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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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624/1884

第621話、旅人はやってくる


 慢性的な人員不足。トキトモ領はともかく、アルトゥル君が代行統治するフレッサー領など、そもそも人がいない。


 暦の上では3の月に入った。


 直に冬が終わり、春が来る。そうなると人の往来が増える。キャラバンや行商、それらの護衛。希少な動植物、魔獣を狩る冒険者や、巡礼者などなど。


 雪が溶けて、植物が育てば、移動用に使役する馬などの餌が増えるし、道路事情も改善する。……もちろん、場所によってはかえって路面状況が悪化して動けなく場所もあるのだが。


 すでに旅慣れた行商などが、ぽつぽつと我がトキトモ領を訪れていたりする。おそらくフレッサー領やクレニエール領も同様だろう。

 冬の間、閉ざされた集落に品物を持ち込む行商は、どこだって歓迎される。本格的に春が訪れる前に独占的に商売を進めようという者たちだ。


 しかしトキトモ領は、いまノイ・アーベントしか集落がなく、人が少ないくせに魔力生成で品も不足していないため、行商たちは少々当てが外れたようだが……。


 だが彼らは、逆にノイ・アーベントに魅了された。


 旅人向けの格安の宿ですら、一般レベル以上の宿であり、食堂といえば、宮廷料理かと思えるほどのバリエーションと量を低料金で提供。救護所があって、美人の治療師がいる上に、質のいいポーションなども扱っている。


 トキトモ領に町や集落がないのと引き換えに、旅に必要な道具や雑貨などが揃っており、鍛冶屋で武具や道具のメンテナンスも可能。旅の中継拠点として充実していた。

 宿泊予定を延長してノイ・アーベントに留まる者もいて、住民らから話を聞いて回ったりしているという。


「宿泊施設を増設したほうがよいかと存じ上げます」


 ミディアムショートの赤毛を持つ女性――ガーネットが報告した。


 二十代前半。整った顔立ちに紅玉色の瞳の彼女は、緑を基調にした職員制服をまとう。女性にしては身長が高め。――といっても外見はあまり重要ではない。

 彼女は、人工コア『グラナテ』のコピー体その2である。現在、ノイ・アーベントを管理するコアとして勤務している。


「本格的なシーズンを前にこの盛況ぶりですから、現状のままですと宿泊施設がパンクすると予測されます」

「そんなにか……」


 これには俺も苦笑する。ガーネットは目を伏せた。


「閣下の、旅人向けの拠点としてノイ・アーベントを発展させるという方策は正しくありました」


 しかし――とガーネットは目を開いた。


「ノイ・アーベント以外に補給拠点がない現状ですから、数日間の滞在で十分な補給、休養をする者が多くなると思われます」

「想定より長逗留する、ということか」


 とはいえ、集落をポコポコ増やすというわけにもいかない。そもそも、集落に住む人間がいないのだ。


「それと閣下。旅人から、ノイ・アーベントの居住申請が二件ほど来ております」

「……」


 俺が不在のあいだ、ガーネットがここの管理や申請受け付け、その他報告を担っている。で、申請などに対して決断するのは領主である俺の仕事である。


「……今後、この手の申請も増えるでしょう」

「ここに住むというのなら審査が必要だろうな。のべつ幕なしに受け入れるわけにもいかんだろうし。で、希望者は今は宿の部屋を占領しているか?」

「はい。こちらの返事を待っております」

「土地や実際に建てるのは……まあ、それぞれ負担してもらうとして、仮住まいくらいは用意しておくべきかな」


 宿を占領されても困る。……アパートでも建てるかね。


「住民居住地区に幾つか空き部屋がありますので、審査待ちの者はそちらに移ってもらうのも手かと思います」

「なんで空き部屋が……ああ、そうか。店で働いている住民がそっちへ移ったんだったな」


 宿屋や雑貨屋、その他、店や職場を持った住民たちは、それぞれそちらの居住スペースに引っ越している。まだ居住地区から商業区までさほど離れてはいないのだが、家と職場がすぐ近くなのはいいことだ。


「閣下、ノイ・アーベントには建築業の専門家がおりません」

「……家も店も防壁も、ダンジョンコア工法で作ったからな」


 魔力以外に資材を使わず、通常の建築より圧倒的な早さを誇るウィリディス独自の工法。一から復興をはじめて集落の体を成しているのは、それに尽きる。


「今後、建築の需要は高まると予想されます」


 土地、足りるかな……? いや、防壁の範囲を拡大すれば、いくらでも広げるか。この領はすべて俺の土地だから、今のところ土地の権利を巡ってどうこうという問題は発生しない……はずだ。


「当面は領専属の建築業者を作って対応しよう。収益は領の収入になるし」

「はい、閣下。もし私に魔力を供給していただけましたら、直接私が建てることもできます」

「人工ダンジョンコアだもんな、君は」


 むしろ得意分野かな。都市管理用コアというグラナテ――ガーネットである。


「ノイ・アーベントの長を置かないといけないな」


 トキトモ領の領主として、そのうち町も村も増えていくだろうし、大帝国戦に向けて多忙を極めている。こちらにかかりっきりというわけもいかないから余計にである。


「ガーネット、君がやるか?」

「私はあくまで管理とサポートがメインです。もちろんある程度の代行は承りますが、できれば『人間』の責任者を置いていただきたいです」

「今いる住人から選ぶのが妥当か」


 とはいえ、ウィリディスの技術にある程度、詳しくないとここの長は務められないのではないか。


「収入の話が出ましたが――」


 ガーネットは事務的に切り出した。


「領を運営していく上での税収に関してですが」

「近隣と基本同じでいいよ。実際やってみて、問題あれば変えていく。このあたりは、サキリスやマルカスと相談してみよう。何せ、俺はこの国の税とか、よく知らないからな」


 元いた世界でも、中世などでは、『なんでそんな税あるの?』っていう馬鹿げた税がたくさんあったと聞く。うちでは、そういうお馬鹿なものや理不尽なものは基本やらない方向でやっていく。


 サキリスやマルカスは、共に伯爵家の人間であるから、多少は知っているだろう。そうそう、マルカスの兄であるラッセ・ヴァリエーレ次期伯爵にも相談できるな。


「今は人がいないけど、税を低くして、周りから人が流れてくると、その土地の領主からいい顔はされないだろうからね」

「クレニエール侯ですね?」


 このあたりの領主で、実質俺に対して苦言を言えるのは、彼くらいなものだろう。


「ですが閣下、領を経営していくには適度に人口を増やしていくべきですが……」

「大帝国の件が片付いたらな」


 今はそっちも優先事項だからね。だからといって、ノイ・アーベントの民を放置するわけにもいかないが。


 そう考えると、人手が足らないな。労働力はゴーレムとシェイプシフターで足りているんだが。管理運営側のほうで特に。

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