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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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527/1886

第525話、城塞都市アーヴァル潜入作戦 


 工業都市アーヴァルにある浮遊石生産工場への潜入強奪作戦は、SS諜報部による報告を待って、計画が練られた。


 大帝国の主要都市、主要軍事施設について、すでにSS諜報部が調査を行ってはいたが、今回、再潜入が行われた。より正確な情報を得るためである。


 アーヴァルの浮遊石工場と周辺施設の最新情報が、帝都の秘密拠点のポータルを経由してウィリディスに送られてきた。


 俺は報告を検討する。

 今回は派手にやるつもりはないので、大人数で行く必要はない。強奪に必要な装備や人数、その配置を考える。


 シェイプシフター単独の奪取も考えたのだが、レプリカ装置の大きさから、運び出すまでの作業に時間がかかり、さらにどうしても施設の人間の目に付くので却下した。


 結論から言えば、俺が行くしかない。いい加減、ディーシーにも少し働いてもらおう。無駄飯喰らいにはさせん。


 潜入班は、俺、ベルさん、ディーシーと、潜入工作に慣れているリアナと、シェイプシフター潜入兵4名。


 ほか、SSドライバー2名が操る歩兵戦闘車(エクウス)が、アーヴァルまでの移動をサポート。空中は高高度をポイニクスが行く。


 ちなみに今回使用するエクウスは、水魔法金属の追加装甲を装備し、カモフラージュ・コートが発動できるようにした。いわゆる潜入部隊移動用の仕様となっている。移動中もこれで発見される率を大幅に下げられるだろう。


 しかし、世の中、想定外のことも起こりうるものだ。

 道中での遭遇戦も含め、レプリカ装置を盗み出す過程で、大きな戦闘になった場合のバックアッププランも考えねばならない。


 そのため、潜入班を支援する部隊を、ウィリディスにて待機させることにした。

 ポイニクスには、地上兵力降下用のポータルポッドを搭載し、いざという時の増援を送れるようにする。アーリィーや仲間たちが準備しているが、おそらく出番はないだろうと俺は思っている。


 さて、俺たち潜入班は、敵地潜入用装備のエクウスに乗って、ウィリディス・ポータルから大帝国帝都近くの秘密拠点ポータルへ移動。日が沈む夕刻を選んで、帝都からアーヴァルへと向かった。


 暗視装置で暗くなりつつある視界をクリアにしながら、雪深い北の大地を、浮遊戦車が突っ走る。

 目的地までは森などの障害物を回避したりするため、一直線とはいかない。一応、地図はあるが、大きく外れるようなら空中のポイニクスがガイドしてくれることになっていた。


 エクウス後部の兵員輸送室にいる俺。ディーシーは退屈そうにしていて、ベルさんは猫の姿で、擬人化コアの膝元で丸くなっていた。


「……正直、ベルさんが来るとは意外だった」

「おう、オレ様も少し後悔してるところだ。寒いな、チクショウ」


 ベルさんがマフラーを伸ばして自分の身体にかけていた。兵員輸送室に暖房をつけないといけないだろうか。俺はもちろん、リアナは冬用の防寒装備をまとっている。

 身震いするベルさん。


「少し運動不足っぽいから、運動したくなっただけさ」

「新年早々、ゴロゴロしてたもんな……。でもベルさんは、人間と違って太らないだろ?」

「姿は変えられても、太らないとは限らないんだぜ」


 そんなものかね。


「でも、今回は、派手に暴れるつもりはないから、運動不足の解消にはならないと思うよ」

「その時はその時だ。何かあった時に暴れるのがオレ様の仕事」

「頼もしいね」


 俺は、視線をディーシーに向けた。


「お前さんにはがっちり働いてもらうからな」

「うむ、任せておけ。(あるじ)が望むなら、アーヴァルとやらを我がテリトリーとして支配してやるぞ?」


 ふふ、と少女ながら魔女を思わす妖艶な笑みを浮かべるディーシー。


「それはまた別の機会にな」


 今は、そこまで大きなことは望まない。俺はSS諜報部が得た都市と工場の地図の書かれた紙を広げる。

 作戦はこうだ。


「アーヴァルの外壁に到着したら、そこで降車。ディーシーが工場の地下までテリトリーを伸ばして、地下道を作る――」


 昔の映画などでよく見かけた目標の地下を掘り進めて接近するアレである。ツルハシやらスコップを手に、人のいなくなった頃合いを見定めて時間をかけてせっせと掘るやつ。

 こちらはダンジョンコアの力があるから大した時間はかからない。

 城塞都市を囲む壁も無視して、地下を進んでレプリカ浮遊石の工場へ。


「――装置のある部屋の真下まで進む」


 そこで小さな穴を開け、部屋に侵入。


「見張りのダークアイという魔法生物が四体、天井から動くモノがないか監視している。そいつらは光を当てられると機能を停止するから、SS兵たちは投光器を、それぞれダークアイに向けて動きを止める」


 ガーゴイル型の魔法生物で、ダークアイと呼ばれる大帝国の警備用魔獣。昼間は兵士が監視しているが、夜間は無人になった工場をダークアイが監視する。


 昼間や照明が付いている間は、ダークアイは悪魔をかたどった像よろしく天井にて張り付いて活動を停止している。この習性を利用する。

 工場の明かりを付ければ、投光器がなくても動きを封じることも可能だが、そのためには照明の操作盤付近に出なければいけない。それに明かりをつけたことで、外を見回りしている兵士や歩哨に気づかれる可能性が出てくる。


 持ち込んだ投光器でダークアイの動きを封じつつ、工場から明かりが漏れないように、俺が魔法でカーテンをかけることになっている。


「見張りを黙らせたら、レプリカ装置に繋がっている魔力供給用パイプを切断。床の固定器を外した後、ポータルを使って、装置をそのままウィリディスに送る」


 ウィリディスの工場で、サフィロがレプリカ装置を解析。外見を似せたコピーを作成し、それを工場に送り返し固定、元通りに偽装する。


「俺たちは地下の穴を通って工場を脱出。ディーシーが穴を埋めつつ、エクウスの待機している場所まで撤退。そこでポータルを出して、全員帰還という手順だ」

「……何もかも上手くいったら、オレ様の出番はないな」


 ベルさんが鼻を前足でかいた。無言を通しているリアナも、小さく肩をすくめた。SS兵たちも同様だ。


「団長」


 リアナが小さく指を上げたので、俺は頷いた。


「投光器は四つ。もし、ダークアイが五体以上いた場合は?」

「あり得ない」


 潜入シェイプシフターの最新報告では、工場の警備の増強はなし。


「だが、もし五体以上いたら、その時は俺が五体目以降に魔法で光りを当てる」

「了解」


 リアナは確認を終えると、目を閉じた。……現場に着くまで仮眠するつもりかな?


「ま、何事もないのが一番だよ」


 俺が言えば、ベルさんはニヤリとした。


「オレ様としては、少し騒ぎになったほうが面白いんだけどな」

「そういうのはいいから」


 フラグに聞こえるからやめてくれ。

 ははは、とベルさんの笑い声が返ってきた。

 すっかり闇に包まれた夜のディグラートル大帝国領を走ることしばし、SSドライバーが魔力通信機から呼びかけた。


『マスター・ジン。目標の城塞都市を視認』


 いよいよ、潜入作戦の時が来た。心臓の鼓動が聞こえてくるような感覚。久しぶりの緊張――相手が、大帝国だからかね。

 俺は小さく息を整えると、天井を見上げて軽く祈った。


 ……まあ、祈った相手が神様かどうかは知らないけど。

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