第772話、突進する者たち
双方が誘導兵器を放ち、それが絡み付くように互いを捉えた。
空対空ミサイルがファウクーン戦闘機を粉微塵に吹き飛ばせば、爆弾槍の直撃を受けたストームダガー戦闘機が四散する。
戦闘機同士の純粋なぶつかり合いは、誘導兵器によりあっけなく幕を下ろした。
そもそも帝国側の数が少なかったこともあるが、まさか自分にミサイルが飛んでくるとは思いもしなかったために回避することもできなかったのが、あっさりと終わってしまった要因と言える。
貴重な戦訓を得られたのは得てして生き残ったほうのみ、である。
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「突撃せよ! 艦隊突撃だーっ!」
ゴルガコフ中将の野太い声が司令塔に木霊する。大帝国第二空中艦隊は、正面からファントム・アンガー突撃隊へと進撃する。
速度ではファントム・アンガー艦が優速だが、双方みるみる距離が縮まるかに見えた。が、ここでファントム・アンガー艦隊は面舵をとった。
「逃げるか!? そうはいくか、取り舵ぃー!」
帝国艦は艦首を、敵艦へと向け、なおも距離を縮めようとする。主砲を命中させられる距離まで近づいて、空中目標への射撃精度を上げようというのがゴルガコフ中将の魂胆だ。
彼は一見、猪突猛進型と思われているが、現状の艦隊練度で遠距離砲戦では、まぐれ当たりも期待できないと理解していたのだ。
だがこれをファントム・アンガー突撃隊、ダスカは待っていた。三列の単縦陣を組んでいた突撃隊は、全主砲を指向し、持てる最大火力を大帝国艦隊に向けた。
プラズマカノンが一斉に光を放ち、帝国の先頭艦――すなわち戦艦に集中した。
丁字戦法。敵艦隊の進路を遮るように自艦隊を進行させ、全主砲火力を敵の先頭に集中、各個撃破していく戦術だ。
ジンからその戦法を聞かされていたダスカは、もちろんそれが彼の世界――日露戦争における日本艦隊がとってロシア艦隊を撃滅した戦法であることは知らない。
「前方の艦に砲撃を集中。撃て!」
Ⅰ型クルーザーは15.2センチ砲、コルベットは12.7センチ砲を撃ちまくる。通常のプラズマカノンでも戦艦に打撃を与えられたが、アンバル級と同等の強化型プラズマカノンは、さらに強力な一撃を叩き込む。
丁字を描くファントム・アンガー艦隊。その射撃は、しゃにむに突撃する敵には有効だった。ファントム・アンガー艦は、大帝国艦より足が速く、どうしても距離を詰めたい彼らを引き離しながら一方的に叩いたのだ。
帝国艦が追いすがり、丁字が崩れても、ファントム・アンガー艦隊は速度を活かして引き離すと、ターンして再び丁字に持ち込んで帝国第二艦隊を沈めていった。
第二艦隊司令長官ゴルガコフ中将、戦死。戦闘機同士の航空戦も、ファントム・アンガー側が制し、かくて、空中での戦い、第一ラウンドは終わりを告げた。
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MMB-5の生み出した魔獣群を爆撃したファントム・アンガー航空隊。戦場に爆弾を落とすという宅配作業を終えて、母艦群に帰投する。
だが、大帝国のファントム・アンガー艦隊撃滅作戦は続いていた。
彼らは密かにファントム・アンガー航空隊を追尾。送り狼となり、その母艦群を攻撃しようと高速で追尾していた。
エツィオーグ――大帝国の飛行魔術師たちはスティックライダーを駆り、爆弾槍をはじめ魔法兵器を携帯し、超低空をかっ飛んでいく。
イービス隊。魔法軍所属のエツィオーグたち。
十代の少年、少女を改造した強化魔術師部隊は、スルペルサ空域航空戦で仲間のフィガが、ファントム・アンガー空母に一矢報いたのを知っている。いや、彼女の送ってきた視覚情報を、改めて映像として見せられていた。
