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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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幕間、英雄魔術師は異世界で本屋を建てることになりました


 アーリィーたちに、出来上がった俺の回顧録と娯楽小説版を披露する少し前、元王都商業ギルドの副ギルド長にして、今は俺の下で働いているパルツィ氏に、書店を開業して、本を使ったビジネスをする案を相談することにした。


「本を一般レベルで販売する、ですか……」


 銀髪眼鏡の、温厚そうな顔立ちの彼は、難しい顔をした。


「本って、もの凄く高いですよね?」

「もちろん」


 俺が頷けば、パルツィ氏はしばし考え、自身を納得させるように小さく首を振った。


「話を伺いましょう、トキトモ侯爵。高額商品を取り扱い、そのことごとくをヒットされている貴方だ。勝算はおありでしょう?」


 そのつもりだ。パルツィ氏は貴族や金持ちのステータスとしての本しかしらない。ここは異世界流の本というものを教えて、この世界にアジャストしてもらおう。正直、俺はパルツィ氏のように根っからの商人ではないから、商売のやり方については彼のほうが通じている。


「本が高いなら、安くすればいい。どうすれば安くできるか? 費用がかかっているものを、より安くできるようにすればいいんだ」


 希少な品を使えば高くなるのは当たり前。より低コストで入手できる素材を利用し、製作にかかっていた労力を減らし、製作期間の短縮を図る。時間の短縮は燃料や人件費の節約にも繋がる。

 本の低コスト化。それが可能となる設備と能力。ウィリディス製魔力生成によるコピー、活版印刷――それらを説明すると、パルツィ氏の目に喜々とした色が浮かんでいた。


「さすが侯爵様。ご指摘のとおり、コストの問題さえクリアできるなら、数を作って販売することで、今より客層が増え、本というものの認識も変わっていくでしょう!」


 そこで本屋だ。ウィリディス式で本を製作し、それを並べた店を建てる。


「幸い、ここノイ・アーベントの町には多くの商人が訪れている。彼らは低価格の本を購入し、それを余所で売ることができる」

「卸業者みたいですね」


 いわゆる問屋。

 とりあえず形としては、製造者である俺たちから本を仕入れ、それを地方や遠方で販売する、となるだろう。


「本を持つことは、上流階級の証のようなイメージがあるみたいだから、安い本があれば買おうとする者もいるのではないか」


 たとえば、教養とか武芸とか魔術とか。騎士や上級の冒険者、魔術師などなどが購入層として考えられる。娯楽関係の本を出したら、冬、屋敷にこもっている貴族やその子らが時間潰しに使える。


「ついでに薪がなくなった時の燃料になる」

「本を薪にするなんて、もうよっぽど切羽詰まってますよ!」


 パルツィ氏のツッコミに、俺もつられて笑った。日本育ちだとわかりにくいが、この中世じみた世界での冬越えは、とても過酷なものだったりする。


「教養本ですか。確かに需要はありそうですね。……それ全部、侯爵様が書かれるんですか?」

「まさか。ダスカ先生が各地を旅して手に入れた本がある。あの中で、著作とかで揉めそうなものを除外して、ウィリディス製書籍として量産している」


 ヴェリラルド王国が誇る大魔術師がこれまで収集してきた本、写本。それらをコピーして販売。古い歴史的文献や古代文明時代の本、魔術関連の論文などなど。手に入るなら欲しいという者も多いだろう。言うまでもなく、それらの入手を妨げているのが、数が超絶少ないのと高額であることだから。


「侯爵様が書かれた本も、飛びつく人も多いと思いますよ?」

「回顧録が?」

「それもですが、貴方様はSランクの冒険者にして、やはりSランクの魔術師なのです。冒険者としても魔術師としても、貴方様から習いたいという者も少なくありません」


 ふむ。冒険者ギルドやアクティス魔法騎士学校で、臨時に魔法講義をした時は上々。先方からは続けてほしいと頼まれたくらいだからなぁ。

 しかし、俺にそういう需要のある本の依頼があるというのはいいものだな。いっそ文筆業を本格的に始めるかな?


