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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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698/2033

第694話、ノルテ海艦隊、集結


 電光石火の早業。シェーヴィルに本拠を置く大帝国西方方面軍は、新司令官着任の翌日、ヴェリラルド王国の隣国、ノベルシオン国の支配権を手中に収めた。


 俺はSS諜報部からの報告を受け、ウィリディスの主な面々、そしてエマン王にこの件を報せた。


 皆、一様に驚いていた。特にこの国とノベルシオン国の因縁を知るエマン王やアーリィー、地元の者たちは。


 俺? 俺はベルさん同様、さほど。

 そもそも、少数で敵の中枢へ乗り込んで制圧するという戦法は、俺たちも散々やったし。連合国での英雄魔術師時代もそうだが、最近だと、ジャルジーのクロディス城に囚われたアーリィーを助けに行った時もそれだ。


 大帝国には空中艦もある。俺も航空艦を使った空挺作戦の一環で考えていたから、むしろ先を越されたな、と思うくらいだった。


 エマン王、そして北方のジャルジーには、空中艦を使った電撃戦的な襲撃に備え、空中監視の強化を提案。ウィリディス偵察機の増産と配備、地上からの魔力レーダー監視網の増強を打ち出すことで、賛意を得た。


 一応、これまでも空中警戒はしてきた。だが、大帝国軍が今回のことに味をしめて再度仕掛けてきたり、どこぞの冒険野郎があり得ないルートを通ってやってきたりしたら面倒だからな。


 さて、俺とベルさん、アーリィーは、王国北西部、ノルテ海に面するノルト・ハーウェンにいた。

 クラーケン軍港――ダンジョンコアの力で、わずか一ヶ月で完成した大軍港で、領主であるヴェルガー伯爵と会談したのだ。


 ただの入り江だった場所が、今や桟橋やドック、無数の建物が立ち並ぶ、ひとつの街のようになっている様は壮観である。大まかに手入れしたのは俺で、それほど日にちも経っていないのだが、どこか懐かしさをおぼえた。


 ちなみに西の水平線には、わずかにフルーフ島が見えている。実は、このクラーケン軍港はノルト・ハーウェンから、近い位置にあったりする。


「いよいよ、ですな」


 立派な口髭をお持ちのヴェルガー伯爵が、俺の隣に立って港を見つめる。背筋がピンと伸びたその姿は、着ている上等な服と相まってスマートである。

 俺は頷いた。


「ええ、お約束した艦艇をようやく引き渡せる」


 ノルテ海防衛計画に基づき、キャスリング基地工廠で建造された水上艦艇群である。内陸の地下基地から、この海までどう運ぶかと言えば……すでに見当はつくだろう。大ポータルである。


「はじめてくれ」


 俺の指示はすぐさま魔力ケーブルを通して、ポータルの向こう側に待機している艦艇群へと伝わる。


 まず姿を現したのは細長い船体に、単装の主砲を背負い式に搭載した艦艇。艦橋や艦構造物の並ぶ中央を抜け、後部には単装主砲が一門。全長は八十五メートル。ラヴィーネ級駆逐艦『ラヴィーネ(雪崩)』である。


「お、おお……!」


 水上艦が海面よりわずかに浮遊する姿に、ヴェルガー伯爵とその部下たちが驚く。

 駆逐艦の側面に張り付いているのはタグボートならぬ浮遊ボート。これが一〇〇〇トン級の艦艇を浮遊させているのだ。浮遊ボートが高度を下げれば、駆逐艦『ラヴィーネ』が海へと滑り込むように着水した。


 そのまま駆逐艦が移動する中、ポータルを経由して小型艇が現れる。


 全長三十五メートル。排水量二〇〇トンの哨戒艇。魔力機関搭載により37ノットの快速を持つネーベル級哨戒艇である。


 しかし哨戒艇と名乗る一方、艦首には76ミリ単装プラズマカノンを一門搭載し、この世界の標準的帆船を一撃で粉砕する火力を持っている。さらに後部にミサイルランチャー、対水中生物用小型の対潜ロケットランチャーで武装する。


 一番艇『ネーベル』に続き、二番艇『ヴィント』、三番艇『シュネー』が浮遊ボートに引かれ、海面に飛沫を上げた。


 次に現れたのは、今回の目玉、ヴィントホーゼ級巡洋艦『ヴィントホーゼ』である。

 竜巻の名を与えられた巡洋艦、その全長は152メートル。基準排水量五二〇〇トン。その艦容は、武装の配置も含めてラヴィーネ級駆逐艦に似ていて、一回り大きくした印象だ。だが大型の艦橋のせいか、駆逐艦よりも遙かにどっしりとした安定感と迫力があった。


