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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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544/2030

第542話、クレニエール城防衛戦


 森の木々を踏み倒し、敵の四脚型兵器が、その全容を表す。

 メタリックな装甲表面。葉巻型の胴体から四本の脚が生えている。胴体の先端下部と上面に砲と思われる武装がついている。

 ちなみに胴体の先端に、目とおぼしき赤い丸があって光っていた。


 いよいよお出ましだ。


 天候は曇り。ところどころ空も見えるが、雪で白くなった平原のせいで寒々しい。

 大型偵察機(ポイニクス)から報告を受けていた俺は、クレニエール城東側に、塹壕(ざんごう)を掘って防御用の陣地としていた。


 まあ、言ってみれば地面に掘った大きな溝である。敵からの銃撃などから身を守るために用いられる。

 ちなみにこの塹壕は、ディーシーによるダンジョンテリトリー化からの穴掘り作業でこしらえたものなので、例によって時間は掛かっていない。……人力でやっていたら、敵の襲来までに間に合わなかっただろう。


 俺は、ディーシー、ベルさん、そしてシェイプシフター兵の中隊と共に塹壕にいた。クレニエール侯爵軍との連絡係として派遣された魔術師のシャルールがいて、俺に聞いてきた。


「何故、防御柵や壁ではなく、地面に溝を掘ったのですか?」

「敵の武器が強力だ。生半可な防御壁では役にたたない」


 俺はストレージから取り出した戦闘双眼鏡を覗き込む。


「だが地面なら、防御壁より耐えるからな。射撃戦では被弾面積をいかに減らすかが基本だ。遠くから撃ち合うなら、立っている奴より、しゃがんでいる奴のほうが当たりにくい」

「なるほど……」


 シャルールは小さく頷いたが、塹壕に腹這いになっているSS兵を見て首を振った。


「しかし、地面に隠れるのは、その……」

「服が汚れる?」


 そういう君のローブだって、裾あたりが結構汚れているんだけど。いや、掘った地面は土が露出しているが、それ以外は雪。つまり――


「なるほど、冷たいな」


 体温で溶けた雪で、その箇所が濡れるし。


「聞こえるな……」


 暗黒騎士姿のベルさんが、俺の隣で同じく伏せながら言った。


「ヤツラの足音が」

「多脚型のは聞こえていたが……歩兵の足音も」


 双眼鏡の倍率を上げ、敵兵器の足下を拡大。いるいる、ツギハギ顔の兵士の集団。手には剣や、杖のようにも見える斧、はたまた槍。そして、いかにも異星人が使ってそうなデザインの銃がある。


