第771話、デファンサ領空会戦
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ファントム・アンガー突撃隊が、大帝国第一艦隊の艦列に突入し、超近接砲撃戦を仕掛けた。
その結果、第一艦隊旗艦『コヴァルク』は艦橋と司令塔を吹き飛ばされ、艦隊司令長官であるスラヅィ大将が戦死。ほか戦艦一隻が強化型プラズマカノンによる撃沈、二隻が中破相当の被害を受けた。
他、クルーザー四隻、コルベット八隻が撃沈され、五隻が損傷の大きな被害を受けた。
第一艦隊は指揮官を失ったことも相まって、混乱の極致に達した。
その間に、軽微な損傷を受けつつも全艦艇が健在なファントム・アンガー突撃隊は大帝国第一艦隊から急速離脱した。
その先は、艦隊後方を進んでいた大帝国の空母航空戦隊。艦艇群が空母に襲いかからんと突進した。
この時、大帝国第二艦隊は、第一艦隊旗艦の沈黙を見て取り、ファントム・アンガー艦隊への追撃を開始した。敵が空母部隊に向かっているとなれば、そうするしかなかったとも言える。
全艦、一斉回頭。その列を乱さない艦隊行動は練度の高さを物語る。
だか浮遊石とレシプロ機関の組み合わせで航行する帝国艦では、強力な機械文明時代のエンジンで動くファントム・アンガー艦に追いつくのは不可能だった。
慌てたのは、突進される側である大帝国空母航空戦隊である。
指揮官であるルアス航空戦隊司令は、護衛艦隊に前進を命じ、次の命令を発した。
「全航空機、緊急発艦! ポッドも出せ!」
「司令、戦闘機は対航空機用装備でありますが!」
艦艇を攻撃しても大した被害は与えられない。艦長が叫んだが、ルアス司令は正面を見据えたまま怒鳴った。
「母艦ごと戦闘機を失うわけにはいかんのだ! さっさと出せぃ!」
命令を受け、大帝国空母――スィールシャの飛行甲板から、待機していた戦闘機が相次いで飛び立った。
全長170メートル。Ⅱ型クルーザーと輸送艦を合成したようなシルエットで、奇しくもウィリディスで改造された軽空母に似ている。元々ベースになった艦が同じということもあるが。
艦の右舷側に島型艦橋を備えた『スィールシャ』は、ウィリディス空母と違って側面発艦口を持たないため、すべて飛行甲板に艦載機を上げてからでないと出撃させられない。
即応機が飛び立ち、空になった飛行甲板に格納庫からエレベーターを使って新たな機体を持ち上げる。その作業が進む中、ファントム・アンガー突撃隊は、空母航空戦隊の護衛艦艇に、狼の群れの如く襲いかかった。
プラズマカノンによる先制は、たちまち護衛艦隊の半数を撃沈破。勢いそのままに空母航空戦隊に突進する。
「クソッタレぇ!」
ルアス司令が忌々しげに吐き捨てる。
空母戦隊は反転して離脱しようとするも、とても逃げ切れそうになかった。さながら平原を駆ける歩兵と騎兵ほどの速度差。ファントム・アンガークルーザーの光弾が、立て続けに艦体に直撃。スィールシャ号、そして仮設軽空母はたちまち炎に包まれ、吹き飛んだのだった。
・ ・ ・
一方、ファントム・アンガー艦に荒らされ、混乱状態の第一艦隊は何とか立て直そうとしている最中だった。次席指揮官である戦艦戦隊司令が、残存艦を取りまとめているところに、次の災厄が降りかかる。
大型対艦ミサイルによる遠距離攻撃。それらが第一艦隊に襲いかかったのだ。
ファントム・アンガー空母機動部隊から放たれた攻撃部隊――ストームダガー戦闘機48機と、イール艦上攻撃機108機の合計156機が戦場に到達。イールが懸架してきた大型対艦ミサイルの、およそ半分になる百発が、第一艦隊艦艇に次々に突き刺さり、無数の大きな爆発を引き起こした。
四散、または煙を引きながら墜落していく帝国空中艦。強固な装甲に守られた戦艦も例外ではなく、七、八発の対艦ミサイルを受けて爆沈する艦が相次いだ。
英雄魔術師の策により、大帝国第一艦隊は、ほとんど抵抗することもできずに壊滅する羽目となった。
そしてアーリィーの放った攻撃隊は、残る帝国第二艦隊への攻撃を仕掛けた。イール艦上攻撃機の半数が、残る百発近くの対艦ミサイルを発射、そして離脱を図る。
