第527話、エルフ浮遊船団
レプリカ浮遊石製造装置の奪取に成功した。
手順に従い、ダミー装置を、元の装置があった場所に設置。その後、敵に発見されることもなく、無事工場より撤収。
外で待機していた歩兵戦闘車と合流すると、トンネルを完全に元通りにして、ポータルを使ってウィリディスに帰った。
終わってみれば、何ともあっけないものだった。
これも事前の偵察情報と準備のたまものだけどね。警備の数や対策がとれたからこそ、戦闘もなく済んだのだから。
後日、SS諜報部が、アーヴァルのレプリカ浮遊石製造機の爆発事故の件を報告してきた。俺たちが置いてきたダミー装置が工場で爆発。大帝国側は、装置の老朽化から魔力の供給に耐えきれず爆発した『事故』と結論を下したとのことだった。
盗まれた、とは夢にも思っていないらしい。
ま、事故と判定したくなるのも理解はできる。俺たちが持ち帰ったレプリカ装置も、かなりくたびれていたからな。サフィロの魔力生成による装置の再生を行わなければ、近いうちに故障して完全に使えなくなるところだった。
さすがに古代文明時代の発掘品だからなぁ。むしろ、まだ動くことのほうが驚きではあるんだが。
こちらは魔力による再生という処置が可能だったおかげで、レプリカ浮遊石装置を問題なく稼働させることができるようになった。
これに伴い、浮遊石の配置に見直しが行われ、空中対応型パワードスーツのTPS-3と、そのゴーレム型、あとワスプⅡ地上攻撃機に搭載されていたオリジナル浮遊石はレプリカに取り替えられた。
これらは高高度を飛行する必要性が皆無なので、レプリカ浮遊石で十分事足りるのだ。
オリジナル浮遊石の一つは、シズネ級小型艇に回され、残りはストックとした。
一応、シズネ級の設計図があるので必要とあれば魔力生成で二隻目、三隻目が作れるし、ポイニクスについても同様だ。……特にポイニクスは現在でも大活躍中だが、一機しかないのは問題になるかもしれない。
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レプリカ浮遊石が作れることになったので、以前より考えていたポイニクスのように高高度にあって観測任務につける小型機と、戦車やパワードスーツなどを運べる小型の飛行型揚陸艇を製作できるようになった。
現状、偵察機がポイニクスとシェイプシフターの獣型ユニットしかないが、高高度を飛べる偵察機はポイニクスしかない。
だが大帝国との武力衝突が始まれば、ポイニクス単機ですべての偵察をまかなえるはずがない。しかし三、四機程度ならともかく、ある程度の数を必要とすると、ポイニクスは消費資材(魔力)において少々お高い。
となれば、資材消費を抑えるために簡素、小型ながら偵察・観測能力の高い機体を量産する必要がある。これらの任務には航続距離や魔力燃料の消費を考えても、浮遊石の搭載が必須と言える。
重量制限さえクリアするなら、レプリカ浮遊石でも高度1万メートル付近まで上昇できる。量産型偵察機には打ってつけと言える。
機体のベースは、TF-2ドラケンを流用する。より魔力消費の少ないデザインに改良を加え、無人仕様に改造。開いたコクピットモジュールに偵察・観測機材を積む。
一番資材を使わない戦闘機と言えばTF-1ファルケだが、あれは小さすぎて偵察機材の搭載スペースがない。TF-3トロヴァオンはスペースは確保できるのだが、双発エンジンでややコスト高。偵察機に転用するのは少々もったいない。
一応偵察機仕様の装備を取り付けられるようにはするが、あくまでTF-3は戦闘攻撃機として用いる予定である。
かくてTR-2高高度無人偵察機は、浮遊石不足で頭を抱えていた頃から考えていたこともあり、早々に実機が完成した。ドラケンの改造機という点も、早い実用化を後押しした。
機体名は『ドラゴンアイ』。竜の目である。ドラケンがベースだからね。
そして、同じく事前に設計を済ませていた小型の飛行型揚陸艇もとい輸送機の製作である。
浮遊石は、物体を浮かせる石である。それはレプリカ浮遊石も同じ。その形は問わない。ゆえにその姿は飛行機とは似ても似つかない。
