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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第642話、弔いの炎


 ダンジョンコアは、魔力を使って様々なものを生成することができる。


 天然のコアは、魔力を効率よく集めるために、ダンジョンを自分に都合のいい環境に作り替える。さらに必要なら自身を守るための魔獣を作る。

 ダンジョンコアは、マスターを持つと、その指示に従い、ただの洞窟風しか作れなかったダンジョンを、城や遺跡などの人工物風に作り替えることができる。


 マスターの知識や指示を再現できるのであれば、例えば現代風の文明の利器も作ることができるのではないか?


 設計図のある現代武器などを、ディーシーに覚え込ませたら、普通に作れるのではないか、という考えに至った。サフィロなどの人工コアもやっていたから、天然コアだって、理屈の上では可能ではないか。


 彼女が空中艦キアルヴァルを、現有する知識を動員して再生させようとしたのを見て、それは確信に変わった。艦砲としては不適格を言い渡した自動熱戦砲台だが、彼女はそれを生成できるのだ。


 かくてディーシーは、生成物のバリエーションにウィリディス製の『機械』や『兵器』を新たに加えた。

 大帝国戦北方の守りに配備がはじまった75ミリ野砲も、そこそこお高い魔力を代価に作ってみせたのだ。


 スール研究所の地下、警備の鋼鉄ゴーレムが二体、その巨体を動かしてこちらへと迫る中、ディーシー生成の野砲が火を噴いた。


 距離が距離だけあって、瞬きの間に着弾。鈍い音と共に爆発が起きて、ゴーレムが一体上半身を吹き飛ばされて倒れ伏した。


 あー。


 近くで大砲が発砲すれば、そりゃ耳がおかしくなるもので、俺は遅まきながら耳を押さえ、治癒魔法を使用。ユナやエリサは両耳をふさいで、しゃがみ込んでいる。


「あー、ディーシー……」

「なんだ、主よ」


 ふてぶてしいまでの笑顔のディーシーさん。俺はあと一体も撃て、と手を動かして合図すると、再び耳を塞ぐ。

 何やらそばで、涙目のラスィアさんが喚いている。あ、えっと聞こえない。でも耳を開けたところでまた発砲したら面倒……あ、そうか。


 俺は遮蔽魔法を使い、野砲の音と衝撃を抑える。二回目の発砲は実に静かだった。鈍重な、しかし割りと近くまで迫っていたゴーレムは哀れ、砲弾の前に爆発四散した。


 魔法を解除したら、ラスィアさんが声を荒げていた。


「次! 次からは、もっと早く教えてください!」


 ダークエルフのとがった耳って、人間より聴覚優れているんだろうか? すまんな、と詫びた後、SS兵たちに監房の亜人たちを助けるよう命じる。


「さて、ラスィアさん。その可愛いお耳は痛いかもしれませんが、亜人たちとの仲立ち、よろしくです」

「ええ、わかっていますとも……」


 まだ耳の奥がぐわんぐわんいっているっぽいラスィアさんは、監房区画を進む。エリサがストレージバッグを下げて、ダークエルフさんの後に続く。


 視線を他にむければ、ユナがディーシーに野砲のことを何やら問いただしていた。おおかた魔力を使って機械を具現化させたことについてだろうな。

 俺は、ベルさんに声をかける。


「どうしたんだい?」

「……妙だな」

「監房の警護がゴーレムしかいないことについて?」

「それに対する答えを知りたいか?」

「……知ってるのか、ベルさん?」


 ああ、とベルさんは、どこかの刑務所みたく広い監房区を眺める。


「ここに囚人がいないからだ」

「何だって?」


 俺たちは捕まっている亜人たちを救いにきた。なのに、その亜人たちがここにいない?


「気配がしない」

「どういうことだ? ここにいた人たちはどこに?」

「さあな。だが、情報どおりなら、捕虜はこの研究所にいて、明日か明後日には魔力レーダーとやらの部品が作られるわけだろう……?」

「……」

「……」


 俺とベルさんは黙り込んだ。最悪の予感しかしなかった。

 そしてその予感は的中してしまうのである。



  ・  ・  ・



 スール研究所は制圧された。監房区画に捕虜はいなかった。


 守備隊は壊滅し、ウィリディス・ダークエルフの連合部隊は周辺警戒と施設の捜索を行った。

 研究所の実験室で資料は押収した。魔力レーダー、大帝国の呼称は『魔照(ましょう)装置』と言う。その試験モデルを回収。

 さらに明日から生産が開始される予定だった装置の部品倉庫を探した結果、すでに専用の容器にパッケージされた生体部品が、きちんと並べられた上で山となっているのを発見した。


 ルカー氏とラスィアさん、そして俺たちは、その無機的な部品に変わり果てた亜人だったものの姿に、しばし言葉を失った。


「これは、まだ生きているのか……?」


 ルカー氏が絞り出すような声を発した。ベルさんが低い声で言った。


「あぁ。まだ生きている。いや、動いてはいるが、果たしてこれを生きていると言っていいのかどうか」


 緑髪の魔女にして半サキュバスのエリサが俺を見た。


「元に、戻せる?」

「君ができないのなら、俺にもできないよ」


 そもそも身体はどこにある? エルフたちの秘薬の力をもってしても、どうにもならないだろう。


「我々も、こうなっていたかもしれない」


 ルカー氏は能面のように表情を動かさない。


「これが……こんなのが、果たして生きていると言えるのか!」


 トキトモ侯爵殿――ダークエルフの族長は俺に向き直った。


「このような醜き姿を晒してまで生きたいと私なら思わない。介錯してやるべきだと思う」

「……」


 どのような姿に変わったとしても、生きている――それが俺に答えを躊躇わさせた。この生体部品となった者たちに、果たして意識はあるのか? 元に戻せないとはいえ、もし意識が存在するのであれば、それを奪ってしまうことが正しいことか? 


 仮に意識があって、生体部品となっていることが苦痛であるなら、ルカー氏の言うとおり、楽にしてやるべきではある。


 わからない。


「トキトモ侯爵殿、我が同胞を救ってくれてありがとう」


 そのルカー氏が押し殺したような声で告げた。


「同胞の敵討ちの機会を与えてくれたことにも感謝する。……ここから先は、私が引き受けよう」


 すっと、ルカー氏は短剣を抜いた。


「この犠牲者たちが怨むのであれば、それはすべて私が受け止める。貴殿が抱え込むことはない」


 そう言うと、ルカー氏は炎の魔法を唱えた。生体部品が納められたケースもろとも、炎が広がっていく。


「……すまない」


 やったのはダークエルフのルカー氏。そういう言い訳を作らせてしまった。族長の好意に俺は甘えてしまうことしかできない。火の手がまわり、何をしても手遅れなのだから。


「これは火葬だ」


 ぽつり、とルカー氏はじっと炎を見つめていた。


 俺たちは倉庫から避難する。ただちに全員をスール研究所から撤退。その後、巡洋戦艦ディアマンテによる高高度艦砲射撃により、研究所は建物ひとつ残さず破壊された。

 守備隊に生存者はいない。ダークエルフたちが投降を認めず殲滅してしまったからだ。

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