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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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629/1944

第626話、アコニト到着


 ダークエルフの里、ラスィアさんの故郷は『アコニト』というらしい。


 魔の森と呼ばれるニゲル、その奥深い地に集落がある。エルフの里のように古代樹がひしめいているわけではないが、中々立派な木々が立ち並ぶ。


 集落の中央が開けていて、それを囲む形でダークエルフたちの住居――ツリーハウスがある。

 うっすらと煙がたなびいている。しかも周囲の木々が十数本ほどなぎ倒されていた。シズネ艇でも余裕のそのスペースをみて、俺は、ここに大帝国の艦が降りたと察した。


 荒れ果てたダークエルフの里。武器や道具の類いが散らばり、所々流血の跡がある。だが、ダークエルフたちの死体はもちろん、その姿はまったく見当たらなかった。大帝国の戦車が一台、大破炎上していたが、それ以外はやはり死体のひとつもなかった。


「皆……」


 ズァラが膝をついて、無人の集落を見やる。

 ラスィアさんとアミラが家まで行くが、大帝国の攻撃で木は吹き飛び、家財が焼け焦げ、散らばっているのみだった。

 少女の号泣がむなしく集落に響いたが、それに応えるものは里にはなかった。


 シェイプシフター兵を集落とその周りに散らばらせて捜索させるが、おそらく芳しい成果はないだろう。


 俺のもとに、リーレとヴォード氏がやってきた。


「人っ子一人いねえな……」

「やはりジンの話のとおり、敵に連れ去られてしまったということか」

「それがわかっただけでも収穫ですよ」


 俺の言葉に、ヴォード氏が首をかしげる。


「しかし、普通なら、どこをどう探せば、ダークエルフたちを助けられるのか、皆目見当もつかないところだ」

「うちの連中を追跡に出していますから、まもなく報告があると思いますよ」


 とか言っていたら、シズネ艇からシェイプシフター兵の伝令が駆けてきた。


『閣下、「アンバル」より入電です。目標を捕捉、現在追尾中』

「よろしい。奪回作戦計画に則り、行動を開始する。俺も『ペガサス』に移動する」


 行きますか? と俺はヴォード氏に声をかければ「無論だ」と彼は力強く頷いた。


 ラスィアさんたちが来る。


「ジンさん、これから……」

「ええ、里の人たちが捕らわれていると思われる敵艦を襲撃します」

「私たちも――」


 参加したい、という彼女たちの申し出。俺としても断る理由はない。


 というか、むしろダークエルフたちの救出時に、同族であるズァラやラスィアさんがいないと、先方に味方と思ってもらえないと思うんだ。

 だから嫌といっても協力してもらうよ。



  ・  ・  ・



 シズネ艇のポータルから、大帝国の最前線へ。俺たちがついたのは強襲揚陸巡洋艦『ペガサス』である。

 その艦橋に上がれば、シップコアを務める青髪の女軍人――サフィロデータその2であるサフィーが出迎えた。


「侯爵閣下が見えられました」


 テラ・フィデリティアの軍服を模したその姿。しかし軍帽にはしっかりウィリディス軍の紋章が入っている。


 俺の後ろでは、状況に追いつけないラスィアさんやヴォード氏が固まっていた。

 ポータルを潜った先が、古代機械文明時代の航空艦艇の中。金属の壁や天井、そして床で、見慣れない光景とあれば、呆然としてしまうのも無理はない。シズネ艇ですらそうなのだから、アンバル級とほぼ同じ巡洋艦の艦橋ともなればなおのことだ。


 俺はキャプテンシートまで歩み寄る。先に来ていたベルさんが、コンソールを足場にしていた。

 席にはサフィーと同じくウィリディス軍軍服姿のアーリィーが座っている。


「状況は?」

「ボクたちは、現在高度9000メートルを航行中だよ。目標は遙か下の高度3300メートル付近を、時速50キロで北に向かってる」

「高度3300……。連中、最大上昇高度が上がってるのか」


 俺は、キャプテンシートの背もたれに肘を置き、アーリィーが見ている彼我のホロマップを見やる。


 大帝国の空中艦の最大高度は3000メートル付近だったと記憶していたが……。それよりも高い高度を目標のクルーザーと輸送艦は飛行している。新型のエンジンでも積んでいるのかな?


「しっかし、帝国野郎の船、遅すぎね?」


 ベルさんがそんなことを言った。


「確かに、時速50キロは遅すぎるな」


 大帝国は空中艦を配備しているが、まだまだ技術的には未成熟といったところか。……俺の世界の飛行船の平均航行速度のほうがもうちょっと速かったんじゃないかな。


「『アンバル』は?」

「作戦通り、敵艦の右後方に向けて迂回中。ボクたち『ペガサス』は左後方から追いかける格好だね」

「よし、作戦を開始、敵艦二隻を鹵獲(ろかく)する。ヴァイパー揚陸艇を発進させろ」

「了解、サフィー?」

「揚陸艇1号から4号まで、切り離します」


 サフィーが応じた。強襲揚陸巡洋艦の後部に連結されていたTAT-1ヴァイパーが順次、発艦する。

 蛇のように細長い胴体に、二基の魔石エンジンとフレキシブルブレードを装備した空中輸送機兼揚陸艇は、浮遊石によって飛行する。


 通常はその腹部にコンテナを積むのだが、今回は敵艦にぶつける突撃型揚陸ポータルポッドを各二機ずつ搭載している。


 ペガサス艦橋で、高度を下げながら大帝国艦に向かっていく揚陸艇の様子をモニターする俺とアーリィー。


「な、なあ……ジン?」


 背後からヴォード氏が声をかけてきた。


「正直、まだおれはこの状況についていけてないんだが……」

「大帝国の空中艦が、捕らえたダークエルフたちを帝国本土へ運んでいる。我々は、その艦を襲撃して、対象を救出する――簡単に説明するとそんなところです」


 俺は極力にこやかに告げた。彼や、後ろのダークエルフたちが本当に聞きたいことがそれかわからないけどね。


 例えば、この艦は何だ、とか、いつの間にこんな空を飛べる古代機械文明時代の代物を手に入れた、とかね。

 あとで今回のことや艦のことを含め、ここで見たことは他言しないように釘を刺しておく必要はあるだろう。


「まあ、オイラと同じく今回は見物を決め込めよ、ヴォードさんよ」


 ベルさんが尻尾を振った。俺は苦笑する。


「出番まで見ていてください。……ああ、それと艦のものには触らないように。聞こえたかい、ズァラ、アミラちゃん」


 びくり、とダークエルフ少女が背筋を伸ばし、傍らの少女戦士もばつの悪そうな顔で、「わ、わかった」と答えた。……色々興味があるのはわかるけどさ。


「ようし、サフィー。『アンバル』に牽制攻撃を指示。当てるなよ……」

「承知しました、閣下。ペガサスよりアンバルに打電――」


 俺からの命令が、大帝国艦の側面へ迂回する僚艦アンバルへと飛ぶ。ヴァイパー揚陸艇が突撃ポッドを上手く運ぶためにも、この軽巡洋艦の働きが鍵を握る。

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