半分は、暴走した挙げ句死んだフィガを馬鹿だと思った。彼女は生意気だったから、ざまあないと口にした者もいた。だが半分は、仲間の死を悲しみ、復讐の機会を窺っていた。
指揮官を務めるイービスは、十七歳で、エツィオーグたちの最年長だ。物腰は柔らかで、兄のような存在である。
だが、成績優秀で魔法軍からの覚えもいい彼は何かと優遇されていたことので、それを面白く思っていない者たちもいた。
イービスは、フィガを嫌っていなかったが、彼女の愚かな行動は残念に思った。だが彼は年長者としてエツィオーグたちを弟や妹の面倒を見る兄のように接している。故にカタキはとってやらねば、という念は持ち合わせていた。
『バーン、ファントム・アンガー機の姿がほとんど見えなくなってる。ラウラスはちゃんと見えているのか?』
魔力念話で呼びかければ、視覚強化をしている同僚であり部下の少年が返答した。
『ラウラスはちゃんとやってるよ、イービス。そもそもこのスティックライダーと、連中の飛行機じゃ速度が違うんだから、いい加減、母艦見つけないと、ラウラスだって見失っちまうよ!』
『ああ、わかってる』
イービスは、苛立ちを心の底に押し込める。ここでそれを露わにしたところで、状況がよくなるわけではない。精神のコントロール、それが上手くやれたからこそ、彼は魔法軍から一定の評価を得ているのだ。
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地上すれすれを飛行するスティックライダーの編隊を、ファントム・アンガー艦隊より飛び立ったドラゴンフライ偵察機が捉えていた。
艦隊に接近する小型飛翔部隊を捕捉せり――偵察機の通報は、空母『レントゥス』のアーリィーのもとに届いた。
「例の『ビンディケーター』をやった奴の部隊だね」
単機による奇襲で、軽空母一隻が損傷した。当然、帝国側は一度成功しているからそれに近い戦法をとってくるだろうし、逆にやられたファントム・アンガーは、二度目はないとばかりに対策を考えるものである。
「制空戦闘機隊に迎撃を指示」
対策といってもやれることなんて決まっているのだが。
「防空シフトD、発令。敵は小型機……何機か防空ラインを超えてくるかもしれない」
「はい、アーリィー様」
エメラルドが頷き、空母艦隊の陣形変更が行われる。『レントゥス』以下、中型空母戦隊は高度を上げ、代わりに『リヴェンジ』ら軽空母戦隊が前に出る。敵進行方向上に配置し、発見された際、敵の注意を吸引するのが目的だ。
より重要な戦力を守るために、差し出された壁、あるいは生贄。なかなか容赦のない策だが、ジン曰く、実際に用いられた戦術らしい。どこの軍隊がそのような策を使ったのかアーリィーは知らないが、前面に出る軽空母に、人間が乗っていないのが唯一の慰めと言えた。
軽空母群が横一列に並び、前に出ながら、ゴーレム・エスコートが護衛位置につく。いくら囮役とはいえ、無防備に叩かれるわけにはいかない。被弾しないにこしたことはないのだ。
「ファイタースコードロン1、および2、迎撃ポジションへ。ファイタースコードロン3、4は中間地点にて待機」
エメラルドが航空隊へ指示を飛ばす。この複数部隊による迎撃で、どこまで敵機を排除できるのか。
アーリィーはそのヒスイ色の瞳をじっとモニターへと注ぐのだった。
ファウクーン艦上戦闘機:大帝国製の戦闘機。ベースは航空ポッドだが、異世界人の知識から、航空機の形に仕上がっている。従来の航空機より格段に速度が向上している。武装は魔法弾を発射する魔法砲1門のほか、誘導式爆弾槍を最大6発、搭載することができる。