 たまにドクロ頭がいるが、あれが指揮官か。そこそこの数がいるが下士官的ポジションなのかもしれない。


 それにしても、あの人と機械を足したような兵士……グロテスクというか、まるでフランケンシュタインの怪物みたいだ。

 人造人間だか改造人間――そう思ったとき、舌先がざらつくのを感じた。何となく嫌な感じがした。


 一瞬、ゾンビとか、そういうのを連想したのだ。顔色も含めて絵の具で塗ったような青のせいかもしれない。こいつら、血が流れているならその血も冷たそうだ。

 嫌な想像をしてしまったのは、昔観たSFだかホラーを思い出したせいかもな。


 双眼鏡の倍率を下げ、周囲も視界に捉える。

 多脚型の先頭は四脚型。それより大きい六脚型は、その後ろにいる。ここからは見えないが、さらに後ろに八脚型もいるという。


 四脚型が五体に対して、六脚型は一体という比率のようだ。最前列の四脚型は横一列に並びながら、壁の如く前線を押し上げている。その数、すでに二〇体以上。


 この世界の一般的な軍なら、おそらく近づく前に一方的に撃たれて壊滅するだろうな。

 機械的な駆動音がわずかに耳に届くが、地面を踏み締める音がよく響いていた。あれで踏まれたら、虫けらのように無残に潰れるだろう。

 はてさて、その射程はどの程度のものか。


「ディーシー、連中が城めがけて撃ってきたら、防御障壁を張って守れよ」

「やれやれ、人使いの荒いことだ」


 黒髪のダンジョンコア少女は、俺の後ろで鼻をならした。


「あとで、たっぷり魔力(食事)を忘れるな」

「……オバアチャン、さっき食べたでしょ?」


 俺が表情を変えず淡々と言えば、すかさずディーシーが声を荒らげた。


「おばあちゃん、言うな!」


 ベルさんが小さく笑い、俺も倣ったが、うまく笑えなかったかもしれない。

 自分の心臓の鼓動が聞こえる。今回の相手が、この世界の技術レベルを軽く凌駕しているせいだ。喉が渇いてきた。

 ストレージから魔石水筒を出してひと口、唇を湿らせる。


 ちら、と塹壕を見渡す。シェイプシフター兵は、ライトニングバレットや対装甲ロケットランチャーを持って塹壕に伏せている。いずれの武器も、ここからでは届かない。


 もっとも、正面に陣取っている俺たちは、計画が失敗したときの最終防衛ラインであり、上手くいった時は、総仕上げとして敵陣に乗り込む。


「そろそろ頃合いか……」


 敵が森を抜け、障害物のない雪原を進む。身を隠す場所がないだけに、射撃武器を使うには打ってつけである。

 俺は魔力念話を使った。


『ソーサラーより、トロヴァオン中隊――アーリィー、聞こえるか?』

『こちらトロヴァオン2、攻撃位置を確認』


 アーリィーからの応答。マルカスの三番機に乗り、空母アウローラへ行っていたお姫様は、攻撃隊の第一陣として中隊を率いていた。


『始めろ』

『了解、ソーサラー。トロヴァオン中隊、ボクに続いて!』


 9機のトロヴァオンがスロットルを全開にして、敵部隊後方に回り込む。空を飛翔する剣の如き鋭角的な戦闘攻撃機が降下し、誘導噴進弾(AGM)を次々に発射した。


 多脚兵器の上面や後部に命中したAGMが紅蓮の爆発を生み出す。トロヴァオンが敵の頭上をかすめ飛ぶ頃には、十数の多脚型が吹き飛び、崩れ落ちた。


 生き残った多脚型が砲を振りかざし、飛び去るトロヴァオンへ対空射撃をしようと動く。またその足元では、ドクロ頭やツギハギ顔の兵士たちが慌ただしく走り回っている。


 初撃はまずまず、か、俺は双眼鏡で監視しながら、次の手を放った。

 アイゼンレーヴェ――戦車大隊が右翼から前進を開始。敵の左翼側、すなわち南側へと回り込む。

 同時にフライングボードに乗ったパワードスーツ部隊が正面から敵めがけて疾走を開始した。


 さらにクレニエール城の裏手に待機させていたワスプⅡが飛び出す。ローターのないヘリコプターのような胴体を持つ地上攻撃機の編隊が城をかすめ、俺たちの上を通過すると、雪の上を這うように突進。パワードスーツ部隊を追い越した。


 ワスプⅡは、主翼下に抱えている対地ミサイルやロケット弾ポッドを発射。戦闘攻撃機(トロヴァオン)中隊の先制を喰らって慌てている敵部隊に襲いかかった。


 雪原に無数の光と熱の火の玉が広がり、敵兵を飲み込む。炎に包まれ、焼け焦げ、飛散した破片を浴びて、身体を引き裂かれる。

 爆炎と鉄の暴風が、無慈悲に吹き荒れる。ワスプⅡはまさに風のように一気に敵部隊の上をすり抜けた。


 AGMを正面から喰らい、爆散する四脚兵器。火と煙を避けて、敵兵の姿が見えてくる。隊列もなく、てんでバラバラで未だ混乱から立ち直っていないのがわかる。


 無事な四脚型が、のしのしと前に出て復仇に燃えて砲身を(ひるがえ)すが、そこへ音速を超えて飛翔した砲弾が炸裂した。


 ルプス主力戦車の長砲身76ミリ砲だ。対大帝国の装甲車両との戦いに備えて用意していた徹甲弾が、四脚型のメタリックな装甲を穿(うが)つと、内部で爆発した。


「よし!」


 双眼鏡で戦果を確認して、俺は思わず笑みをこぼした。

 効いている! 大帝国の戦車なら容易く貫けるルプスの76ミリ砲だが、あの多脚型の装甲を抜けるかについて保証はなかったのだ。


 初弾で弾かれたら、もっと距離を詰めなければいけないところだったが、移動しながら撃つのが難しいルプスにはやらせたくなかったから、遠距離からでも十分だとわかって安堵する。


 一方的に攻撃を許した敵前衛部隊。だが立ち直る暇も与えず、レイジングブルズ――パワードスーツ部隊が突撃した。

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