第529話、シズネ艇、飛ぶ
「そういえば、古代文明時代の船はあれからどうなりました?」
と、カレン女王が話を振ってきたので、エマン王の要望もあり、第三格納庫へ一同を案内した。
シズネ級小型艇――全長40メートル近い艦体を目の当たりにし、王族一同は驚いていた。カレン女王は宝物庫でその姿を見ているから、さほど表情に変化はなかった。
「綺麗になりましたね」
「ウン千年のサビが落ちましたから」
苦笑する俺。エマン王が目を見開いた。
「これが、エルフから譲り受けた古代文明時代の……」
「これは飛べるのか!?」
ジャルジーが声をうわずらせた。
「飛べるよ。……といっても、まだこいつを飛ばしたことがないけどね」
俺は艦体脇のタラップに歩み寄る。
「せっかくなので、試運転してみようと思います。この中で同乗したい方もいるでしょうが――」
ジャルジーとフィレイユ姫が、案の定きらきらした目を向けてきた。
「一度も飛んだことがないので、今回は我慢を。いきなり事故って墜落、爆発なんて嫌ですからね」
ということで――俺は、いつの間にか格納庫に来ていたアーリィーに顔を向けた。
「皆様を安全な場所へ誘導してくれ、アーリィー」
「……動かすなら、ボクも乗りたかったんだけど」
「君が乗ったら、他の方々も乗りたがるでしょ」
特に乗りたい視線を浴びせるジャルジーとフィレイユ姫が、何かを訴えるような目をアーリィーに向ける。それを見て、お姫様はため息をついた。
俺はタラップを上がり、シズネ艇に乗艦する。操縦室へと向かえば、来たるべき任務の時にこの艦を操ることになるシェイプシフター乗組員たちがいた。
操縦室の前方左が操縦席、その隣が火器管制席。前席の後ろに床に埋もれるように一段低くなっていてそこに、レーダー手席と通信席がある。そのさらに後ろに収納式の艇長席がある。ちなみにシップコアは、操縦席と火器管制席の間にある。
『マスター』
シェイプシフターたちは一斉に俺を見た。
「こいつを飛ばすことになった。準備にかかってくれ」
それを聞いた途端、シェイプシフターたちは担当の席につき、それぞれの機械を立ち上げる。
『シズネ1より、サフィロ・コントロール。ソーサラーより、発進要請』
通信担当のシェイプシフターが通信機から、ウィリディスを管理するダンジョンコアへ呼びかける。
『こちらサフィロ・コントロール。ソーサラーの乗船を確認。マスターからの直接指示を請う』
サフィロから、俺の指示かどうかの確認の返信が来る。SS通信士が、ヘッドセットを寄越してきたので、受け取った俺は呼びかける。
「サフィロ、こちらソーサラー。飛行目的は、シズネ1の飛行試験。ウィリディス上空を周回する予定だ」
『承認。ウィリディス上空はクリア。発進を許可します』
「すまんな、サフィロ」
急な予定を入れて。上空はクリアということは、いま他に飛行している航空機はなしということだ。たまにリアナとか、近衛たちが戦闘機の操縦訓練をやってたりするからな。
SS操縦士は手際よく、シズネ艇を稼働状態へ持っていく。俺は艇長席を引き出そうするが、シップコアが反応し、自動で席を展開した。気が利くね、ほんと。
そのあいだにも、発進準備が進められる。SS乗組員たちのチェックの声が操縦室に響く。
『右第一、第二エンジン、左第三、第四エンジン、異常なし。フレキシブル・ブレード、可動良好』
操縦士からの報告に、俺は艇長席に腰掛けた後、頷いた。
「通信士。管制に、こちらの発進準備は完了したと伝えろ。格納庫のゲートを開け」
『了解。シズネ1より、サフィロ・コントロール――』
「操縦士、ゲートの開放と当時に、艦体浮遊1.5。微速前進にて、外に出ろ」
『了解、艇長。――艦体浮遊、1.5』
