第770話、デファンサ航空戦
ファントム・アンガー艦隊は、ウーラムゴリサ王国の領空内を飛行していた。
主力は空母機動部隊。高度5000メートルの位置に、レントゥス級空母四、リヴェンジ級軽空母四、ゴーレムエスコート十がいた。青の艦隊の二隻の空母を回して、合計八隻を揃えたのだ。
アーリィー指揮の空母群から、魔獣群に向けて攻撃隊が発進。艦戦、艦爆による戦爆連合は、MMB-5の生み出した魔獣にエクスブロード爆弾を次々に叩き込み、火球に包み込んだ。
旗艦『レントゥス』で、アーリィーは、戦隊を統率するシップコア『エメラルド』に確認した。
「敵空母から、艦載機は出ていない?」
「はい、アーリィー様。偵察機からは、敵主力艦隊後方の空母部隊に動きなし、とのこと」
ファントム・アンガー艦隊は、すでにドラゴンフライ偵察機を戦域全体に飛ばし、索敵活動を行っていた。敵艦隊は第一、第二艦隊ほか、空母部隊が存在し、その位置も掴んでいる。
「うーん、航空ポッド母艦を連れているから、戦闘機を飛ばしてくると思ったんだけどなぁ……」
アーリィーはヒスイ色の瞳を細めた。航空ポッドに防空させて、戦闘機を自由に使う可能性を考えていたが……。
「あくまで艦隊防空を重視する、ということだね」
それだけ、ファントム・アンガー航空隊を警戒しているということか。
「あるいは、魔獣を捨て駒として見ているのかもしれません」
エメラルドが冷静な口調で言った。なるほど、一理あるとアーリィーは頷いた。
「では、こちらはそれにお答えしないとね。第二次攻撃隊は予定通り、敵艦隊へ攻撃をかける。戦果拡大を狙うよ。その後、第三次攻撃隊を出撃。こちらは魔獣群への追加攻撃で、ウーラムゴリサ軍の負担を軽くする」
「承知しました。――旗艦『レントゥス』より、全空母へ。計画Aのまま、第二次攻撃隊発艦――」
さてさて――アーリィーは戦域全体を表示するモニターマップに目をやる。
「突撃隊、がんばって」
・ ・ ・
ディグラートル大帝国第空中一艦隊旗艦『コヴァルク』。
「そうだ、戦闘機隊は待機せよ。ファントム・アンガーは必ずこちらに来る!」
スラヅィ大将は断言した。
「貴重な戦闘機を誘いだそうというのだろうが、そうはいかん」
人工的に生まれた魔獣どもがいくらやられようが、陸軍の主力部隊が存在している限り、デファンサは落とせるし、王都への進撃も可能だ。傭兵軍には、貴重な弾薬を魔獣如きに浪費してもらう。
「航空戦隊には、敵襲に備えていつでも戦闘機、航空ポッドを出せるようにさせておけ」
司令長官の命令に、通信参謀は敬礼して答え、すぐに部下に伝令を走らせた。
参謀長は艦橋の外に目を向け、表情を険しくさせた。
「雲が多いですな……。航空機の大きさを考えると、発見が難しくなるかもしれません」
「見張りの対空監視を厳に。見落としは許されんぞ、艦長」
艦に関することは艦長の仕事である。彼は伝声管を通じて、見張り部署へ司令長官の命令を伝えた。
と、その見張り員から『未確認飛行体、発見!』の報が飛び込む。
「二時の方向、距離およそ6500、高度3000より接近する物体……いや空中艦を視認。雲を抜けて複数……」
「空中艦? 航空機ではないのか?」
スラヅィ大将は艦長と顔を見合わせた。すぐに続報が入る。
『飛行体、Ⅰ型クルーザーとコルベットが複数……ですが、あれは!』
味方? 艦橋の手隙の者が望遠鏡を覗き込み、正体を確かめようとする。
『赤い艦体色……! おそらくファントム・アンガーの艦隊!』
「何だと!?」
ファントム・アンガーが艦艇で主力艦隊に急接近してくる。航空隊ではなく、船で!
