第683話、出撃する赤の艦隊
アリエス浮遊島より、赤の艦隊が出航する。
軽空母2隻――『リヴェンジ』『マローダー』の他、Ⅰ型クルーザー改、揚陸型コルベット改、ゴーレム・エスコート2隻の計6隻の小艦隊である。
艦隊旗艦は『リヴェンジ』。その艦橋に俺はいた。無人艦隊を制御するシップコアは、エスメラルダ・コア、『エメロード』である。アリエス浮遊島に残されていたシップコアに、艦隊旗艦であるディアマンテが、能力を付加したものだ。
ちなみに、人工コアであるサフィロたちと異なり、エスメラルダ・コアは純然たるシップコアである。その魔力生成能力は、精々、自艦隊の再生や修理、ミサイル系兵器などのみである。
「艦隊、単縦陣を形成。ポータルゲートEを使用」
エメロードが、のんびりした調子で宣言する。別に黙っていてもいいのだが、一応、俺とかラスィアたちが乗っているからね。
エスメラルダと同型だけあって緑髪の女性軍人であるが、シャドウ・フリートの彼女と比べて、穏やかなお姉さん風の姿をしている。
艦隊は、ゲートEと名付けたポータルリングへと向かう。
青い光の巨大な輪に、『リヴェンジ』を先頭に突っ込む。ポータルを囲むリングにある信号灯は緑――進入可を表している。リングの向こうに敵性存在がいるなど危険な場合は、信号灯が赤になる。
ゲートEを潜り、次の場所へ。高度1万2000メートル。そこには、無数のポータルリングが浮かんでいる。その数、すでに十数個。高高度とはいえ、無数の巨大リングが浮かんでいる姿は、異質に映る。
リングは、それぞれ連合国に設置したポータルに対応している。大体のポータルリングは大帝国の空中艦すら登れない高高度に設置しているが、万が一通過するような存在がポータルをくぐってしまった場合、それでウィリディスへ直行――という事態を防ぐための処置である。単純にポータルの数が増えた、というのもあるが。
「ニーヴァランカ・リング2を確認。針路3-1-0」
エメロードが、目的地に近いポータルを選択、艦隊を誘導する。……うん、正直、ここで俺のすることは何もない。艦長席に座って、居眠りしてもいいくらいだ。しないけどね。
そして二度目のポータルを通過。そこは、大陸の東側、連合国の空。軽空母『リヴェンジ』を先頭に、赤の艦隊はニーヴァランカ国西部地域、高度1万2000に出る。
艦隊は下降しながら、単縦陣から、空母2隻を護衛艦4隻が囲む陣形に変更する。クルーザーが先頭。ゴーレム・エスコートが空母の左右、コルベットが最後尾だ。
今回の攻撃目標は、ニーヴァランカ国に展開している大帝国第三空中艦隊。現在、この艦隊は、複数のグループに分かれて、ニーヴァランカの要衝へ空爆を繰り返している。
連合国でも北方にあるこの国も春を迎えたが、冬のあいだ降雪も多く、溶けた雪で地面が泥濘、地上部隊の侵攻を遅らせていた。
陸軍に合わせていたら、敵に対策の時間を与えてしまう。ということで、空軍は一足先にニーヴァランカ軍の重要拠点への先制空爆を仕掛けて回っているのだ。
いくつものグループに分かれているのを幸い。この機会を逃さず、分散している第三空中艦隊を各個に撃破する!
SS諜報部の報告で、敵艦隊の攻撃目標、そしておおよその位置は掴んでいる。そして先行したドラゴンアイ偵察機が、最新の敵の位置をこちらに通報した。
『ザパニーヴァ平原上空、帝国艦隊を発見。高度3000。クルーザー5、コルベット8、巡航速度にて東進中』
「城塞都市ピェーリルを目指す、第十三巡洋戦隊と三十五、三十六護衛隊だな」
事前情報と、敵艦の位置、数からそう判断する。ニーヴァランカの防衛拠点であるピェーリルを爆撃するために派遣された艦隊だ。帝国軍は、拠点があるなら一般人が住む都市でも容赦なく攻撃する。住民が犠牲になる前に何とかしなくてはならない。
エメロードが振り返った。
「司令、攻撃隊を発艦させますか?」
「やってくれ」
俺が承認すれば、緑髪のシップコアは、早速、全艦に戦闘配置を発令した。
「エメロード、俺は格納庫を見てくる。少し任せる」
「畏まりました。――『リヴェンジ』『マローダー』より、第一次攻撃隊、発艦」
俺は空母の艦首部分にある艦橋から、後方へと向かう。なお、艦橋から通路を行くと、格納庫を見渡せる管制室に到着する。シェイプシフター管制官が、指示を飛ばす中、俺は管制室の窓から格納庫を見渡した。
長さ60メートル、幅40メートル、高さ15メートル。そこに駐機されているのは、TF-5ストームダガー戦闘機と、TA-2タロン攻撃機だ。
軽空母の小さな収容能力に対応するため、翼を折り畳んだ状態で格納されている航空機群。
