁ、さすがに主力が一回も戦わずに引くというのは、我々がよくても他は誰も納得しないよ」

「それは……そうですが」


 強大なディグラートル大帝国、その主力三軍のひとつである陸軍の、その最大戦力たる東方方面軍が、ただの一戦もしないのは末代までの恥ではないか。


 何せ今回は、前衛魔獣四万に主力六万、戦車350、甲鎧400、戦闘ゴーレム2000を、一国に投じている。ヴェリラルド王国に敗北した西方方面軍の戦力の倍の戦力である。前衛の魔獣はともかく、これだけの兵力を率いながら撤退はあり得ない。


「しかし、ファントム・アンガーの航空隊が仕掛けてきたら、我々も……」

「そのファントム・アンガーは今、前衛を叩いておるのだろう?」


 コパル将軍が言えば、幕僚らは顔を見合わせた。


「そこで爆弾などを使い果たしている可能性もある」


 空軍の艦艇が搭載できる爆弾の量、航空ポッド部隊の弾薬消費などを鑑みれば、ファントム・アンガーとて、前衛の魔獣群で相当消耗していると考えられた。


「戦いは数なのだ、諸君。たとえファントム・アンガーの航空隊が我が主力を攻撃してこようとも、すでに魔獣群相手に消耗しているのだから、いくらかやられようとも、こちらが壊滅するほどの損害は出ないよ」


 一種の楽観論じみた物言いではあるが、コパル将軍の口ぶりに幕僚たちは不安が軽くなるのを感じた。

 そうとも、皆、ファントム・アンガーの影に想像以上に怯えているのだ、とコパル将軍は口には出さず飲み込んだ。


 これまで東方方面軍の各戦線で攻撃を仕掛け、相応の被害を大帝国は受けてきた。小規模な奇襲にやられたのもあれば、それなりに規模の大きい戦いでやられたこともある。傭兵軍と言われているファントム・アンガーだが、その兵力に対して補充体制は強固かつ規模が大きいと思われる。


 広い範囲で戦いを繰り広げるには、補給がかなり面倒なはずなのだが、おそらく空中艦を使った空からの移動で、その負担を軽減しているのだろうと思われる。その空中艦を維持するだけでもかなりのものではあるのだが。


「魔獣群はデファンサ城にかかっている。そこを陥として、我々もせめて王都近くまでは進撃したいねぇ」


 コパル将軍のゆったりとした言葉に、幕僚たちは静かに微笑した。

 基本的に、この将軍は無茶を口にしない。上司の控えめに見えて、口にしたことは有言実行してきたこれまでを知る幕僚たちは、自然と勝利を確信するのだった。



  ・  ・  ・



 敵小型機、艦隊に接近――その報告は、魔力通信を通して、俺のもとに届いていた。

 さて、ダスカ氏に敵空中艦隊、アーリィーにダスカ氏の支援と敵地上軍への攻撃を任せている俺は、大帝国主力軍に部隊を率いて接近していた。


 強襲揚陸艦戦隊――『フューリアス』『フォーミダル』『カレイジャス』の三隻と、連合国軍向けの輸送艦部隊に、陸戦兵器を満載しての進撃だ。

 こちらは俺、ベルさんにサキリスに近衛隊、リアナらセイバーズ、そして連合国戦線で活躍していたマッドら機動歩兵部隊がいる。


「今回は新兵器のお披露目回でもある」


 俺は『カレイジャス』の格納庫を歩く。

 並べられた全高六メートルほどの機械巨人――アーマード・ソルジャー部隊は、連合国での活動ということで、グラディエーター外装ではなく、アヴェルク外装となっている。ベルさん専用機であるブラックナイトはそのままだ。


「黒騎士もすっかり評判じゃないか」

「関係ないね」


 ベルさんは俺の肩の上で首を振った。ファントム・アンガーの一員として、この魔王様は気が向いたら戦場で大帝国の小部隊を蹴散らしている。ほとんど通り魔みたいなものだが、その黒く、禍々しいASは、連合国でも有名になりつつあった。