 主砲は、アンバル級航空巡洋艦と同じ15.2センチ砲を単装三基。機銃、機関砲を備え、四連装垂直ミサイル発射管、45センチ三連装誘導魚雷発射管、多連装対潜ロケットを搭載している。


 いずれも現時点で世界最高の火力を持つ戦闘水上艦艇だ。元の世界の巡洋艦や駆逐艦に比べるとサイズは小ぶりなのだが、この世界の戦闘帆船の倍以上の大きさに、伯爵を除く面々は驚愕していた。


 ……まあ、テラ・フィデリティアの航空艦を見飽きているアーリィーや、異世界転生者であるヴェルガー伯爵は、さほど驚かなかったが。むしろ、伯爵は懐かしさがこみ上げてきているようで、わずかに目元を潤ませていた。


「これがあれば、大帝国海軍が大挙して現れようとも、返り討ちにできますな」


 ヴェルガー伯爵は巡洋艦と駆逐艦、三隻の哨戒艇を頼もしげに見つめる。俺も視線を戻す。


「人員は当面こちらで出しますが、そちらの水兵たちが十分に慣れてきたら、順次引き継いでもらいます」

「はい、お世話になります」

「駆逐艦を簡素にした練習艦を配備します。軽武装ですが、プラズマカノン装備なので、戦力としても十分使えますが」

「ありがとうございます、トキトモ侯爵」


 姿勢を正して、伯爵が頭を下げる。異世界人で同じく日本人。されど年上の人とわかっているので、何だかこちらも自然と頭を下げてしまう。エマン王とかで慣れてきたと思ったんだけどなぁ……。


「とりあえず、これで『表』の戦力は整いましたな」

「ええ。『裏』戦力は、フルーフ島軍港ですからね」


 俺とヴェルガー伯爵は、揃って水平線にわずかに見える王国領フルーフ島を見やる。


 こちらも、クラーケン軍港建設と並行して、軍港設備の拡張が行われていた。ダンジョンコア(ディーシーさん)の協力のもと、地下水道経由の潜水艦秘密基地を建設。クロコディール級潜水艦のほか、ゴーレム・エスコートの元となった無人潜水艦部隊を配備、すでに活動に入っている。


 なお、フルーフ島の地上軍港には、これまでノルト・ハーウェンを守ってきた帆船艦隊が駐留。さらに山城が築かれ、夜になると二つの塔が灯台よろしく明かりを灯していた。

 また航空機を運用する滑走路が置かれ、TH-3シーホーク汎用ヘリとTA-3シーファング攻撃機が海賊退治や海難救助に活躍していた。


「航空機配備の件、ありがとうございました」


 改めて、ヴェルガー伯爵は言った。ノルト・ハーウェン防衛のために航空機を、というのが最初の願いだったのだ。


飛隼(ひじゅん)隊の連中も張り切って任務についております」


 飛ぶ隼、か。それっぽくていいね。


「――伯爵、大帝国が動いています」

「はい」

「王国軍は、北方で西方方面軍を叩きましたが、彼らは戦力の再編中ながら、東で動いた。そしてこのノルテ海でも動きを見せつつある」

「二面作戦、ですか? ……トキトモ領は王国東部でしたね」

「東部が忙しくなり、ノルテ海も騒がしくなる。そうなると……」

「個々で対応するしかない、と。トキトモ侯爵が用意してくださった戦力、無駄にはしません」


 ヴェルガー伯爵は相好を崩した。


「ノルテ海の守りはお任せください。身命を賭して、我が役割を果たす所存です!」

「いや、命は大事にしてください」


 思わず苦笑する。覚悟の話なのはわかるけれども。

 この人、前世が軍人さんなのだが、どうも勇猛さがにじみ出ているというか……。確か、前世はニシムラという名前だったと聞いたが。西村……まさかね。

ヴィントホーゼ級巡洋艦:ノルテ海防衛艦隊の高速遊撃部隊の軽巡洋艦。『表』艦隊の旗艦としてノルテ海の防衛と哨戒を行う。


全長:152メートル

基準排水量:5200トン

速力:30.2ノット

武装:15.2センチ単装プラズマカノン×3(艦首2、艦尾1)

   40ミリ光線機銃×6

   20ミリ機関砲×6

   四連装垂直ミサイル発射筒×4

   45センチ3連装誘導魚雷発射管×4

   多連装対潜ロケットランチャー×4

姉妹艦:なし

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― 新着の感想 ―
[一言] もしそうなら仲間どころが一足飛びにジンの相棒になるでしょうね 日本海軍一位と二位を争う愚将の裏切りが落命原因だから……
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