主翼を広げると、ダガーのように見えるTF-5は、シャドウ・フリートでも活用している戦闘機だ。今はその翼を格納しているので、クナイのような形である。
一方、TA-2タロンは、対地攻撃を主な任務として開発された攻撃機だ。俺の元いた世界では、かつての急降下爆撃機、ユンカースJu87――愛称シュトゥーカに似た機体である。Ju87からプロペラと固定脚をなくし、ひとまわりサイズダウン、胴体の長さを短くした感じだ。格納庫では翼を折り畳んでいるため、わかりにくいが、主翼を展開すると逆ガル型になる。
そのタロンの武装は、主翼にマギアカノーネを内蔵。機首に20ミリ機関砲1門、胴体下部にウェポンパイロン、主翼裏に同じくウェポンパイロンを4基備える。
今回は、対艦攻撃任務ということで、胴体下にASM-1対艦ミサイル1、主翼に多連装ロケット弾ポッド、もしくはASM-1を懸架する。
類別としては艦上攻撃機であるが、実際は艦上爆撃機のほうが近い。
格納庫のサイドゲートが開放され、TF-5、TA-2が魔石エンジンをアイドリングさせた状態で、順次、ふわりと床から浮かび上がる。
これらの艦載機にはすべて、レプリカ浮遊石を積んでいる。重量によって浮遊できる高さが変わるレプリカだが、小型航空機程度なら高度1万は余裕で浮かぶことができた。
さて、本来は翼を広げないと飛べないものだが、浮遊石のおかげで格納庫から発進する際は主翼を閉じたままでも飛行が可能だ。ついでに滑走路も必要ないので、ストームダガーもタロンも直接、外へと飛び立つ。
外へ出ると、エンジンを吹かして加速。同時に閉じていた主翼が開き、航空機らしいシルエットに変化する。
俺は、攻撃隊が格納庫を後にするのを見送り、管制室から再び艦橋に戻る。自分で考え、ウィリディスの面々と作り上げた航空機が飛ぶのを見ると、感慨深いものがある。雛鳥が巣立っていくのを見守る気分だ。
艦橋に着くと、エメロードと話し込んでいたラスィアが報告した。
「TF-5戦闘機一〇機、TA-2艦爆一六機、TH-2艦攻一〇機――第一次攻撃隊、全機発艦完了です。故障機はありません、ジン様」
よし。俺は艦長席に座りながら聞いた。
「攻撃機の数は足りるかな?」
「現状の帝国艦の性能であれば、十分と計算します」
エメロードがさも当然という調子で答えた。ラスィアが補足する。
「なにぶん、タロンとイールは初実戦ですから。もし足りなければ、追加を出せばよろしいかと」
イール――TH-2のことだ。
全長16メートルと、大きめの機体ゆえ、格納庫ではなく、軽空母の上面、発着甲板に駐機させていた機体だ。
形式は、トキトモ工房製ヘリであるが、レプリカ浮遊石を搭載した汎用航空機である。機首にコクピットブロックがあり、そこから真っ直ぐに細長い棒のような胴体が伸びている。主翼はなく、小さな可動尾翼を二枚備えた異質な姿をしている。
空を飛ぶ魚の骨のようなシルエットと言える。イール=ウナギとはよく言ったものだ。全長こそ長いが、幅は主翼がない分、翼を閉じたストームダガー並に小さい機体である。
推進器は、細長い胴体下部にある可動式ブースター1基のみ。
武装は機首に20ミリ機関砲1門を固定装備。あとは胴体にウェポンパイロンを兼ねた、マルチラックが2基。輸送コンテナなどを運べるイールであるが、今回はASM-3大型対艦ミサイルを2発搭載しての出撃である。
赤の艦隊航空隊が、いよいよ連合国戦線で初の実戦を迎える。熟練のシェイプシフターパイロットとゴーレムコアたちの操るこれらが、帝国の小艦隊をどう屠るのか。
俺は戦況モニターをじっと見守るのだった。
TF-5ストームダガー
全長:9.0メートル
武装:プラズマカノン×2
20ミリ機関砲×1
ミサイルパイロン×3
乗員:1名
小型艦上戦闘機。TF-1ファルケをベースにした機体。展開式の翼をもち、格納時の状態はクナイ型、展開するとダガーのような形状になる。
基本任務は制空権の確保。対地・対艦装備も可能だが、小型機ゆえ、搭載量は少ない。
現状、仮想敵の大帝国に戦闘機が存在しないため、地上掃射や敵性飛翔生物の迎撃を担当する。
TA-2タロン
全長:9.4メートル
武装:マギアカノーネ×2
20ミリ機関砲×1
ミサイルパイロン×3
ロケット弾ポッド×2
乗員:1名
小型空母での運用を考慮して開発された小型艦上攻撃機。だが実質は、対地上戦力攻撃用の軽量爆撃機。小型ゆえに武装数は少ないものの、連続使用が可能なマギアカノーネ(魔法砲)による対戦車・対ゴーレム掃射を得意とする。
折り畳みの主翼を持ち、小型空母の格納庫でも多く積めるように作られている。




