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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第56話、ギルドに行ったら待ち伏せされた件について


「おう、ジン。ようやく顔を見せたか」 


 冒険者ギルド、一階フロアに入った俺とアーリィー、そしてベルさん。そこを呼び止めたのは、ドワーフの名鍛冶師であるマルテロさんだった。


「こんにちは、お久しぶりです」

「お前さんが来るのを待っておったぞ。宿を訪ねたら引き払っとったから、どこかへ行ってしまったかと心配したわい」


 おや、女子連れか、とマルテロ氏。俺はアーリィー、もといアリアを知り合いのご令嬢と紹介する。

「令嬢?」と、当のアーリィーは一瞬面食らったものの、すぐに他所行きの笑みを浮かべて対応した。さすが王子様を演じてきただけのことはある。


「また、ミスリルですか?」

「うむ、近々、新規を制限しても先約が多くあってのぅ。ギルドは近々ミスリルが入ってくると言ってはいるのじゃが……」

「新規を制限」

「おう、作って欲しければ材料のミスリルを持ってこい、と言っておる」


 なるほど。俺は頷く。


「それで、今回は急ぎなのですか?」

「うむ、急ぎになった。お前さんが、ここ三日現れんかったからのぅ」


 魔法騎士学校転入で、こっちいけなかったからな。それよりも……。


「その分だと、大空洞ダンジョンのミスリル鉱山開拓は、まだ手付かずなんですね」


 俺以外にも冒険者はいる。ミスリル銀を求めて、他の連中も動いているはずなのだが……マルテロ氏が俺をわざわざ待っていたというのは、開拓は進んでいないと見るべきだろう。


「そんなわけで、これからちゃちゃっと行って、ミスリル掘りに行きたい。もちろん、急な分、礼は弾むぞ」


 以前の俺なら、特に用事がなければ断らないのだが、いまはアーリィーがいる。衣食住がある程度保障されている現状、マルテロ氏の依頼を受ける必要はなかったりする。……とはいえ、その保障もいつまで続くかわからない以上、稼げる時には稼いでおきたい。

 アーリィーを寮に戻した後、ポータルで大空洞に移動。いつものようにゴーレムたちに掘らせて、あとはマルテロ氏を護衛しておけば問題はない。よしと――


「ジン、噂をすれば」


 と、涼やかな女性の声がした。見れば、そこにいたのはエルフの弓使いヴィスタと冒険者ギルドの副ギルド長ラスィアが揃ってやってきた。


 エルフとダークエルフ美女のツーショットである。なかなか希少なペアは目の保養になるが、ドワーフであるマルテロ氏は顔をしかめた。エルフとドワーフの種族的仲の悪さは有名である。


「何ともいいタイミングで現れたものだ。話が早い」


 ヴィスタが言えば、ラスィアさんも頷いた。


「そうですね。……ジン・トキトモさん、少しお話よろしいでしょうか?」

「なんじゃい、藪から棒に」


 俺ではなく、マルテロさんが怪訝そうに言った。アーリィーは不思議そうに、やりとりを見やる。ラスィアさんは構わず言った。


「比較的緊急性の高い依頼が舞い込みまして。ジンさんに、ぜひご協力ください」


 俺に? 思わずベルさんと顔を見合わせる。ラスィアさんは頷いた。


「立ち話も何ですので、詳細は談話室で」


 緊急性の高い依頼と聞かされては、何も聞かずに断ることはできなかった。……何せ、この国では反乱騒動なんて大事もあったわけだし。それでなくても冒険者絡みともなれば、ダンジョンや、何かヤバい魔獣討伐なんて起こることもある。



  ・  ・  ・



「で、どうして皆さん一緒に……」


 談話室でテーブルを挟んで俺と向かい合うラスィア副ギルド長は困惑した。褐色肌の冷静美女の困った顔というレアな光景に眼福……なんて余裕はなかった。


 俺の隣には女装アーリィー――元々女の子だから、妙な言い回しになるが――と、マルテロ氏が座っている。


「わしは、ジンに仕事の約束があってな。横入りは感心せんが、緊急性がどれほどのものか聞いておきたい。わしも緊急性が高いのでな」


 ラスィアさんの視線が、ドワーフの鍛冶師からアーリィーへと向く。俺は口を開いた。


「いま俺はアリアお嬢様の護衛を受けている身なので、彼女を一人にはできません。もしそれを受け入れられないというのであれば、このお話はなかったことに」


 王子様連れ出している以上、俺には責任があるのだ。当然ながらこちらの優先度は高い。ラスィアは、傍観者の如く入り口脇に立っているヴィスタを見れば、金髪エルフはコクリと頷いた。どうやら、話していいという許可をとったようだ。


「王都より東にあるデュシス村から救援の要請です。村は狼型の魔獣によって危機的状況にあるとのことで、至急討伐してほしいというものです」


 狼? 俺は眉をひそめ、マルテロ氏は拍子抜けしたような顔になった。


「狼型の魔獣?」

「何でも、この魔獣は人を襲うようで、すでに村人が複数殺害されているそうです。討伐依頼を受けた冒険者が向かいましたが、彼らもどうやら返り討ちにあったようです」

「……そいつは本当に狼なのか?」


 マルテロ氏はうなるように言った。


「そもそも、狼は人を避ける生き物じゃ。家畜を襲うことはしばしばあるが、人に対してはあまり積極的ではないんじゃ」


 そう、狼というのはそういうものだ。たまに好戦的なものもいるが、基本家畜は襲うが人間に対しては避ける傾向がある。だからグレイウルフなんかも、強さの割りに討伐した時の報酬額が高めに設定されている。人間と戦う狼が少ないからだ。

 まあ、もちろん例外はいるし、数が多かったり、人肉を好む狼だと積極的に襲ってくることもある。


「狼に似ているらしいですが、それよりひと回り大きいという報告です。その魔獣は家畜は襲わず、人間を標的にしているとのことです」


 まるでジェヴォーダンの獣だな。昔、フランスのジェヴォーダン地方を荒らしまわった狼のような化物。人間ばかりを襲い、その正体は現代でもよくわかっていないというやつだ。


「人間を襲うために、村人は村から出ることもできなくなっており、その生活も困窮しているとのことです。伝書鳥の報告によれば、村の中すら徘徊しているらしく、家からも出られないとか。……早急に解決しないと餓死者が出る恐れもあります」


 もう出ているかも。何日前からその状態かは知らないが。家に蓄えがあるならともかく、食べ物の保存状態が中世レベルでは、家にあるものなどお察しだろう。そもそも水すらほぼ毎日、外の井戸や川に汲みに行くような世界だ。


「ジン……」


 アーリィーが何か言いたげな視線を向けてくる。助けに行くべきだ、と言いたそうな目である。俺は軽く首を振ると、ラスィアさんを正面から見つめた。


「それで、俺にこの話を聞かせた理由は?」

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リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

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