第768話、東方方面、異常あり
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フェーダー砦の騒動を解決した後のクレニエール東領の掌握は順調に推移した。
冒険者たちはノベルシオン国の国境近くまで進出。クレニエール領の部隊も各砦、集落跡を俺のところのトキトモ建設の力を借りて拠点化を図っていた。冒険者たちの魔獣討伐もまだしばらくは続くだろう。
さて、連合国と大帝国が睨み合う大陸東方戦線だが、ここにきて動きが見られた。
大帝国東方方面軍が大規模攻勢の準備にかかったのだ。
目標は、連合国の中核ともいうべきウーラムゴリサ王国。この一点に戦力を集中し、王国王都を一挙に攻略する――SS諜報部は、その情報をつかんだのだ。
「これは絶好の機会だ」
アリエス浮遊島で報告を受けた俺は、ディアマンテに頼み、大陸東方の地図を開かせた。場にはベルさん、アーリィー、ダスカ氏、そしてシェイプシフターの魔女スフェラがいる。
「大帝国の東方方面軍の主戦力が集まる。これを叩けば、連合国にも勝ち目が出てくる」
「例の連合国に武器をくれてやるやつな」
黒猫姿のベルさんはしかし、少し不満げである。俺やベルさんを裏切った連合国に手を貸すのはあまり面白くないのだろう。
「そうだ。東方方面軍を弱体化させ、近代兵器を連合国に兵器を供給する。うちのSS兵が補うとはいえ、連合国の兵たちの修練期間を含めれば、まさにこのタイミングを逃す手はない」
俺はディアマンテに視線をやる。
「彼らに提供する艦隊はどうだ?」
「いつでも。配置したゴーレムコアとシェイプシフター乗員による艦の熟練は済んでおります」
ディアマンテは、軍人らしくはっきりと告げた。頼もしい。次――
「スフェラ」
「東方方面軍は、前衛としてMMB-5の魔獣群を用いる予定です」
諜報部を統括するスフェラは資料を配った。
「主力軍は後方から続きます。今回は空軍の空中艦隊も出撃。第一、第二両艦隊が出てきます」
「空中艦隊……」
アーリィーが口を開いた。
「対空砲は装備されたの?」
こちらの航空機を恐れ、引き籠もっていた帝国空中艦隊が出てきたのは、対空装備がなされたためか――
「いえ、こちらの妨害もあって、対空用機材はまだ十分な数が整っておらず、今回出撃する艦艇は、まだ対空砲は未装備です。ただ個艦防御用に、長距離魔法杖を一隻あたり十本程度、支給されています」
資料によれば、杖を目標に向けて放つだけの簡単なものだ。長距離用に魔力マシマシで魔弾を放つ代物で、前回のスルペルサ空域航空戦と同じということになる。人力照準だから命中率は低いが、こちらもある程度の犠牲を覚悟しなくてはならない。
「それと未確認なのですが、大帝国は今回の作戦のために空中空母を実戦投入する可能性があります」
「大帝国の空母!」
「どこの情報ですか?」
ダスカ氏が問うた。
「東方方面軍のコパル将軍と、空軍第一艦隊司令長官の作戦会議の場での会話を盗聴したSS諜報員からの報告です」
指揮官同士の打ち合わせの場である。盗聴というが、要するに会議室のどこかに潜んで聞き耳を立てていたのだろう。
「さらに航空ポッドを元にした戦闘機を三十機ほど、空母に搭載して今回、防空任務に宛てるようです」
「とうとう、大帝国が戦闘機を……」
アーリィーが不安げな表情を浮かべる。ベルさんは首をひねった。
「また皇帝の秘密ルートからか?」
「だろうね。通常のルートならSS諜報部がつかんでいたはずだ」
俺の言葉に、スフェラは頷きで答えた。大帝国は、きちんとファントム・アンガーの妨害に備えているということだ。
「そうなると、まだまだ隠し球もありそうだな」
「またぞろアンバル級が出てくるなんて面倒だぞ」
「他にもスティックライダーを使った小型機による奇襲もあるかもしれない」
ファントム・アンガーの軽空母『ビンディケーター』が被弾したのも忘れていない。
「となると、こっちも相当戦力を集めねえと危なくないか?」
「ベルさんの言うとおりだよ」
アーリィーは同意した。
確かに。青の艦隊からも臨時に艦艇を引き抜いて、ファントム・アンガーに合流させよう。
しかし、ウィリディス艦隊は、ヴェリラルド王国の関与を悟られないために使えない。使える艦があるとすれば、シャドウ・フリートとの繋がりがあると思われている現状、前回鹵獲したアンバル級が一隻。
……あ、いや、そういえばあるな、他にも。
「何かひらめいたか?」
ベルさんが目を細めて俺を見ていた。
「ああ、ウィリディス艦隊は投入できないが、代わりに別の艦隊を使うことを思いついた」
・ ・ ・
連合国ウーラムゴリサ王国中央。クレマユー大侯爵領ブリアール城。
『大帝国、動く』の報は王都アルモニアへ続く道であるクレマユー領にただちに知らされた。
「敵はジェマ平原を突破。西部軍を打ち破り、王都方面へ進撃中とのこと!」
ブリアール城の領主の間に、騎士が報告をあげる。クレマユー大侯爵は歯を剥き出した。
「敵は、ここを目指しておるのか!」
王都より西に位置する大侯爵領である。王都方面ということは、必然的にこの地を通ることを意味する。
「中央軍を招集せねば……」
西の守りが破られ、敵が進撃しているとなれば、すぐに防備を固めねばならない。最近、大帝国軍が大人しくしていたとはいえ、一度動き出せばその力は恐ろしい。巨人兵器や戦車に備えて、防衛網を強化していただろう西部軍が、あっという間にねじ伏せられたのだから、事は重大だ。
現状、即応戦力を残してあるとはいえ、西部軍の規模には到底及ばない。
「敵の陣容はどうなっておるか!?」
「はっ、恐れながら、敵は二軍構成にて、先方を務めるのは数万を超える魔獣とのこと」
「万を超える魔獣、だと……?」
巨人兵器や戦車ではないのか? クレマユー大侯爵は呆然とした。
「は、恐れながら、伝令によれば、まるで『ダンジョン・スタンピードの如し』と。西部軍は文字通り、魔獣どもに蹂躙されました」
「大至急、戦える者を集めよ!」
クレマユー大侯爵は叫んだ。
「戦える男どもはすべて集めるのだ! 傭兵、冒険者もだ! ……そうだ、ファントム・アンガーだ。あやつらも招集せよ」
でなければ、この大侯爵領も瞬く間にやられる。騎士の報告は続き、敵魔獣群は、デファンサ城に差し掛かりつつあると、クレマユーの耳に入った。
「も、もうそんなところまで! いや、待て。デファンサにはエリーがおるではないか! す、すぐに呼び戻すのだ!」
この日、一番の怒号が領主の間に響き渡った。
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