第549話、洞窟の深部に待つモノ
アーリィーは、ポータルを通って軽巡アンバルの艦橋に移動した。
第一戦隊ことAA戦隊の旗艦には、マスター・ダスカがいて、リアナもいた。艦橋の後ろにある戦域地図の置かれた作戦室に集まり、まず口を開いたのはリアナだった。
「偵察機からの報告により判明した敵部隊を攻撃します」
彼女は、すでに攻撃計画をまとめていた。移動するアンバンサーの地上部隊に対して、空母アウローラの艦載機隊を派遣、地上攻撃を行う。
「トロヴァオン、ファルケを各一個小隊でペアを組み、移動させます。攻撃は殲滅ではなく、戦力を減少させることを第一とし、無理はせず、危険とあれば即時撤退」
「殲滅を狙わない理由は?」
アーリィーが問うと、リアナは直立不動の姿勢をとった。
「敵の活動を妨げ、かつ自軍拠点へ引き上げさせるためです」
「アンバンサーの拠点を見つけるため、ですね」
ダスカが地図から顔をあげ、リアナを見た。
「戦闘機を二個小隊のペアで使うのは何故です?」
「敵の航空戦力に備えてです」
リアナは淀みなく答えた。
「現在まで敵航空機は確認されていませんが、アンバンサーが戦闘機に類する航空機を有しているのはわかっています。それが迎撃に現れた時の備えです」
高高度浮遊群での、アンバンサー艦艇との遭遇戦闘。あの時、アーリィーはポイニクスに乗っていて、敵の戦闘機と護衛のファルケ戦闘機が相打ちになるのを目撃している。
ウィリディスの戦闘機を撃墜する力を持つ敵機。ヘタなワイバーンより危険だ。
「それでいいと思う。リアナ、攻撃目標の選定をお願い。準備が出来次第、攻撃隊発進」
十五分ほど後。リアナから作戦目的と攻撃対象の説明を受けたアウローラ艦載機隊は、二つの敵部隊に向けて攻撃隊の発艦準備にかかった。
空母アウローラの格納庫の左右の壁が開閉。搭載されたトロヴァオン戦闘機が魔法式射出機に乗せられる。
いわゆるカタパルト。その形状は、かつての水上艦がフロート付きの水上偵察機を射出していた短めのそれに似ている。
本来、浮遊による発進が可能なウィリディス戦闘機であるが、空母の格納庫が二段となっていて天井の高さに制限があるため、カタパルトを使った射出形式をとっている。
開いた壁の方向へ九〇度旋回した射出機。トロヴァオンの魔石エンジンの噴射口に赤々とした光が灯る。
『マルカス・ヴァリエーレ、トロヴァオン3。発進!』
物体を加速させる魔法の発動による射出が、トロヴァオンを空へと打ち出した。
マルカスの3番機を指揮官に、二機の僚機が同じように発艦する。
さらに、空母の一番上の平らな駐機甲板から、小型のファルケ戦闘機の小隊が飛び立ち、マルカス小隊に随伴する。
これとは別に、やはりトロヴァオン、ファルケ各3機ずつが飛び立つ。
攻撃目標は、クレニエール領を行くアンバンサーの地上部隊。
・ ・ ・
氷獄洞窟、探索中。
ただの洞窟に見えた中は、次第に凍てついた氷に覆われた世界に変わった。
青に包まれた空間。凍った地面に壁、うっすらと霧がかかったような冷厳なる空間。魔法薬で温めた身体でさえ、ひんやりとした空気を感じる。
広い空間に出れば、洞窟でありながら雪でも降りそうな雰囲気だ。深い谷のようなクレバスにかかる橋を渡り、氷の斜面を登り、蛇のように長い通路へ。
発生している霧に冷気を混ぜ、侵入者をこっそり凍らせるトラップがあったが、ディーシーがテリトリー内の俺たちをガードして阻止した。
彼女がいなかったら、いつの間にかやられていたかもしれない。怖い怖い。
途中、何度かあった大部屋状の空間では、氷ゴーレムや浮遊単眼型の魔獣がこちらに襲いかかってきた。
何が厄介かといえば、アイスブラストを飛ばすのに混じって、こちらを凍らせようとする冷凍弾を飛ばしてくることだ。
おかげで、こちらはノームが一機と、シェイプシフター兵が三名凍らされ、脱落した。まあ、超前衛であるベルさんとリーレはうまく避けていたし、俺とサキリス、ユナが魔法で反撃することで大事にはならなかった。
落ちたら氷づけ確定だろう、冷気をまとう池のある部屋を抜け、ゴーレムの待機所とおぼしき大フロアを通過。通路に沿って下へ下へと下っていけば、ひときわ大きな空洞。……知ってるぞ、よくあるパターンで地下に町とか城があるパターンだろう?
