第598話、黒い異形
メカ設定とか、どのあたりで投下するか考え中。
リアナがDMR-M2マークスマンライフルを撃った。それは間違いなく黒い塊に当たった。
やや遅れて、アーリィーと近衛でライトニングバレットを装備する者たちが発砲した。光弾が黒い塊に当たり、それを床へと叩き落とした。
やったか――というのはフラグだが、実際のところ、それを発する余裕さえなかった。
黒い塊はたちまち高さ三メートルほどの人型の姿になり、その腕を振り回した。
とっさにベルさんはデスブリンガーで直撃を防いだが、後ろへと後退させられてしまう。敵の腕の範囲にいた近衛騎士の一人が、いとも容易く吹き飛ばされる。
なんたるパワー!
近衛たちがライトニングバレットの銃口を向けようとするが――
「撃つな! 味方に当たる!」
オリビア隊長のとっさの声。敵は、こちらの部隊の中に入り込んだのだ。距離をとるアーリィーとユナ。対してサキリスとオリビア、そして近接型の近衛騎士は踏み込む。
しかし――黒い敵は跳んだ。
まるでカエルのような大ジャンプ。高い壁まで跳ぶと、一瞬べたりと張り付く。だがすぐに四肢を動かして虫のような壁移動。
リアナやアーリィー、銃持ちの近衛が立て続けに銃弾と光弾を浴びせるが、敵の動きは止まらない。何発か当たっているのだが、血を流すこともなく、手足を失っても平然と動く昆虫のように、壁移動を続ける。
「気持ちの悪い奴だな……!」
ディーシーが吐き捨てる。まったく同感だ。しかもゴキみたく素早い!
「シャドウバインド!」
ユナが補助魔法を唱えた。影のような腕が、異形に絡みつき、その足を止める……。
「っ!? 止まらない!」
銀髪の女魔術師は、さらに魔力を注ぎ込んで拘束を強めるが、異形は影を引きちぎらんとさらに前傾を深めて、前へと進む。
サキリスがユナの隣へ駆けつけ、「サンダーバインド!」と同じく拘束魔法を試みた。電撃による麻痺効果も含むそれだが、異形の足をわずかに緩める程度だった。
だがそれでも、十分足止めになりつつあった。
俺は速攻で魔力を集約、異形に叩き込む。――炎の柱、焼き尽くせ!
業火が炸裂する。金属さえ溶かす高熱の直撃を受け、燃え上がる異形。その時、そいつの顔から口が現れた。尖った無数の歯が見え、開かれた口から咆哮が漏れた。
バトルゴーレムの深紅が、四連の魔砲を撃ち込んだ。大抵の魔獣なら吹き飛ぶその一撃を喰らい、黒い異形の身体がえぐれる。
しかし、倒れない。むしろ拘束魔法を振り切って跳躍すると、着地地点にいた近衛騎士を踏み潰し、青藍と深紅へと飛びかかった。
青藍が長剣を打ち込む。異形は素早いサイドステップでかわすと、青藍の脇を抜け、深紅へと突進、腕から爪状の突起を伸ばすと一閃。深紅の頭と魔砲の砲身が切断された。
「こいつは……!」
背中を見せた異形に、青藍が長剣を横薙ぎに振るう。鈍い打撃音。確実なる一撃だが、異形は頭部をぐるりと回して吼えた。
次の瞬間、背中からスパイクが現れ、青藍の胴体を貫いた。
あっという間に二機のバトルゴーレムを……こいつはまさに、化け物だ! 銃弾も、魔法も、物理攻撃も今のところまったく効いていない。
「ケッ、不死身のバケモノってか!?」
リーレが異形の足下に滑り込む。
「だったらよ、こういうのは、どうよっ!?」
彼女の魔剣がきらめき、確かな手応えと共に、異形の片腕が飛んだ。ぐるる、と異形がリーレへと顔を向ける。
「へぇ、腕は飛ぶのかよ……! ベルさん!」
『……!』
異形が気配を感じたのか、振り向く。暗黒騎士が跳躍、手にした大剣が死神の刃のごとく、振り抜かれた。
刹那の太刀。ほんの一瞬だけ込められた魔王パワーが、異形の太い首を刎ねた。