「そんなことより、お前さんも出撃するのか?」

「何せ、敵の数が多いからね」


 俺用にカスタマイズされたアヴェルクは灰色塗装。ただし改造されたこの機体は、俺の魔力をダイレクトに増幅してそのまま魔法を使うことができるようになっている。……これって何気に凄いと思うんだ、自分でも。


 ロボット兵器が魔法を使う、ではなく、ロボット兵器に乗りながら、俺が魔法を使う。……わかるかなぁ、この違い。


 腕の手の平にあたる部分に魔力放出口があり、俺が使える魔法は、そのままASに乗っていても使える仕様だ。

 さらにロボットものではお約束武器である遠隔誘導攻撃ユニットも搭載。攻防一体の戦いを披露できるだろう。他にも色々武器を仕込んだ。


「まあ、オイラのブラックナイトも似たような装備はあるけどな」

「発展させた、と言ってほしいね」


 俺が皮肉っぽく言うと、ベルさんは視線を転じた。


「今回は初モノが多いな」


 まあね。ASだけでなく、戦車もまた初参加のものがある。


 アンバンサー戦車顔負けの多脚型戦車『ナースホルンケーファー』である。以前より開発を進めていた多脚型戦車であるが、小型掃討戦車のインセクトより大型で、対装甲兵器用に作られていたものだ。重装甲に強力な火力を併せ持つ六脚型戦車である。


 これとは別に、連合国向けの量産戦車A-1も輸送艦に積んで輸送中。

 そしてイール艦上攻撃機には、対地戦闘用強化ユニットを搭載し、ウィリディス軍で使用するワスプⅡ攻撃機並の活躍を期待している。


「棒みたいな貧弱機が、追加装備つけただけで、一端の攻撃機に見えるってのが面白いよな」


 ベルさんはそう表した。一見すれば、まったく別物。共通しているのは機首に当たるコクピットと二枚の尾翼くらい。後は追加ユニットに覆われている。便宜上、イールⅡ攻撃機とする。


「前々から、イールは装甲やスピードに難があったからね。量産性と汎用性を重視して連合国でも使えるように考えたけど、いざ地上攻撃機に転用する時には、やはりそれなりの性能は欲しいだろ?」


 これらはドワーフやエルフの技師らと、色々やりとりしながら作った新兵器群である。最近の物作りが、もっぱら兵器中心というのは寂しくはある。


「暴れられるのはいいが、わかってるかジン? 多勢に無勢だぞ」


 何せ六万と多数の兵器群に、二百程度の兵器で向かっていくのだから。


「切り札は用意しているよ」


 俺は確信を込めて言った。


「こっちの陸戦兵器群で、どこまでの敵を相手にできるか見てみたい。いよいよヤバくなったら、切り札を投入する」

「戦場で実験するたあ、余裕だねぇ」


 ベルさんは笑った。とても楽しそうだった。

AS-1AJアヴェルク・ジンカスタム:

固定武装:マギアカノーネ内蔵ショルダーシールド×2

     遠隔攻撃端末×6(シールドに搭載)


アーマードソルジャーのアヴェルク外装を装着した機体のジン専用改造機。機体カラーは灰色。グラディエーター外装時に比べて装甲が厚い。操縦者の魔法をそのまま使えるよう改造が施されている。バックパックは高可動ブースター。他、多連装ロケットないしミサイルポッドなどの追加武装を装備可能。



ナースホルンケーファー:

武装:70口径88ミリ戦車砲×1

   マギアカノーネ×2

   20ミリ機関砲×1


ウィリディス製キャスリング基地で作られた多脚型重戦車。六本の脚を持ち、市街地や不整地での移動や戦闘を行う。短時間ながら浮遊によるホバー的移動が可能で、障害物のない地形での高速移動も可能。

ウィリディス戦車で現状最大の88ミリ砲を搭載。同戦車群の中で最大の火力を誇る。大きさだけなら100ミリ以上の砲も積めたが、砲弾の携帯数を勘案して88ミリに抑えた。

強固な装甲を備え、煙幕弾投射器など防御装備も積んでいる。

乗員はドライバー1名、砲手1名で、搭載されたゴーレムコアがサポートする。

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