第585話、VT-1
マッドとのやりとりから一週間後、キャスリング基地の地下工場、その試験場に俺はいた。
今日はジャルジーとエクリーンさんの前で、大帝国から入手した戦車と甲鎧を披露する。
まず、甲鎧を見た感想から。
「でかいな……」
ジャルジーは、自身の愛機であるティーガーより、大きな甲鎧に複雑な表情を浮かべた。
エクリーンさんは、その細い指を顎に当て、小首をかしげる。
「あの黒いのは、ずいぶんと頑丈そうですわね。こちらの騎士のようなのは、鋭角的で勇ましくもありますわ」
黒いの、とは量産型甲鎧のカリッグであり、騎士のような機体はリダラⅡだ。
「ふ、ふん。我がティーガー、そして兄貴のウィリディス製の機体のほうが勇ましいわ」
ジャルジーが変な対抗心を見せた。……案外、子供っぽいところもあるんだ。
カリッグは上半身ががっちりしていて、全体的に短足に見える。見た目どおり装甲が厚く、大帝国が好んで用いるゴーレム・ウォール戦法を、ゴーレムではなく、判断力に優れる有人機でやらせようというコンセプトだ。
リダラⅡは、甲冑をまとう騎士のようなイメージを与える。カリッグと同じく上半身がいかついが、下半身まわりのバランスが修正されたためか、スマートである。
実際、軽量化がされているため、鈍重なカリッグに比べて動きはかなりよい。大帝国では指揮官に優先して与えられている機体である。
なお、Ⅱという名前どおり、リダラのⅠ型も存在し、順次Ⅱ型と交代がされている。それでも地方では、まだ当分指揮官機として使われ続けるだろう。
さて、残る砲撃型甲鎧のドリドールだが……。
「面相はよろしくありませんわね」
「同感だ。かっこ悪い」
次期国王とその未来の妃様の意見が一致した。
上半身がマッシブなのは大帝国製パワードスーツの共通点だが、やや丸身を帯びたシルエットに、土偶じみた顔は、何というか……。勇壮なリダラⅡと比べると、弱そうだった。
武器もマジックロッドに、収束式光弾砲、ファイアボール砲と、後方支援魔術師のようなスタイルである。近接戦に強そうなカリッグや、剣を装備するリダラⅡと比べると、どうしても格下に感じるのだ。
「実を言うとね、こいつ火力は凄いんだ」
俺がドリドールをそう評すると、二人は驚いた。とてもそうは見えないからだろう。
「だがその分、乗り手の魔力の高さが影響するから、十二分に性能を引き出せるパイロットが必要になるけどね」
これも魔法の魔減率が影響している。後方支援で十分な火力を発揮させるなら、魔力を大量に投入するしかなく、必然的に火力が強くなるのである。
「威力や射程で見るなら、むしろこちらの戦車のほうがいい」
俺は、Ⅱ型砲戦車を指し示した。
短砲身の57ミリ砲は、装甲貫通力にはやや乏しいものの、野戦が多いこの世界の戦いにおいて、強力な歩兵支援火力を有している。
そもそも、大帝国の敵に、近代的戦車や装甲車両は存在しないため、貫通力は重要視されていなかった。
ゴーレム・ウォールで前線を押し上げ、その後ろから戦車が砲撃する。野戦において、盤石かつ確実な戦術である。
多少、迂回する騎兵に手を焼いているようだが。連中が本格的な機関銃を配備しはじめたら、それも終わりがくるだろうけどな。
ジャルジーは唸った。
「聞けば聞くほど、恐ろしい戦術だ。兄貴のウィリディス軍の航空機と戦車を活用しなくてはとても太刀打ちできんぞ」
欲しそうな表情が顔に出てるぞ、ジャルジー。気持ちはわかるがね。
「それで、ジンさん」
エクリーンさんが俺を見た。
「これに対抗する戦車は目処がつきまして?」
「対抗するだけなら、戦車でなくてもできる」
俺が合図すると、SS整備員がカバーをかけて置いてあったものを披露した。
鼻の長い砲に、左右に二つの車輪がついた、古き大砲のイメージが残る代物。
「本当なら、戦車よりこっちのほうが先なんだけどね。まずは大砲があって、それを移動できるように車輪をつけて、やがて戦車にって流れなんだが……」