「対艦戦闘! 全砲門、開けぇ!」
艦長がとっさに怒鳴った。見ればファントム・アンガー艦隊はクルーザーとコルベットを中心にしながら、第一艦隊へ高速で向かってきていた。
帝国艦なのに、何故あんなに速いのか? ギリギリと胸が締め付けられる思いにとらわれるスラヅィ。参謀長は真顔で言った。
「空中艦隊と並び立つ存在などなく、艦隊同士の砲撃戦など未経験なのですが、やれましょうか?」
「敵が地上ばかりだったからな。だがまったく想定していないわけではない」
これまで暇をしていた上甲板の主砲、その砲手たちも意気込んでいるのではないか。
「しかし、連中、転舵しませんな……まさか、このまま突っ込んでくるつもりでは……!?」
『敵艦より、高速飛翔物体、多数!』
見張り員の絶叫が伝声管より響き渡った。
・ ・ ・
ファントム・アンガー艦隊突撃隊は、大帝国第一艦隊へ文字通り突撃を敢行した。
その兵力はⅠ型クルーザーを大改装して別物になった巡洋艦『デファンス』に、ファントム・アンガー所属クルーザー『ドミナシオン』『コンケット』、シャドウ・フリートの補充用に作られていたⅠ型クルーザー三隻の計六隻のクルーザー。
そしてコルベットは、ファントム・アンガー所属の『水無月』『文月』『葉月』の三隻に、シャドウ・フリートコルベットの唯一の生き残り『睦月』、さらにシャドウ・フリート補充用コルベットから『長月』含む四隻を加えた計八隻。
合計十四隻が、遮二無二に四十隻の帝国主力艦隊の列に艦首を向ける。軽巡と駆逐艦クラスの艦隊で、戦艦を含む敵艦隊に挑むのだ。
突撃隊旗艦『デファンス』の艦橋、ダスカは艦長席から突撃隊に命令を発した。
「各艦、ミサイル発射。そののち、敵艦隊に近接、反航戦を仕掛ける!」
普段はアンバル級で指揮を執ることが多いダスカ。だがこの改造クルーザー『デファンス』は帝国鹵獲艦をベースにしながら、一番ウィリディス艦に近い大改装が施されている。
ズイーゲン会戦で大破したⅠ型クルーザーを使ったのだが、船体は元の艦より二十メートルほど短くなっている。しかし初めからミサイル発射管を搭載。青の艦隊唯一のクルーザーだけあって、シールドと共に装甲も強化プレートで補強、エンジンもアンバル級とほぼ同速が出せる強化型を載せていた。
その『デファンス』、そしてシャドウ・フリート補充艦はミサイル兵装を装備した型だ。八隻から放たれた対艦ミサイルが、帝国艦隊の戦艦、クルーザーに直撃、爆発の火の玉を具現化させた。
戦艦六隻の先頭を行く旗艦『コヴァルク』にはミサイルが二発命中。その巨艦を大きく震わせ、接近するファントム・アンガー艦に向けようとしていた30センチ連装主砲への射線がズレる。
ファントム・アンガー艦の15.2センチ、または12.7センチプラズマカノンが次々に光を放った。ミサイルを受けて爆沈した艦を避け、まだ健在の帝国艦に光線は突き刺さり、吹き飛ばす。
そのまますれ違うように帝国主力艦隊に飛び込むファントム・アンガー艦隊。プラズマカノンと、帝国艦の砲弾が行き交う。
デファンスのプラズマカノンは強化前の通常砲だが、それでも戦艦『コヴァルク』の艦橋を吹き飛ばし、司令部要員をまとめて吹き飛ばした。
だが主砲では追従できなかった帝国艦も、艦側面に並ぶ飛竜用の8センチ速射砲や戦艦の15センチ副砲で応戦した。
防御シールドを備えるファントム・アンガー艦だが、無傷とはいかなかった。クルーザー、コルベットともに数隻が、シールドを貫通した砲弾によって被弾した。目と鼻の距離での超至近距離砲戦である。シールドとて防ぎきれないこともある。
ただ損傷した艦も『戦闘航行に支障なし』との報告が、旗艦『デファンス』に入った。ダスカ艦長は安堵しつつ、艦隊を一航過で全速離脱させた。
次の目標に向かわねばならない。デファンサ領空会戦は始まったばかりだ。
●ファントム・アンガー空母機動部隊
中型空母:レントゥス、フォルトゥス、リーベルタース、ノードゥス
軽空母:リヴェンジ、マローダー、イントゥルーダー、レベリオン
ゴーレム護衛艦:
(Ⅰ型:海霧、山霧、谷霧、川霧
(Ⅱ型:氷雨、秋雨、夏雨、早雨、白雨、霧雨
●突撃隊
クルーザー:デファンス、ドミナシオン、コンケット、ペルセ、エヴァシオン、アリアンス
コルベット:睦月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、雪月
裏話:ファントム・アンガー隊艦参加艦は、カラーリングで所属艦隊が識別できる。メインカラーは赤としながら、サブカラーが所属によって異なる。
●赤・灰色=ファントム・アンガー艦
(空母:リヴェンジ、マローダー、イントゥルーダー
(クルーザー:ドミナシオン、コンケット
(コルベット:水無月、文月、葉月
●赤・黒色=シャドウ・フリート艦
(クルーザー:ペルセ、エヴァシオン、アリアンス
(コルベット:睦月、長月、神無月、霜月、雪月
●赤・青色=青の艦隊
(空母:ノードゥス、レベリオン
(クルーザー:デファンス




