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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第575話、魔法騎士


 部下の働きには報酬を。


 戦費が赤字だろうが、働いてくれた人たちにはその働きに見合った報酬を渡す。……この見合った、というのがミソだ。少なすぎるのは論外だが、与えすぎるのもよろしくない。


 人間増やされることに困らないが、減らされることには敏感だ。とくに与え過ぎると、たった一回減らされた、もしくは少ないと受け取られただけで、根にもたれて不満をため込む者もいる。


 何と心の狭いことか、と思うかもしれないが、実際にそれを身をもって体験するとそうは思えないのが人間の不思議なところだ。


 とはいえ、我がウィリディスで、俺がお給料や報酬を渡す人間は少ない。軍を編成する大部分のシェイプシフターたちは、使い魔みたいなもので、そもそもお金を使う習慣がない。身体に取り込んで食べれるなら、お金でなくてもいい。


 正直、お給料に関しても、ウィリディスの面々は、故郷や家族に仕送りする者以外は、大して使い道がないと言っていた。

 彼、彼女らの意見をまとめるとこうなる。


『ウィリディスにいれば、大抵のものがそろう。わざわざ他のところで買い物をする意味がわからない』


 美味しい食事に、魔法武具を含めた一級の装備。衣服や下着はデザインが乏しいのが難点だが実用性は十分。人からの知識収集が早いシェイプシフターたちが、家具や小物作りを始めたら、あっという間に一般流通レベルのものを作ってしまう。


 ……そうですか。

 人のお金の使い道に口出しするものではないので、貯金するなり何なり、好きにやってくれ。


 あと、報酬とは違うのだが、俺はサキリスをウィリディス屋敷の会議室に呼び出した。


「これまでよく俺に尽くしてくれた」

「……は、はい」


 何故かサキリスの表情が引きつった。


「今回のアンバンサー戦役は、君にとってもあまりよろしくない事が多くて、辛かっただろうと思う」

「いえ、ご主人様……」


 サキリスが一歩下がって、メイドドレスのスカートに手を添えた。


「この(たび)は、ご主人様の手を煩わせてしまい、ご迷惑をおかけしました。まことに申し訳ありません。いかような罰も謹んでお受けいたします」

「また鞭がほしい、と?」

「え、あ、いえそのような……。はい……」


 すっと赤らめて、目をそらされても。どっちなんだ? 欲しいのか、欲しくないのか……と言葉責めで遊んでいる場合ではない。


「とても真面目な話なんだがね。サキリス、俺は君を『魔法騎士』に叙任しようと思う」

「わたくし、を……魔法騎士に……!」


 サキリスの瞳が大きく見開かれた。


「そんな……。学校も出ておりませんし……」

「主が、魔法騎士と認めれば叙任できると聞いた」


 その魔法騎士学校の卒業パーティーで、エクリーンさんから。学校を卒業するだけが、魔法騎士の道にあらず。

 今、サキリスは俺に仕えている、


「わたくしなど、恐れ多く、とても魔法騎士など……」

「能力は十分にある。実戦でも、その任に耐えられるのを証明したし、経験もある」


 それに――


「俺は侯爵だ。その侯爵が認めたのだから問題ない」


 都合のいいときだけ階級を利用するのも狡い気がするが、俺はサキリスの働きに報いてやりたい。


「名ばかりの魔法騎士ではないのは、シャッハの反乱事件やアンバンサー戦での活躍でも明らかだ」

「先日の戦いは、わたくし、何も活躍などしていませんが……」


 サキリスは肩をおとした。その様子だと本気でそう思っているようだ。


「機械化歩兵部隊を率いて、アンバンサーに斬り込んだだろう? 役割を果たし、無傷で帰ってきたんだから十分だと思う」


 目立つ活躍をした者ばかりが戦っていたわけではない。きちんとやり遂げた者も評価されるべきである。俺はじっと、サキリスの顔を見つめた。


「お前を魔法騎士にしてやりたいと思っていたのは前々からだ。もし、俺だけでは不安だというなら、エマン王に頼んでもいい。国王自らの叙任なら、文句をいう者はいない」

「い、いえ、それはさすがに恐れ多いというか……そういう意味ではないのです、ご主人様」


 サキリスは俯いた。


「とても光栄なことです。でもわたくしは、魔法騎士になど……」

「魔法騎士になるのが夢だと聞いていたが……」


 彼女がそう話したのを俺は覚えている。


「なりたくないのか?」

「いえ……その、魔法騎士になっても、意味がないというか……。わたくしが一番、見せたかった人は、もうこの世にいなくて」


 憧れでしたから、とサキリスは漏らした。母のようになりたくて、憧れて、それを目指して頑張ってきた。貴女の娘は、貴女が誇れるような立派な魔法騎士になった――その姿を見せたくて。だけど――


 ……なるほど、その勇姿を見せられない、と。だから、あれだけ憧れていた魔法騎士にはならないか。

 でもそれって……うーん。俺は首を捻る。


「なあ、サキリス。お前は、その一番見せたかった人、つまり母君のためだけに魔法騎士を志したのか?」

「え……?」

「お前自身、母君に憧れていたと言っていたが、魔法騎士の姿を見せたら、もうおしまいで済ませるつもりだったのか?」

「それは……」


 サキリスは、言いよどむ。視線がさまよい、しかしすぐに俺へと戻った。


「どの道、学校を卒業したら、結婚して、魔法騎士としての役割は果たせなかったと思います」

「それは結果的に婚約が決まったからの話で、魔法騎士を目指した頃とは話が違うだろう? はっきり言えば、魔法騎士になりたかった。そしてなった後もその役割を果たそうと張り切っていたはずだ。だから理解のない婚約者に腹を立てた。そうだろう?」

「……」


 サキリスは再度俯いた。俺はじっと金髪のバトルメイドを見つめた。


「どうしてもなりたくない、というのなら、それはお前の人生だ。好きにするといい。だがな、本当に憧れていたのなら、その憧れを追い続けていい」


 俺は席を立つと、彼女のもとへと歩み寄る。


「俺はまだ子供がいないし、間違ってもお前は俺の子供ではないが、親というのは子供の幸せを願うものだと思う」


 もちろん、すべてがそうだとは思わない。世の中にはどうしようもない状況で子供ができてしまうこともあれば、子供を疎んじるクズ親もいる。

 だがサキリスの家庭は、そういう家ではなかっただろうことは想像に難くない。


「母君は、お前が魔法騎士になったら、喜んでくれただろうか?」

「っ! ……それは、はい。おそらく喜んだ、と思います」


 サキリスは口元に手を当てた。声が震える。


「でも……母は、もう――」

「なら、お前が天国にいった時、母君に魔法騎士になった姿を見せられるように精一杯生きないとな」


死後の世界。人は死んだら、天国か地獄にいくと言われる。これは名前こそ違えど、多くの文明に見られる話だ。もっとも実際に死ななければ、そのあとどうなるかなんてわからないが。


 ヴェリラルド王国をはじめ西方諸国の多くが崇拝している太陽神教の教えでは、生前の清き行いを説き、それによって死後、天国か地獄かにいくと言われている。……だったと思う。


「人はいつか死ぬ。その時、あの世で胸を張れる、そういう生き方をしたいものだな」

「……はい」


 サキリスは静かに頷いた。目もとに浮かんだ滴をそっと払う。


「あの、ご主人様」

「うん……?」

「お気持ちが変わっていなければ……魔法騎士叙任の件、お受けしたく思います」

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