発砲の反動を砲身を後退させることで軽減する『駐退複座機』を取り付けた時点で、時代の流れなんて無視しているけど。
「馬などで牽引できるように作られた野砲だ。75ミリ砲。大帝国の戦車の射程を上回り、侵攻してくる敵を待ち構えて砲撃する兵器だ」
「馬で引ける兵器か!」
ジャルジーが目を丸くした。そりゃそうだ。馬で牽けるのなら、戦車がなくても戦場に大砲を持ち込むことができるのだから。
「大砲だけでも、これからの戦いを大きく変えるというのに、それを野戦に投入できるとなると……」
公爵様が目を輝かせている。エクリーンさんは、75ミリ野砲を眺め、眉をひそめる。
「火力はあるようですけれど、やはり戦車の迫力からすると、どうにも負けていますわね……。馬で牽けると言っても、そのまま独立して動ける戦車のほうが強いのでは?」
「確かに」
「まあ、そうなんだけどね」
俺は、さらに格納庫脇に待機しているSS整備員に合図した。カバーがかけられているが、ジャルジーもエクリーンさんも気づいた。
「戦車か!」
「お見せしましょう。まだ試作だが、VT-1と付けさせてもらった」
ヴェリラルド王国戦車、そのタイプ1。
パッと見、大帝国のⅡ型砲戦車によく似ていた。砲塔に車体、そして左右にある履帯。戦車といえば、誰もが思い浮かべるその姿。
だが違いもある。Ⅱ型が横幅が広く、ドッシリした感があるのに対し、VT-1はやや背が高く、また砲身が長かった。
それもそのはず、VT-1の主砲は、先に見せた長砲身75ミリ野砲を転用したものだ。大帝国のⅡ型は歩兵支援用を主目的としているが、こちらのVT-1は対戦車戦を考慮して作られている。
短砲身57ミリ砲よりも長射程、そして大威力。もともと装甲が薄いⅡ型砲戦車はもちろん、大帝国が前線啓開用に使用する突撃戦車の正面装甲すらアウトレンジから貫通する。
「おおっ、そいつは素晴らしい!」
ジャルジーが声を弾ませた。キュラキュラと履帯を動かし、VT-1戦車がゆっくりと前進、Ⅱ型砲戦車の隣に並ぶ。またこの音もうるさい。
「見た目はもちろんだが、中身のデキも相当違う。例えば砲塔の旋回速度――」
俺の言葉が聞こえていたかのように、二両の戦車は砲塔を右方向へ回転させる。俺のいた世界で使われた電動式を使うⅡ型。対するVT-1は魔力で動かす魔力旋回式。
すでにウィリディス戦車はもちろん、俺が制作した魔法駆動機械の基本となる技術を使った魔力旋回式は、経験も実績も十分。滑らかな旋回で、VT-1の砲塔は一回転。Ⅱ型砲戦車の2倍の旋回速度差を見せつけた。
まあ、これはⅡ型砲戦車の使っている電動モーターの性能の低さも影響しているんだけどね。
「大帝国は工業化を進めて、独自に機械部品を制作するにいたった。精巧な作りに、その構造。機械としては俺なんかより遙かに上を行く。だが形だけ整えても、その部品の精度、品質にはバラつきがあって、機械の故障率を高めている」
大量生産をオートメーションではなく、人海戦術で補っている。当然、未熟な工員の作る粗悪品は防げず、せっかくの機械の性能を引き下げてしまっている。……大帝国で戦車開発を担当するノイマン博士も、そのあたり苛立っているのではないかな?
「その点、ウィリディスの魔力生成は、均一な製品を作り出す。一度優れたパーツを作れば、あとは同じものを同じ精度で生産する」
その分、魔力をドカ食いするけどね。ただ、そのおかげで故障率はすこぶる低く、性能にバラつきがない。中身が違うとはそういうことだよ。
と、そこへ、シェイプシフターの軍曹がやってきた。
『失礼します。侯爵閣下、フォスター隊長より模擬演習終了の報告が入りました。これより帰投するとのこと』
「了解した。ありがとう、下がってよろしい」
俺はSS軍曹に答礼したあと、何事かとみていたジャルジーとエクリーンさんに答えた。
「場所を変えよう。次の出し物へ案内する」