「首を落とされて生きていられるか?」
ベルさんが着地からの、キメのひと振り。本来は血糊を払う振りだが、異形に血がないのか、剣は冷たい輝きを放ったままの姿だった。
『ガッハッハ……ガッハッハ……ガッハッハ……!』
落とされた異形が声を漏らす。言葉を喋っているわけではない。だがまるで笑っているような不気味な声。まるで壊れた機械のように、繰り返す。
「ひょっとして、まだ、生きているのか……?」
オリビア隊長が目を見開き、近衛騎士たちも凍り付く。アーリィーが叫んだ。
「危ない!」
その瞬間、首を落とされたはずの身体が動いた。そばにいたリーレの首を残る右手で掴み、そのまま駆け出す。
「ぐそっ――」
力まかせにリーレを掴んだまま逃走する異形。振り回される彼女。誰もがとっさに反応が遅れた中、リアナがマークスマンライフルを構えると、一発撃ち込んだ。
異形の右膝がガクリと折れる。バランスを崩し、転倒。ぐぇっ、とリーレが潰れたような声を出したが、そのまま転がるように敵の手から逃れた。
その瞬間、ユナとサキリスが魔法を、近衛のライフル兵がライトニングバレットを雨あられと撃ちまくった。無数の攻撃を背中に受け、一度は膝を貫かれて動けなかった異形だったが、すぐに再生したらしく、そのまま地面へと潜るように沈み、消えた。
「……いったい何だってんだ!」
ベルさんが珍しく声を荒げた。そいつは俺も聞きたいね。そのまま倒れているリーレのもとへ駆けつける。
「無事か? リーレ?」
「げふっ、ああ! ……死ぬかと思ったけどな。うぇっ!」
首が相当痛むのか、リーレはまだ苦しそうだった。あんな振り回され方をしたら、普通の人間なら首の骨が折れて死んでいたかもな。
サキリスが駆けつけ、声をかけるが、リーレはもう大丈夫と答えた。
近衛騎士が三名やられた。二名死亡。重傷の一名に治療が施される。
施設の監視を続行中のディーシーに、逃げた敵異形のことを聞こうとしたとき、魔力通信機が鳴った。
「ソーサラーだ」
『こちらブラック21』
施設内捜索を命じたシェイプシフター第二小隊第一分隊からだった。
『未知の化け物と遭遇、兵は健在なれど、兵器は全滅。TPS-5とTPS-1がやられました』
さっきの奴と別個体だろうが、襲われたようだ。こっちもバトルゴーレムをやられたからな。パワードスーツですら奴には勝てんか。
「化け物はどうした?」
『壁を突き破って移動しました。……追尾すべきでしょうか?』
「できるか?」
『追えますが、化け物への攻撃手段がありません』
そりゃ、首が落ちても動くタフネスだからな。その転がっている首を、ユナがデバステイターロッドで、ぽこぽこ叩いている。……何やってるんだ、あれは?
それはともかく、あの頑丈さと健在ぶりは、うちのシェイプシフターとどっこいだと思う。シェイプシフター系の改造生物だろうか? 炎に強いところは、シェイプシフターと違うが。
「追わなくていい。敵の動きはディーシーに把握させる。任務の続行は可能か?」
『問題ありません』
「では、捜索と制圧任務を続行してくれ。ソーサラー、アウト」
魔力通信を切る。分散させた部隊がやられた。構成員がシェイプシフターでなかったら、たぶん全員殺されていただろうな……。幸か不幸かと言われたら、幸い、だ。
「で、ディーシー。例の化け物どもの動きは?」
「くそ面白くもない話になるが――」
ディーシーが、どこで覚えたか汚い言葉を使った。
「一体が床の下から施設の外へ逃げた。第二小隊を襲った奴は、こちらに向かっている。あともう一体も遠回りしながらこちらへ接近中だ」




