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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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595/1948

第593話、雲の層を抜けた先は


 正体不明の飛行物体の報を受けて、俺とオリビア近衛隊長は、キャスリング地下基地の司令部に到着した。


 人工コア『アグアマリナ』を収めた筐体のほか、ホログラフ投影装置、各種操作機器、通信設備や基地管理パネルなどが置かれ、未来チックな室内。

 古代機械文明時代の生き残りであるアグアマリナの記録からの再現であるが、実は外側だけそれっぽく作ってあるが、実際のところは人工コアや、コピーコアがないと動かないガラクタばかりである。


 そんな司令部室内には、すでにアーリィーに、ベルさん、ダスカ氏、サキリス、ユナ、スフェラが集まっていた。


「状況は?」


 開口一番。俺の問いに、漆黒の魔女(シェイプシフター)スフェラが応じた。


「ドラゴンアイ三番機が、トキトモ領に接近する超大型飛行物体を捕捉しました」


 アグアマリナ端末が、ホログラフ状にその状況を青白く浮かび上がらせる。アンノウンと表示される物体が、じりじりと動いている。


「魔力レーダーの観測によれば、浮遊する巨大な岩塊のようです。規模はスカイベースのおよそ十倍」

「冗談だろう? 軽く一キロ超えてるじゃないか」


 まさしく超巨大な飛行物体の接近だ。アンバンサー母艦が小さく見える。アーリィーが口をあんぐりと開いた。


「それって伝説の浮遊島じゃないかな?」


 浮遊島……? はて、そういえば以前、彼女はそんなワードを口にしていたな。

 ヴェリラルド王国では割と有名なおとぎ話。遙か昔、空に島を浮かべて、そこに人が住んでいたとか。


「それが何故、今になって現れた……?」


 むろん、この問いに答えられる者はこの場にはいない。


「目視確認は?」

「ドラゴンアイ三番機に、目標へ近づけさせたのですが、交信が途絶えました。墜落時の非常用ビーコンが作動したので、撃墜された可能性があります」

「飛行する偵察機を撃墜するとは……」


 腕を組んだダスカ氏が唸る。


「まさか、アンバンサーでは……?」

「それだけは勘弁願いたいね」


 まだ伝説の浮遊島のほうが浪漫があるってもんだ。


「あくまで可能性であって、まだ撃墜と決めつけるのは早い」

「だが墜落したのは間違いないんだろう?」


 ベルさんが鼻をならす。


「攻撃されたんじゃね?」

「それが問題だ。相手の正体を突き止めないとな。目的はおろか、何かですらわからないのでは対処しようがない」


 俺はスフェラへと視線を向けた。


「目標への接触に機体は出ているか?」

「哨戒飛行中のトロヴァオンを三機、急行させています。マルカス小隊です。間もなく、目標と接触」


 一同の視線が、地域を表示するホロモニターへと向いた。



  ・  ・  ・



 うっすらかかる雲を尻目に、TF-3トロヴァオン戦闘攻撃機は飛ぶ。

 先頭をいく機体に搭乗するのはマルカスだった。今日は二名の部下を連れての哨戒任務だったが、緊急電を受け、北東方向に機首を向けていた。


「――バードネスト、こちらトロヴァオン3。現在、高度7500。魔力レーダーが、巨大な物体を感知。ただし」


 キャノピーごしに正面を見つめ、マルカスは眉をひそめた。


「雲が多く、目標の姿を視認できない」


 やたらと雲が多かった。もっとも、季節柄、それ自体は珍しくもないのだが、それでも今日は、とくにひどい。晴れて太陽の光はあるので、明るいのが幸いだが、ときどき雲の陰に機体が入るくらいには雲量が多かった。


『隊長』


 トロヴァオン8、ジェイスの声が聞こえた。


「正面の巨大雲……目標はあの中でしょうか?」


 まるで雲の塔だ――そんな呟きが漏れるくらい大きな雲。下から上まで二、三千メートルくらいあるのではないか?


 塔というより、壁のようにも感じられる。この大きさなら、高高度浮遊群のスカイベースはもちろん、伝説の空飛ぶ島が中にあると聞いても頷けてしまうかもしれない。


『トロヴァオン3、こちらバードネスト』


 鳥の巣航空基地からの魔力通信が入る。


『偵察機が撃墜された可能性を踏まえ、接近には細心の注意を払え。攻撃に備え、各機、シールドを展開せよ』

「了解、バードネスト」


 もう防御用の障壁装置は作動させている。しかしマルカスは念のため、シールドに送る魔力量を増やした。


『トロヴァオン3、こちらバードネスト。ソーサラーより追加指示あり。映像記録を行え。また、キャスリングベースとの通信回線を開いたままにせよ。以後、ソーサラーとの直接交信を行え』

「了解」


 ソーサラー――ジン・トキトモ閣下が聞いているということだ。それだけで、マルカスの中に浮かびつつあった、得体のしれないものへの不安感が薄れた。


「ナビ、映像記録、開始。……侯爵閣下たちにも、見ていただけるようにな」


 了解――トロヴァオン搭載のゴーレムコア、通称『ナビ』が、パイロットの命令を実行に移す。

 コア・カメラが機首方向に向き、映像記録と転送を開始する。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか――マルカスは操縦桿を握り込んだ。


「トロヴァオン6、8。正面から行くぞ、続け」

『了解、トロヴァオン3』


 トロヴァオン三機は、正面に捉えている物体へと接近を試みる。雲ばかりだが、魔力レーダーがその中にあるものの位置を伝えているため、間違っても衝突するということはない。……もちろん、レーダーが反応していない物体でもあれば、話は別だが。


 近づくにつれて、最初はひとつの雲の塊のように見えたそれが、次第にいくつもの雲が密集し重なっていたのがわかる。


 うっすらと雲をすり抜け、壁のように思えた層を抜ける。機体に搭載された浮遊石のおかげで、風の影響はほぼ変わらず。しかしかえって静かなのが不気味でもある。

 やがて、雲のあいだを抜けているうちに、正面に巨大なシルエットが浮かび上がってきた。

 逆三角形……いや、あれはまるで――


『島、か……?』


 トロヴァオン6の呟き。そうそれはあたかも島が空に浮いているように見えた。……まさか本当に伝説の浮遊島だったか――


 その瞬間だった。ナビが警報を発した。魔力やその他電波などの照射を報せる音。つまり――


「ロックオンされた!?」


 くそっ――マルカスは、とっさに叫んだ。


「各機、回避運動!」


 正面から光が瞬いた。青白い光が、正面の島らしきシルエットから発生すると、光の矢の雨が飛来したのだ。


 回避するトロヴァオン。空を引き裂く光線。数発が防御シールドに被弾し、展開魔力が減少したのを、ナビが表示する。


『トロヴァオン、報告しろ!』


 魔力通信機から、ジンの声がした。操縦桿を大きく倒し、機体を旋回させながらマルカスはうなった。


「攻撃です! 目標から攻撃を受けています!」


 まったく信じられない。アンバンサーの戦闘機群に突っ込んだとき並に、光弾攻撃を喰らうとは!


『ソーサラーより、トロヴァオン小隊、空域を離脱せよ。繰り返す、離脱せよ!』

「……了解! トロヴァオン6、8、聞いたな、逃げるぞ!」


 機体をかすめる敵弾。マルカスと僚機は、フルスロットルでその場から退却した。

今日はUFOの日らしいですね。

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