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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第633話、艦長席に座って不気味に笑っている奴


 アミナの森の開拓隊は、現地に到着し、森を進んでいるという報告が入った。


 ドラゴンアイ偵察機を森の遥か高空に貼り付けていることで、魔力通信、ならびに魔力映像をノイ・アーベントやキャスリング基地に中継可能としている。


 これで些細なトラブルでも俺のもとに連絡が飛び、シェイプシフター兵にもたせた携帯型ポータルで即現地に向かうことができる。


 今回のダークエルフの民受け入れの件をエマン王に報告……は、いいか。

 そもそもラスィアさんに協力したのは、冒険者時代に世話になった関係で、侯爵としてではなく冒険者としてである。ダークエルフの民がトキトモ領内だけに留まる限りは、王といえど強制はできない。


 それに大帝国への作戦行動は、王国に迷惑をかけない上でなら、俺が独自に活動することは許可を得ている。以上、報告の義務はなし。……後から何か言われるかもしれないがな。


 そんなこんなでアリエス浮遊島でディアマンテと打ち合わせをしていたら、唐突に彼女は言った。


「閣下、ジャルジー公が見えられています」

「ジャルジーがアリエス島に?」


 ウィリディスやキャスリング基地のポータルを使えば、移動は可能だ。もちろん、キャスリング基地やアリエス島のポータルは、事前に許可された者のみしか通れないルールとなっている。

 そのルールに照らし合わせると、ジャルジー公爵は、許可された人間である。


「こちらを探しているのか?」

「いえ、いつも私の――いえ、当艦の艦橋にいらっしゃるのですが、今回もそのようです」

「いつも?」


 ディアマンテに乗艦して、艦橋にいる? あいつは、いったい何をしているんだ?


「艦橋のキャプテンシートがいたくお気に入りのご様子で、そちらに座られると、しばらくニヤニヤしています」

「……」


 気持ち悪い奴だな。思ったが口には出さなかった。


「公爵は、あれで結構ガキだからな……」


 どれ、実際に会って様子を見てやろう。俺はディアマンテを連れて、アリエスドック内の巡洋戦艦ディアマンテへと向かった。


 アリエス島の魔力収集装置から供給される魔力で、艦艇の修理はぼちぼち進んでいる。

 なお、全長271メートルの巨艦である。ドックから艦へ乗り込むだけでも歩き、艦内に入ってからも、艦橋に上がるまでそこそこ歩かされた。


 白と灰色が占める艦橋内。古代機械文明時代当時の設備が復元再生され、見た目だけなら、すでに艦が動かせそうに見える。


 艦橋中央の艦長席には、ケーニギン領公爵であり、次期国王のジャルジーがいた。肘をつき、正面の強化窓からドック内の景色を眺めているように見えた。


「ジャルジー」

「! おう、兄貴」


 公爵殿は相好を崩して、俺を迎えた。といっても席は立たなかった。


「どうしたんだ、こんなところで?」

「それはこっちの台詞だよ、兄弟」


 何をしていたんだ、と問えば、ジャルジーは正面に向き直った。


「うむ、オレがディアマンテを指揮して、王国を侵略する敵を撃退するのを想像していた」


 ふ――思わず噴き出しそうになって何とかこらえた。

 それは……何とも、男の子らしい想像だと思う。俺もガキの頃に、宇宙戦艦の艦長になって異星人と戦う想像した口ではあるが。


「アンバンサーとの戦いでな――」


 ジャルジーは目を閉じた。


「アンバルが敵の船と戦うさまを下から見ていた。……あの大きな船が空を飛んで、戦う。これほど胸の躍る光景もあるまい」


 ダスカ氏が艦長を務めた巡洋艦アンバルが、アンバンサー母船と交戦した時の話だろう。


「このディアマンテは、アンバルよりも強い船だと言う。大帝国が空中艦を多数保有しているのは聞いている。連中が攻めてきた時、ここで奴らと戦うのは誰か――」


 ジャルジーは、どこか自嘲するように口元を歪めた。


「まあ、オレではないのだろうな、と思う」

「戦いたいのか?」

「そりゃあ兄貴。オレはこの国の王になるんだ。国を守るために率先して戦うのも役目のうちだ」


 彼は、キャプテンシートに深々ともたれた。


「兄貴。……オレは兄貴が羨ましい」

「……」

「兄貴はすでに英雄で、武に優れ、魔法に長ける。オレたちでは及びもつかない知識をもって、古代文明時代の兵器すら操ってみせる。……ついでに聖剣持ちだ」


 冗談めかすように言うジャルジー。いつになく真摯に、胸に流れてくるものを俺は感じた。……何故だろう。この姿でいることが、ひどく失礼である気がした。

 俺は変化の魔法を使い、かつての、三十歳の俺の姿に戻る。


「オレは、英雄物語が好きだ。連合国に、大竜を立て続けに討伐した英雄魔術師が現れたと聞いて、会えるものなら会いたいと思った。それがオレの、ジン・アミウールへの最初の憧れだった」


 ジャルジーは独白するように続けた。


「連合国の英雄として、大帝国を撃退するジン・アミウールの話にオレは興奮した。生きた英雄の活躍には胸が躍った――」


 そこで彼は振り向き、目を見開いた。そこにいたのは俺。しかしその姿は、二十手前の少年ではなく、痩身の青年。


「――それが兄貴の、ジン・アミウールの本当の姿?」

「……がっかりしたか?」


 英雄と呼ばれる男には、見えないだろう。冴えないくたびれお兄さんだからな。


「いや、例え姿がどうあろうと、オレは兄貴が真の英雄たる力の持ち主だと知っている」


 そう言いながら、ジャルジーは目頭を押さえだした。


「おいおい、泣いているのか?」

「馬鹿を言うな! と、言いたいところだが、そうだな。何故か涙が出てきた。憧れの英雄に会えた、そんな気分だ――」


 ああ、俺も何かしらんがこっぱずかしいというか、妙な熱さを感じているよ。

 感動していらっしゃるジャルジーが落ち着くのを、俺は黙って待った。余韻というやつにひたらせてやる。


「なあ、兄貴」

「何だ?」

「兄貴は、ここしばらく大帝国との戦争を考えている」

「そうだな」


 未開地をもらい、ウィリディスと名付け、そこに眠る大量の魔石を手に入れてから、俺の思考は対大帝国へ向き、それが攻めてきた時のための軍備を整える方向へシフトした。


 その根本を辿れば、いま計画しているシャドウ・フリート構想、それが元となっている。正体不明の軍隊が颯爽と戦地に現れ、大帝国軍を撃破していく――英雄魔術師として突出した活躍をしたために、身内である連合国に裏切られた俺。それゆえ、俺の正体を隠しながら、敵を倒せるように準備を進めた。


 だがウィリディス軍が、アンバンサー戦役で表沙汰になってしまったため、新たにシャドウ・フリートを作る羽目になってしまったのだが。


 気づけば、古代機械文明時代の艦艇まで手に入れて戦力化している。当初の想定以上の軍備をよくも短期間で整えたものだ。


「……兄貴、ヴェリラルド王国は大帝国に勝てるだろうか?」


 ポツリと、ジャルジーは問うた。

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