 パルツィ氏は首をひねった。


「そうなると……本は店にどれくらい置くことになるのでしょうか?」

「それが問題なんだ」


 何せ、初めての試みだから、どれくらい在庫を持てばいいか見当がつかない。宝石のように陳列棚に三冊程度しかなくても、そういうもので済んでいたこれまでとは値段も数もまったく違う。

 本と聞いてやってきた者たちなら、値段も覚悟しているから、お金は心配いらないのだが。


「なるほど。……ですが侯爵様。ウィリディス式の増産手段をとれば、本を一日二日で量産できますよね?」


 できる。これまでの手書きの写本なら、こうはいかないが。


「売り切れてもすぐに補充ができるのですから、なくなるようならその都度対応しましょう。どうせノイ・アーベントに買いにきている商人なら、数日はこの町に滞在していますし。帰る前までに用意できれば問題ないでしょう」


 確かに日帰りの奴もいないだろう。電車もなければ、一般レベルで自動車を持っている者がいない世界だからね。


「そうなると、ある程度用意した物が売れなかった時かな、困るのは」

「いや、本というもののイメージを知っている商人なら、こんな安売りを目の前に手を出さないなんてあり得ませんよ」


 パルツィ氏は苦笑した。


「むしろ、ひとつの本ごとに購入制限をつけておかないと、買い占められてしまうかもしれません」

「……」


 どこかのアイドルグループのCDかな――とっさに思ったが黙っていた。CDって何ですとか聞かれたら最後、そちらでも何か、なんて話になると面倒だから。



  ・  ・  ・



 かくて、本の用意と並行して、ノイ・アーベントの町に書店を建てる。


 トキトモ領、つまり俺が国王陛下よりお預かりしている土地である。ここに何を建てるかは俺が決めてよい。任されるとはそういうことだ。


 ダンジョンコアを元にした建築用コアを用いて、土地を整地し、ダンジョンを作るように魔力を支払って建物を作っていく。

 ノイ・アーベント発展の功労者といえるトキトモ建設の建設魔術師たちは、実に手慣れた様子で書店の外観を作り、内装に取りかかる。

 シックな色合いと、壁には書棚と複数展開用の平台。日本での本屋のように、雑誌や、本に種類があるわけではないので、本一冊あたりのスペースはかなり余裕がある。本が大盛況なら、さらに本の種類を増やすことも視野に入れる。


 ……逆に過疎るようなら、図書館っぽくして読書スペースとか、カフェスペースを作って休憩所にしてやる。


 そうやって準備している間に、パルツィ氏がノイ・アーベントに来ている商人たちに、本屋ができることと、低価格の本を複数取り扱うことを触れ回った。


 いわゆる宣伝活動。いくら本屋と本があっても、その存在を知らなければ誰も来ない。

 本屋の完成が近くなった頃、手伝いにきたアーリィーが聞いてきた。


「それで、ジン。この本屋の名前は?」

「名前……。そうだなぁ――」


 そう言えば、この世界で、他に本屋なんてみたことないから、『本屋』でこれまで通じてきたけど。……確かに名前はあったほうがいいよな。


「やっぱりトキトモ書店?」


 アーリィーが、からかうように上目遣い。俺が自分の名前を大々的に使いたがらないのを知っているのだ。そんなからかい上手な未来の嫁さんに、俺は微笑する。


「いやいや、トキトモ領に、トキトモ建設と、さすがにこれ以上同じようなのは勘弁だな」


 元の世界じゃ、社長の名前を使った社名って結構あったよな。銃のメーカーとかもそうだけど、日本でも色々と……って、それじゃあ結局トキトモに戻ってくるじゃないか! ……トキトモ……うーん。


「ティー、オー、書店」

「うん?」


 トキトモの『ト』のローマ字読みでTOだ。……はて、俺のいた世界にそんな出版社があったような……。まあいいか。


 そして、その数日後、ノイ・アーベントの町で『TO書店』は開店した。

 さあ、俺の本を買えーッ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 重版出来(じゅうはんしゅったい) [一言] 『TO書店』(笑 こちらでも重版できるといいですね
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