空洞入り口から、左右に巨大な氷の柱が林のように連なっているのが見える。高いな、十メートルは軽くある。
そして正面奥には、予想通り建造物。
「ピラミッド……」
橿原が呟くようにあった。ピラミッド型の建造物――昔、テレビでみたアステカのピラミッドを思い出した。
前を行くディーシーが、ほぅ、と息をつく仕草をとった。
「主よ、あの建物の天辺に、おそらくコアがある」
「ああ……光ってるな」
ピラミッドの頂上がほのかに青く光っているのが見える。ベルさんが鼻をならした。
「ってことは、アレがゴールか?」
「ダンジョンコアであるなら、あれを押さえれば、少なくとも敵対的なやつらを黙らせることはできるだろう」
「コアを操っているヤツはいないってことか?」
リーレが面白くなさそうにピラミッドを睨む。まあ、行けばわかるさ。
「でもまあ、早々簡単には終わらないよな……」
「だな。敵さんのお出ましのようだぜ」
ピラミッドへ続く道を進めば、その凍った地面にビシリと亀裂が走った。ゴゴゴッと震動と共に、ガタイのデカいドラゴンじみた化け物が姿を現す。
「ここでドラゴンさんか……!」
ずいぶんと首が長い、蛇型のドラゴンか。青白いその巨体は、ところどころに氷状の突起が生えていた。
「とか言っている間に突っ込んできた!」
身構えるリーレ。めきめきと氷を砕きながら津波のように押し寄せる氷竜に、俺たちは散開した。
氷竜は俺たちを轢き殺せなかったので、方向転換。乱立する氷の柱の間へとその頭を突っ込ませ、そのまま身体も入っていく。
……なるほどね。あの柱の間を通過できるように、蛇型の胴体なんだ。というか――
「あいつ、飛んでねえか!?」
リーレが叫んだ。氷の柱で見えないが、地面を砕くような音がしなくなっている。しかしいるのはわかる。魔力の塊――氷竜が動いているのは感知できるからだ。
「いやらしいな、空中戦ってか……?」
浮遊の魔法を使ったか、暗黒騎士姿のベルさんが、柱を蹴って飛び上がる。俺もエアブーツで浮遊、機動力を確保。見れば、SS装備のサキリスも背中に漆黒の翼を展開して飛行していた。
と、ゾクリと背中に嫌な殺気じみたものを感じた。同時にサキリスが俺を見て叫ぶ。
「ご主人様!」
新手か! 振り返った俺の視界に、何かが高速で飛んでくるのが映った。
パワードスーツ? いや、ロボット!?
青い装甲をまとった人型が右腕に光をまとめながら急接近。鋭角的なフォルムは、氷属性のヒーローメカっぽいが、その二つの目とシャープなフェイスは悪役顔だった。大きさはウィリディスのパワードスーツ並かやや大きい。
こっちが飛び上がった後に向かってくるとは。飛行機じゃないんだから、空中で軌道を変えるって難しいんだぞ、っと!
衝突コース。いや氷メカは、右手に光る剣を具現化させて俺に斬り掛かった。
航空軽空母『アウローラ』:全長152メートル、全幅38メートル。
二層式格納庫×2:搭載数16機(格納庫)、露天甲板16機
武装:対空用サンダーキャノン×8