強いて言えば、ローターのないヘリコプターのようだが、何に似ているかと言えばヘビだろうか。
魔力エンジンは双発であるが、ワスプⅡと同型のパーツを使用することでローコスト化。胴体上部に左右一基ずつ搭載する。
その棒のように細長い胴体は、機首にコクピット。その後ろから後部にかけて車両や兵員輸送コンテナを懸架可能。最後尾には、シルフィードにも搭載した風魔法推進器を二枚装備している。
完全装備のBVS車両を一両、運ぶことができる。全長は18.5メートルあり、ポイニクスを除けば、ウィリディス航空機の中で一番長い。
名前はTAT-1ヴァイパーと命名した。TATはトキトモ式空中輸送機、ヴァイパーはクサリヘビのことだ。
ヴァイパーは、高高度浮遊群のスカイベースで再生修理中の強襲揚陸艦に積めるようにする予定だ。同艦にも小改造が必要になるが、それについてはやむを得ない。
さて、スカイベースといえば、古代文明時代の航空巡洋艦『アンバル』の再生作業が終了。さらにダンジョンコア製法で組み上げたオリジナル航空母艦が就役した。
艦名は『アウローラ』。全長152メートル、全幅38メートルと、空母と呼ぶには小型の艦艇である。艦載機搭載数16機。露天甲板も含めれば32機を搭載――もちろん、飛行甲板を滑走路として使用しない浮遊発進を行えば、の話ではある。
……計画当初は、春までに間に合うかわからなかったが、これなら、もう少し船体を大きくして艦載機数を増加させてもよかったかな、と思う。
現在、シェイプシフター乗員とシップコア『アンバル』制御のコピーコアを用いて、慣熟運用中。とはいっても、シップコアがないために、アウローラ自体はほとんどアンバルに随伴する程度のことしかできない。
ま、後方に置く空母に複雑な戦闘機動をさせるようなことはないので、今のところは問題はない。
計画戦力が続々その姿を現しつつある中、ウィリディスにエルフの里から、カレン女王とエルフの一団、そして小型浮遊船が到着した。
女王自ら来訪されるとエルフ側から通告されたので、冬の間ウィリディスにこもっているエマン王に話を通しておく。他国の王族が来るのだから、当然である。
「おお、カレン女王が!」
するとエマン王は、女王を出迎えるべくコタツから出て正装をし始めた。
ウィリディス領主である俺と共に、格納庫前の駐機スペース前に、近衛たちを集めてお出迎え。
「儀仗隊がおらんな」
式典や外国ゲストを迎える際の儀礼専門部隊のことである。きらびやかな装備をまとったそれらは、その国の精強さをアピールする意味でも目立つ。
エマン王が眉をひそめれば、正装の上に防寒着をまとった俺は肩をすくめた。
「ウィリディスは隠れ家みたいなものですから。式典とは無縁です」
「それはそうなのだが……」
「それに女王陛下も、公式ではなくお忍びでの来訪ですから、あまり派手にやるのは好まれないかと」
大ポータルを経由して、ウィリディスに姿を現すエルフのボート型浮遊船。それが一隻ずつ順番に並んで、ゆっくりと航行する。
「ほう、あれがエルフの空を飛ぶ船か」
エマン王の眉間のしわが深くなる。他国に飛行する船があり、自国が保有していないとなれば面白くないのは当然だ。……まあ、義父さんは、ポイニクスをはじめ、ウィリディス製航空機を見ているわけだが。
「我が国にも浮遊船が欲しいものだ」
「エルフの里から回収した古代文明時代の艦があります」
俺は、視線をゆっくり降りてくるエルフの船に向けたまま言った。初耳だったエマン王はちら、と俺を見た。
「なに!?」
「修繕を終えて、飛べる状態に仕上がっております。問題がなければ、王国用に新造して、いずれはお義父さん、いえ陛下に献上しましょう」
「いますぐにその船とやらを見に行きたい……」
「ご冗談を。……女王陛下が到着されましたよ」
駐機スペースにエルフの浮遊船が、のろのろと着陸する。地面にぶつけないように慎重に下ろしているつもりなのだろうが……。
むき出しの甲板に、美しいエルフの女王の姿があって、こちらに向かって会釈した。