第三格納庫のゲートがゆっくりと開かれる。その間に、浮遊石の力でシズネ艇が床よりわずかに浮かび上がる。
正面に障害物はなし。ギャラリーたちも脇に待避している。四基あるエンジンのうち、右上の第一、左上の第三エンジンがほのかに噴射炎を引き、シズネ艇の艦体を前進させた。
ちなみに古代文明時代の艦艇であるシズネ艇の燃料は、魔力棒と呼ばれる魔力を充足した棒状の物体だ。
アンバルやシズネのシップコアの記録を元に、魔石などの魔力を固形物に再構成した。この燃料棒システムは、予備を用意しておけば非常に早く燃料の補充交換が済むというメリットがある。
閑話休題。シズネ艇は、するりと格納庫のゲートをくぐると、外へと飛び出した。高度をゆっくり上げつつ、速度を徐々に上げる。操縦士が最大速度のおよそ半分である強速を告げた頃には、シズネ艇はウィリディスの地の端まで移動していた。
「操縦士、回頭180。回頭後、速度を第一戦速へ」
「回頭180――」
艦体後部側面に追加装備した風魔法発動板、いわゆるフレキシブル・ブレードが可動。シズネ艇を緩やかに旋回させる。操縦室の窓から差し込む日差しが作る影も、それに合わせて動く。
いいね。戦闘機に乗っている身からすると、機敏さでは勝てないが、艦艇だと思えば十分速いターンだ。それに腐っても空を飛ぶ乗り物だけあって意外に速い。
その後も、シズネ艇は問題なく飛行を続けた。速度を上げたり下げたりを繰り返したが、エンジンの再生修理も完璧だったようでトラブルはなかった。もとより古代文明時代に正式採用されていた艦艇だ。俺が一から作ったものと違って、信頼性も高い。
天然浮遊石を搭載した艦である。ロケットのような急角度での上昇を試しつつ、高高度1万5000メートルまで上がったところで、本日のテストは終了とした。
格納庫前までゆっくりと降下、その駐機スペースを経由して第三格納庫へと入る。
さっそくSS整備員たちが、シズネ艇の艦体チェックとメンテを開始する。
接続されたタラップを使って降りた俺を、王族一同とカレン女王が出迎えた。
「兄貴、凄い船だった!」
ジャルジーが興奮を露わにした。……下でシズネ艇の飛行は見ていたのは予想がつく。
「次! 次、オレを乗せてくれ!」
「わ、わたくしも!」
負けじとフィレイユ姫が手を上げる。後ろでエマン王とカレン女王、そしてアーリィーが苦笑いを浮かべている。
まだ初回のテストだから、安全性が保障されたわけではないと釘を刺しておく。
その後の話し合いで、シズネ艇の少数生産が決定された。
エマン王に献上すると言ったそれを有言実行することになったのだが、ジャルジーにも同様にシズネ艇を一隻。さらにエルフの里からも、女王権限でエルフ専用のシズネ艇を一隻と、合計三隻の受注である。
もちろん、建造資金や資材はそれぞれが出した上で、という話でだ。……俺は慈善事業家ではない。
問題は、浮遊石とシップコアだと口にしたら、エマン王もカレン女王も、それぞれ古代文明時代の遺跡探しに本腰を入れると言っていた。
カレン女王は、ヴェリラルドの王族たちと夕食を共にした後、ポータルでエルフの里へと戻っていった。
残ったアエウ・ボートとその乗組員たちに宿舎をあてがいつつ、俺は、さっそくエルフの浮遊船の改造案を考えた。
舵のコントロールを一人でできるように、操縦システムを新造して載せ替える。
だが視界確保のためにブリッジを船首に持っていく案は、搭載された旋回砲の都合上、大改装になってしまうので取りやめた。
代わりに船首にコピーコアカメラを搭載して、その映像を操縦席前に設置した転写装置で見ることで前方視界を確保する方法を採用した。
手抜き? いや、面倒の少ない効率的方法と言ってほしいね。
ミリタリー用語や号令、指示の仕方は、リアナから指導を受けているジンさんたち。




