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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第667話、ズィーゲン平原会戦の後  


 敗走する大帝国軍。俺はディアマンテから簡易な報告を受けた。ウィリディス軍に後の指示を出し終わった後、グラディエーターを降りてジャルジーのいる天幕へと向かった。


 ケーニギン軍の兵士たちが、俺を見て熱のこもった敬礼を送ってくる。……うん、君らも、今回はよく頑張ったぞ。


「侯爵閣下!」


 ジャルジーの補佐をする重臣たちからも同様の礼を受け、俺はジャルジーと面会した。

 ライトスーツを脱ぎ、服を着替えたジャルジーは天幕から部下を全員追い出して、俺に席を薦めた。


「大勝利だ、兄貴。まだ信じられない!」

「事実だ。4万6000もの帝国軍はその主力を失い、国境へ逃げている」


 簡素な木の机には、ズィーゲン平原一帯の地図と、カップにワインボトル。ジャルジーは一杯注ぐと、俺にカップを差し出した。


「まずは乾杯だ」

「勝利に」

「戦死した勇者たちに」


 俺とジャルジーはそれぞれ、一杯呷った。乾いた喉に、効くなこれは――


「何か気になることでも? ジャルジー」

「……いや、戦いには勝ったが、犠牲も出た。戦場でぶつかれば兵は死ぬ。歩兵として闘った名の知れぬ者にも家族がいて友人がいた」


 公爵殿の表情が暗く沈む。


「手塩にかけて育てた自慢の騎兵連中が全滅してな……」


 騎兵――戦場を迂回して、敵本陣の側面を突こうとした500の騎兵。大帝国の決戦兵器ともいうべき魔器使いの一撃で文字通り全滅したのだ。


 魔器の恐るべき威力は、俺も連合国で戦った頃に何度も経験している。見知った友人が、遺品ひとつ残さず消滅したりする。当時、バニシング・レイやルプトゥラの杖を使った殲滅戦法を俺は多用したが、そのきっかけは敵の魔器に対する報復から始まっている。


「今でこそ、戦闘機や戦車があるが――」


 ジャルジーはしばし頭を抱えた。


「それまで騎兵は、オレにとって心血注いで鍛え上げてきた猛者たちだった。それが……一瞬で」


 わずかに涙声になるジャルジー。こいつは、強いものや気に入ったものを贔屓にするところがあるから、それだけ大事にしていたものの喪失は堪えたのだろう。

 これが戦争だ、と言うのは簡単だが、だからと開き直るのは簡単ではない。


「すまん、兄貴。せっかくの勝利に水を差すようなことを言って」

「いや、今日のことは忘れないでやってくれ」


 幸いなことに、ウィリディス軍には『人』の犠牲は出ていない。一部破損したり、機械に故障はあるが、シェイプシフターたちは、たとえゴーレムに潰されてもそうそう死なないし。


「それで、話を聞こうか、兄貴。我が軍は2000の兵が追撃を行っているが、他は補給や部隊の再編成中だ」

「ウィリディス軍は、ベルさんを指揮官に敵の追撃と掃討中だ。一航戦の航空隊による追い打ちと、ディアマンテ以下航空艦隊による、敵集結部隊への艦砲射撃を計画している」

「……すると、大帝国軍が残存兵力をまとめて反撃に出てくることはないと?」

「ああ、西方方面軍は、シェーヴィルまで戻って立て直さないといけないほどの大損害を出したからな」


 西方方面軍司令官ヘーム将軍は、捕虜になるのを嫌い自決。王国軍は、投降した千人規模の帝国兵を捕虜としている。


「特にヘーム将軍を失ったことで、西方方面軍の運営自体に支障が出るだろう。後任の指揮官が着任するまでは、まず大きな作戦行動はとれない」


 新しい指揮官が到着しても、ヴェリラルド王国侵攻の失敗で、方面軍の半分を失ってしまっている。再編成や行動計画もやり直しとなるだろう。

 ジャルジーは頷いた。


「……じゃあ、この指揮系統が整っていないうちに、西方方面軍の本部であるシェーヴィルに攻め入る?」

「ヴェリラルド王国は、シェーヴィル王国とあまり仲がよくないのだろう?」


 俺は腕を組んだ。


「その元シェーヴィル王国から正式に救援を求めてこない限りは、手を出す必要はないよ」

「しかし好機ではないか?」

「いや、こっちに旨みがまるでない」


 シェーヴィルを帝国から奪ったところで、戦費や現地住民への物資供与などを強いられる。それは当然ながら統治する側の負担だから、王国の財政に影響する。


 まさか解放した住民らに支援もなしでは、単に支配者が変わっただけに過ぎず、元より仲のよろしくないシェーヴィル国民らの反ヴェリラルド感情を強めるだけになる。


「占領地を増やすような戦争はやらない」


 俺は、改めて言った。


「むしろ大帝国には、その広大な占領地を右往左往してもらう。範囲が広くなればなるほど、彼らの移動や輸送が負担になる。連合国国境から、ヴェリラルド王国の国境まで、陸上をいったらどれくらい時間がかかると思う?」

「……しかし、敵には飛行する船がある」

「そう。だから、そいつらをまず全滅させる必要がある」


 思わず、口元が緩んだ。


「この戦いには、連合国にぜひ頑張ってもらわないといけない。西方は、敵の動きを牽制することで敵の資源獲得を防ぐに留め、ある程度の戦力を貼り付けさせる」


 今回派手にやったから、帝国も相応の戦力を西に置かないといけなくなっただろう。


「そこで奴らの空中艦隊を叩けば、より効果は大きくなる」


 陸路での移動は時間と食料、物資をより消耗する。現地徴発という手もあるが、そんな手はそう何度も使えるはずもなく、滅ぼしてしまえば以後使えないし、残った住民らも帝国への反発が高まる。もしそんな帝国を蹴散らすような味方が現れれば、そちらへの協力は惜しまなくなるだろう。


「では、ウィリディス軍は連合国へ行く、と」

「ポータルがある。すでに各所に配置済みだ。いつでも艦隊を連合国や帝国に送れる」


 それに。


「シャドウ・フリートはすでに活動中。連合国で活動する専用部隊も準備が整いつつある。今回のズィーゲン平原会戦で、敵の補給艦を8隻捕獲した。さらに撃沈して地上に落着した艦艇も、使えそうなやつを回収して、戦力に組み込む予定だ」

「では、兄貴。オレたちが当面すべきことは?」

「国境を固めることと、戦力の強化かな。……お前のところの騎兵もそうだが、失った戦力の再編や訓練が必要なのは、こちらも同じだからな」

「そうだな、せっかく兄貴からもらったソードマンも半分近くがやられたからな」


 多数の敵ゴーレムとの戦闘。帝国軍が新式の鉄鬼を配備していたため、AS部隊に思ったより損害が出た。昨年までの黒鉄が相手なら、もっと楽だったのだが。

 承知した、とジャルジーは首肯したが、すぐに俺を見た。


「だが、兄貴は戦地を飛び回るんだろう?」

「ああ、シャドウ・フリートで帝国内を引っかき回したり、連合国が勝てるように帝国軍の戦力を潰したり――」


 そう考えると、大人しくしておくヴェリラルド王国と違い、俺は普通に戦争して回ることになるんだな……。

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