この時、第二空中艦隊を指揮していたのは、イーゴリ・ゴルガコフ中将。角張った顔つきの指揮官は、ただちに航空ポッド部隊を展開、対空戦闘を命じた。
長距離射程の魔法杖による人力対空射撃。ないよりマシなこの対空手段は、数発の迎撃に成功した。だがすべてを防ぎきることはできず、また緊急展開した直掩の航空ポッドも間に合わず、次々に被弾した。
正面からミサイルの直撃を受けたクルーザーが中から破裂するように散れば、上部主砲を貫通された戦艦が、弾薬庫の誘爆を引き起こして轟沈する。出撃しようとした航空ポッドが衝撃波に煽られ、激突や制御不能に陥って墜落する。
惨憺たる有様だった。第一撃で第二空中艦隊はその戦力の半数を喪失したのだ。戦いは数とはよく言ったもので、多数の対艦ミサイルの集中攻撃は、恐るべき威力を発揮した。
「敵艦隊、本艦隊に接近中!」
見張り員の報告に、ゴルガコフ中将はまなじりを決する。旗艦は被弾したが戦闘は可能。四隻あるうちの戦艦は、一隻喪失、もう一隻が大破、戦闘不能であるものの、最後の一隻は健在。残存艦も、接近するファントム・アンガー突撃隊と同数程度は残っていた。
「砲撃戦、用意っ! 敵を血祭りに上げろ!」
この期に及んで、ゴルガコフ中将の戦意は衰えていなかった。彼は空軍艦隊きっての闘将であり、演習では仮想敵艦に体当たりも辞さない勇猛ぶりをみせていた。
また彼が指揮する戦艦は、従来戦艦の倍の主砲数を誇る新鋭のゴルドア級であり、こと大帝国空軍最強の戦艦であった。
そして彼に鍛えられた第二空中艦隊残存艦は、旗艦を中心に集結。ファントム・アンガー突撃隊に対し、正面から挑みかかった。
・ ・ ・
大帝国空母航空戦隊は壊滅した。しかし空母スィールシャを発艦した少数の大帝国戦闘機は、いまだ空にあった。
ファウクーンと名付けられた戦闘機は、航空ポッドを元にしながら、より近代的な戦闘機のシルエットを持っている。
鋭角的な機首、二枚の主翼。プッシャー式――いわゆる機体後部にプロペラが装備されている。武装は魔弾を発射するマギアカノーネ一門、主翼に誘導式爆弾槍を六本搭載できる。
なお、この誘導式爆弾槍は、本来、魔術師が制御しないと使えなかったのだが、魔法軍で、発射したら槍のほうで自動で追尾して目標を攻撃する能力を持った型を実用化された。現在、スィールシャ航空隊には、その先行量産型が装備されている。
「ファントム・アンガー艦を攻撃するぞ、全機続け!」
スィールシャ航空隊指揮官は近接魔力通信機にて、僚機に呼びかけた。緊急発進できた機体はわずか十機。母艦を失ったが、彼らはその敵討ちに燃えていた。
だが――
『隊長! ファントム・アンガーの戦闘機が向かってきます!』
部下からの報告。攻撃機を護衛してきたストームダガー戦闘機が、ファウクーン戦闘機に機首を向けて迫ってくる。その数、軽く帝国戦闘機の三倍!
「全機、爆弾槍、用意! 敵に一発ぶちかましてやれ!」
この誘導爆弾槍は、対空用――ファントム・アンガーの航空機の攻撃に使うのを想定している。その真価を今こそ発揮する時である。
「爆槍、撃てぇ!」
ファウクーンの主翼より爆弾槍が飛び出す。勝利を確信する指揮官だが、対する敵機からも同様のミサイルが放たれた。それらは互いにすれ違い、それぞれの目標へと突進、空に火の玉を具現化させた。
ゴルドア級空中戦艦:
全長276メートル
武装:50口径30センチ連装砲×8基(16門)
15センチ単装副砲×18
8センチ速射砲×24
対地上爆弾倉×8
大帝国では第三世代の空中戦艦。搭載された主砲は前級のピノース級より口径が伸び、砲門数も倍増し、圧倒的な火力を誇る。第二空中艦隊に四隻が配備され、帝国最強の戦艦戦隊を構成する。
スィールシャ級空母:『スィールシャ』
全長170メートル
武装:8センチ単装速射砲×8
艦載機:33機
大帝国軍初の空中船型航空母艦。異世界人の知識を元に最初から空母として建造された。ファウクーン艦上戦闘機を搭載。船体武装は、対飛竜用の速射砲のみ。戦場への投入を急ぐため、対空砲の搭載改修を受ける時間がないまま、連合国戦線に配備された。




