第664話、奮戦する王国軍
ジャルジー公爵率いる王国軍は、新たに戦場に現れた大帝国軍に対して緊張感を高めていた。
接近するは帝国戦車群とゴーレムの壁。
「右翼の野砲部隊は、そのまま接近する敵戦車を砲撃します!」
フレック騎士長が告げた。
「射程に勝っていますから、ある程度は叩けましょうが、敵の砲の射程に入れば、長くはもちません!」
「敵がこちらに甲鎧を差し向けてくれていれば……」
ジャルジーは苛立ちを露わにする。
野戦砲は、戦車のように機敏に動き回れない一種の固定砲台のようなものだ。攻撃する分にはいいが、敵からの反撃には脆い。
アーマードソルジャー部隊も、平地での戦いでは戦車を相手にするには少々分が悪い。高さ6メートルほどのボディは、さぞ戦車にとっては大きな的だろう。動き回らないと狙撃される。相手がゴーレムなら互角以上にやれるのだが。
「敵も馬鹿ではないということだ。オレも『王虎』で出るぞ!」
「閣下が出陣なさるというのなら――」
エクリーン・クレニエールは、うっすらと笑みを浮かべた。
「わたくしもお供いたしましょう」
「いいのか、エクリーン?」
未来の嫁――いちおう王都の魔法騎士学校を卒業し、その力は上位十指に入ると聞く。
「わたくしも、ウィリディスで、ASの訓練を受けた身。足手まといにはなりませんわ」
一瞬、どう答えたものか、ジャルジーは答えに詰まった。確かに、今回参陣の折り、エクリーンはASを1機、持ってきていた。ソードマンではない機体だから数のうちに入れていなかったが……。この際、贅沢は言っていられないか。
「……すまん。お前はオレが守る」
「お戯れを。わたくしが貴方様をお守りしますわ。次期国王陛下」
ジャルジーとエクリーン。しばし視線が交差し、どちらともなく不敵な笑みがこぼれる。
右翼陣地の75ミリ野砲が砲火を開いたようで、その砲撃音が木霊する。フレック騎士長が、何とも声をかけづらそうに咳払いを入れた。
「閣下、ウィリディス軍航空隊が急行中。間もなく、攻撃を開始するとのこと」
・ ・ ・
迫る大帝国軍の戦車群。黄土色に塗装されたボディから突き出た角のような砲身。平原を踏み荒らして進む鋼鉄の野獣。
対して王国軍の75ミリ野砲が火を吹く。長砲身砲から放たれた徹甲弾は、それら帝国戦車の正面装甲を貫通する。
爆発、息が切れたように擱座する戦車。しかし全体の進撃は止まらない!
くそ――野砲部隊指揮官であるケルンは、迫り来る敵戦車の群れを睥睨し、歯を剥き出した。
四十代、目つき鋭く、口ひげを生やした厳めしい騎士長である彼は、ジャルジー公より直々に野砲部隊の指揮官に任命された男だ。
砲弾を装填。狙いをつけ、発砲。猛訓練で培われた部下たちの練度は素晴らしい。
発砲による轟音は耳に痛いほど響く。命中すれば敵戦車は火の車。しかし外れれば、むなしく地面を吹き飛ばすだけで終わる。
まだ敵は撃ってきていない。まだ距離があるからだ。だが連中が揃って足を止めた時、それは敵の57ミリ砲が王国陣地を襲う時。
ほぼ身動きできない75ミリ野砲は、的同然に狙い撃たれる。その時は砲手たちもまとめてやられてしまうだろう。
野砲に混じり、アーマードソルジャー『ソードマン』がロングライフルやマギアライフルによる射撃で、敵戦車の攻撃にかかる。王都軍とケーニギン軍でカラーリングが異なるが、胴が黒いのがケーニギン軍の機体だ。
いざとなれば、ソードマンが保持する盾で野砲陣地を守ってくれるという話だが……どこまであてにできるか、ケルンは信用できずにいた。
「まだ、止まらぬか……!」
いつ、奴らが砲撃してくるかわからない。だからこそ焦る。冷や汗が肌を伝い、呼吸が自然と荒くなる。
そしてとうとう、帝国軍戦車群が停車した。その短砲身57ミリ砲が、野砲陣地に反撃の砲弾を打ち込まんと照準をつける。
ケルンや砲手たちは背筋が凍った。そして次の瞬間に来るだろう、恐るべき凶弾に身構える。
爆発!
吹っ飛んだ。敵戦車が!
空から飛んできた超高速飛行物体が、帝国戦車に突き刺さり、火山の如く炎を吹き上げさせたのだ。
来た――!
ウィリディスの航空隊だ。
トロヴァオンが、ドラケンがその胴体や翼の下に運んできた対地ミサイルを放ち、最大の脅威である帝国戦車を次々に粉砕していく。
「ヤァー!」
思わず歓声を上げる王国兵たち。絶体絶命の瀬戸際だったから、その意気の上がり方も凄まじかった。
戦車群を排除したなら、あとはゴーレムと歩兵である。遠距離攻撃手段のない連中がのろのろと前進してくるところを一方的に叩ければ――
だがケルンの表情は強ばる。
そう簡単な話ではないのだ。後続の敵は、戦車の数よりはるかに多い。装甲物であるゴーレムと、それ以外の歩兵では、野砲が使う砲弾も異なる。
ゴーレムには榴弾は効果が薄く、戦車同様、徹甲弾が望ましい。一方で歩兵に対しては、装甲貫通力よりも、飛び散る破片も凶器となる榴弾がベスト。
つまり、野砲はどちらか一方に有効な砲弾を撃つしかない。だがそのどちらかを叩いている間に、残るほうが接近してくる。中途半端に両方を叩こうとしても、圧倒的な数で迫る帝国軍を防ぎきれない。
だが、逡巡する指揮官をよそに、トロヴァオン戦闘攻撃機が無誘導爆弾を投下、敵兵をまとめてなぎ倒せば、ASソードマンが帝国ゴーレムを迎え撃つべく前に出た。ある機体はマギアライフルから電撃弾を撃ちながら。またある機体は盾を構え、実体剣を手に。
さらに――
「おおっ、あれは、公爵閣下の『王虎』!」
ジャルジー専用ASまで戦場へと踏み出したのである。
だが、対する帝国ゴーレムもまた、足を止めず果敢にもソードマン部隊に突っ込んでくる。
「……薄々感じてはいたが」
ケルンは、味方ASと敵ゴーレムが武器で殴り合うさまを見やり、唾を飲み込んだ。
「帝国のゴーレム……噂の新型か……!」
AS-01ソードマン:ウィリディス製アーマード・ソルジャー。王国軍の主力量産タイプ。基本形態であり、標準的な装甲、バックパックブースターは1基のみと、取り立てて秀でた部分はない。その一方、癖がないため扱いやすい。
中身の素体は、他機と共通のため、部品の交換が容易く、またバリエーションが多い。




