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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第526話、レプリカ製造機、奪取


 暗視装置ごしに見る城塞都市を囲む城壁は、分厚く高い。中に入るのは物理的に不可能そうではあるが、壁を越えるつもりはないので不安はなかった。


 警戒すべきは城壁からの見張りであるが、カモフラージュ・コートを発動した上に、夜間での低速接近だ。暗視装置のない肉眼で、歩哨が見つけるのは至難の業だろう。事前の潜入偵察で、ダークアイのような夜間警戒の目が城壁にはないことは確認済みだ。


「何故だ?」


 ディーシーが聞いてきたので、俺は答える。


「城壁の外を、たまに獣が徘徊しているからだよ。壁が高いから、入り込まれることはないが、ダークアイがいちいち反応すると、待機している兵たちが警戒配置に就かないといけなくなる」


 自分に関係ないことで、毎回叩き起こされるのは誰だって嫌だろう?


「ま、ダークアイ自体、重要な場所にしか配置されていないってのもある」


 歩兵戦闘車(エクウス)は、城壁のすぐ真下に移動。俺は黒猫を見た。


「ベルさん、断絶結界」

「あいよ」


 一定範囲内の出入りはおろか、音さえ遮る結界を展開する。これで音が周囲に響くことはなくなった。

 俺たちはエクウスから降りる。扉を開けたり、といった物音も結界のおかげで外に聞こえることはない。


「さて、ディーシー。トンネルを掘ってくれ」

「任された」


 黒髪の少女は右手を雪の積もった地面に向ける。すると音もなく、雪が溶け、むき出しの地面もまた穴が開いていく。


「もう、テリトリーは張ったのか?」

「ふん、我の半径十メートル範囲をテリトリー化しているからな。トンネルを作る範囲を支配下においておればいいのだろう?」


 フフン、と挑むように言うディーシー。無駄な範囲のテリトリー化はしないで、効率重視のようだ。賢いなぁ、こいつは。


「……褒めてもいいのじゃぞ?」

「お前、時々口調がおかしくなるな」


 ここ最近、しゃべり方について教育を受けていて、少し落ち着いてきたかな、と思ったのだが。……とりあえず、いい子いい子しておけばいいかな?

 頭をなでなでしてやると、きしし、と少女は外見年齢相応の笑みを浮かべた。


(あるじ)は、エッチぃのぅ」

「なんでだよ!?」


 しぃ、とリアナが口元に指を立てて、こちらを睨んだ。……大丈夫だよ、結界で大声出しても聞こえないからさ。


 エクウスから、魔力通信用の有線ケーブルを伸ばす。随行(ずいこう)するSS兵の一人が通信機とケーブルを携帯するのだ。このケーブルは、お得意の魔力伝達線を元にしている。


 ディーシーの先導で、俺たちは城壁の地下を進む。壁のすぐ下は、城壁の地下通路とそれを支える構造物があるので、それらにぶつからないようにさらに下を掘り進める。

 それを考えると、魔法とかで城壁を越えるほうが実は楽ではある。たが、地下なら敵に見つかるおそれはない。


 地下を順調に掘り進めるディーシーであるが、ついていく俺たちからすれば、ちゃんと目的地に進んでいるか、見た限りでは判断しようがない。何せ目標も見えない地下だからな。


 とはいえ、ちゃんと対策はしてきてある。そのための上空監視機のポイニクスだ。

 こちらの発信器(ビーコン)を、有線ケーブルで繋いだエクウスが中継し、上空から位置情報を把握、魔力通信によりナビゲートを行う。


『――そのまま前方に二十メートルほど直進。直下に到着したら、報せます』

『了解、ポイニクス』


 ほんと、地下にいると今どこにいるのかさっぱりである。周りは土と石ばかり。トンネルを作っているディーシーも「あとどれくらい進めばいいんだ?」と確認してくる始末である。

 ある程度テリトリーを広げれば、彼女は自力で位置を把握できるが、今回はそれをしていない。ポイニクスの誘導策がダメだった場合の保険だったんだけどね。


 かくて、障害もなく、目的のレプリカ浮遊石の工場の真下に到着した。上に上がるために、らせん状に掘り進める必要があったが。


「では、始めるか」


 俺はシェイプシフター兵たちに合図する。ケーブルと通信機を担いでいた兵はそれらを下ろし、それぞれが携帯していた投光器を持つ。直径30センチほどの鏡のような円盤であるが、魔石を動力に強力な照明魔法を発動する。


 一人のSS兵が、その姿をぐにゃりとスライム状に変化させると天井に張り付く。それを確認した上で、俺はディーシーに工場の床に穴を開けろと命じた。


 ディーシーが直径一メートルほどの穴を開ける。だが天井に張り付いているシェイプシフターのおかげで、そこに穴が開いたようには見えない。……工場内を警戒するダークアイが穴に気づいても困るからな。


 張り付いているシェイプシフターが、細い糸のような触手を伸ばし、待機している三人のSS兵に、上の様子を報告する。SS兵たちは投光器を自身の身体に埋め込むと、天井のシェイプシフターの身体に飛び込んでいった。


「なんとまあ、シュールだな」


 ベルさんが呆れたような声を出す。


「ああ、まったく。普通の人間にはこんな芸当はできないよ」


 十秒も経たず、天井のシェイプシフターが形を変えて、工場床の穴を俺たちに提供した。


『マスター・ジン。ダークアイは沈黙させました』


 まっすぐ伸びた光が、天井のオブジェ――いや、ガーゴイルのような姿の魔法生物ダークアイを照らしている。光源があるうちは作業中と植え付けられているダークアイは目を閉じ、待機状態になる。……情報通り。


 俺たちは穴を通って、工場に侵入する。真っ暗な室内に、投光器の照明。工場の屋根近くにある窓っぽい穴から外に光が漏れると面倒なので、さっさと魔法で暗幕をかける。


 ベルさん、ディーシーが出て、リアナが穴から上半身を覗かせながら、持ってきたTM-3アサルトカービンライフル、抑制器(サプレッサー)付きを、工場の入り口へと向ける。

 厚い鉄の扉は閉じられているが、外には歩哨が二名、随時立っている。物音などを立てれば、外の兵が中を見ることもある。その時は、リアナが必殺の銃弾を敵に浴びせるだろう。


「ベルさん、遮断を」


 大気の層を操作して音を遮断。これから工場内でそれなりの音を出すのだ。

 俺は光度を落とした魔石式懐中電灯をとると、それで目的のレプリカ浮遊石製造装置のまわりをぐるりと一周する。


 筒状の機械式装置は、さながらコンピューターの巨大サーバーのような形をしている上半分と、浮遊石を製造する箱状の下半分から構成されていた。高さは三メートルほどで、全体の大きさはパワードスーツより大きく見える。


 いまは停止状態で、ただの鉄の塊のようだ。さてさて、まずはこの装置に魔力を供給しているパイプを見つけて切断。


 続いて、装置を床に固定している器具を魔力で外していく。これを普通に運ぶとなると、ひと一人の力では無理なのだが、そこは俺が浮遊の魔法をかければ移動させるのは造作もない。……もっと重い戦闘機だって俺は浮かせられるからな。


 ウィリディス直通のポータルを展開。浮遊させたレプリカ装置を、そのままポータルをくぐらせる。

 さて、後は時間との勝負だな。


 ウィリディスで装置を解析し、それっぽいダミーを作った後、元の場所に戻す。その後は、俺たちが来た痕跡を消して撤退。トンネルも埋め立てねばならないのだ。

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