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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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523/1944

第521話、友好関係を結ぼう


 ヴァリエーレ屋敷、バルム伯爵の執務室。


 マルカスは、兄ラッセと、父バルムのやりとりを聞いていた。


 先のフィーエブル盗賊団のアジト『デュレ砦』での戦いの経過と、主であるジン・トキトモの働きについて。

 兄は、リヒトが生還したことを喜んでいたが、同時にジン・トキトモを過大に評価しているようだった。


「父上、彼とは交流を持つべきです!」

「……」

「王族が彼を贔屓(ひいき)にする理由は、今回の一件で鮮明になりました。賢者……ええ、彼はまさに常人には不可能な事を易々と実行してみせる! マルカスが彼に仕えるというのは、むしろ我が家にとっても僥倖(ぎょうこう)。逃す手はありません!」


 ラッセは、ジン・トキトモと親密な関係を築くべきだと力説した。現状、ヴァリエーレ家の当主がバルムであるから説得にかかっているが、もしラッセが当主であったなら、すぐに同盟関係を結んでいただろう。


 あわよくば、ジンの、いやウィリディスの技術と力の恩恵を受けたいと思っているに違いない。


 バルムは知らないが、ラッセは、ウィリディスでの豊かな生活と食事の一端を目の当たりにしている。


 今回、歩兵戦闘車(エクウス)という、古代文明時代の遺産にも等しい魔導兵器に触れている。精巧な地図を作成し、見たことがない魔導具などを保有し、活用する。

 当然、欲しくなる。

 マルカスは、貴族なら当然考えるだろう利害について、見当はついていたが黙っていた。


 何故なら、自分が純粋にジンに忠誠を誓うのは、彼の持つ魔法具や武器が欲しかったからではない。

 自分が、自分の思い描く騎士でいられる場所だと思ったからだ。貴族がどうとか、お飾りの称号で満足するのではなく、磨いてきた技術や力を、正しく発揮することができる場所。これまでの自分の生きた道が、無意味ではなかったことを証明できると思ったのだ。


 そして事実、主の騎士として、共に戦い、勝利のために働けたことはマルカスの誇りだった。まだまだ自分は彼に及ばないから、もっともっと腕を鍛え、強くならねばならないが……。

 少なくとも、しばらくは退屈しそうにない。いや、する暇もないだろう。


「彼には、ジン・トキトモ殿には我が家は大きな借りを作った」


 父バルムが八の字(ひげ)をいじりながら、重々しく告げた。


「借りは返すのが礼儀だ」

「はい、父上」


 ラッセは頷いた。バルムは顔を上げた。


「彼の持ち込んだ、戦車やバイクなる代物。あれを得ることができるなら、メリットもあるだろう。……しかし」


 バルムは、マルカスを見やる。


「王族も贔屓にしているというが、ジン殿と関係を深めたといえ、あれらを我らに譲ってくれるものだろうか?」

「現状では難しいと考えます」


 マルカスは正直に答えた。


「いま、ジン様は、ディグラートル大帝国の動向を注視しており、王国守護のための戦力を整えている状況です。あのエクウスやホバーバイク(ウルペース)も、その一環。仮に技術を流すとしても、まずは王族から、となりましょう」

「例の魔法甲冑のように、だな」


 あれの噂は聞いている、とバルム。マルカスは続けた。


「ですが、軍備以外にも、ジン様が今後もたらす恩恵を考えるなら、いち早く友好関係を結んでおくのは、家のためになると思います」


 バルムも、ウィリディス食堂での食事を経験すれば、一発で理解できるだろう。だが、それは我らが主であるジンは、あまり望んではいない。

 できれば部外者を招きたくないと思っている節がある。マルカスは自然と口もとを歪めた。


「あの方は、あまり貴族や有力者と付き合うのを好まれないところがありますから、貸し借りがあるうちに関係を結んだほうが得策でしょう」

「……そうか」


 バルムは静かに息をついた。


「借りは返さねばならない。よかろう、我が家は、ジン・トキトモ殿と友好関係を結ぶ。そして、マルカス。お前が、ジン殿の配下として働くことを認める。我が家の名を汚さぬよう、励め」

「ハッ、父上!」


 頭を下げるマルカス。ラッセは笑みを浮かべた。


「私の代わりに、リヒトを救ってくれたジン殿に誠心誠意お仕えしてくれ。できるものなら私が彼に、ご恩をお返しせねばならないところだが……」

「兄貴は次の当主なんだから、そちらでヴァリエーレの家を守り立ててくれ。一族の恩はおれが返す」


 それがなくとも、忠誠を誓っているのだが。


 これで晴れて、マルカスは就職先を家から公認されたのだった。

 なお、その日、結局ヴァリエーレ一家は、ウィリディス食堂に招待され、その食事を食べることになる。


 フィーエブル団の屋敷襲撃で受けた破壊に屋敷の食堂があり、片付くまで調理ができなかったのだ。

 その話を聞いたジンが、傷心のリヒトを見かねて招待した。


 家族揃って、異国の緩やかな作法のもと、冬とは思えない豪勢な料理を堪能――それが日常と知り、バルムや兄の妻メロウナも驚いていた。

 リヒトも、デザートに用意された複数のケーキを食べてご機嫌だった。


 足が悪く部屋にこもっているマルカスの祖父ファレンも、ジンが用意した浮遊椅子を借りて久しぶりの外食を堪能(たんのう)した。また、その浮遊椅子はそのままファレンに進呈された。


 マルカスはその後、思わぬ家庭訪問を受ける形となり、ラッセやリヒトに自分の部屋を見せることになる。結果、大変うらやましがられた。


 バルムはジンに、食材や暖房器具について話し合いをしていた。ウィリディス屋敷は冬にもかかわらず暖かだから、帰った後のヴァリエーレ屋敷が、とても寒く感じた。

 


  ・  ・  ・



 新年を実家で過ごすことになったマルカス。ポータルを経由してウィリディスに戻った俺は、バルム伯爵からの要請もあって、ウィリディス製魔力暖房機を数台送った。……マルカスも、あの屋敷では寒かろう。


 ヴァリエーレ家の次男を、うちに仕えさせる件を認めてもらえればそれでよかったのだが、気づけば友好関係を結んでいた。


 貴族の力、すげぇ――と思うことにする。アーリィーはまだ保留だと言っていたが、はたして俺に与えられる爵位って何になるんだろうね?


 公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵という順序らしいが……。正直、貴族の身分に興味はないから、一番下の男爵でもいいんだけどさ。


 そういえば、海外の創作だと、男爵が活躍するものって結構あったような……。ラノベ界隈だと侯爵あたりが多いか……?


 それはともかく、人型になったDCロッドことディーシーを、ウィリディスの主な仲間たちに紹介した。


 知り合いっぽいので姿形の杖ことスフェラを交えたら、本当に知り合いだったらしく、ディーシーが人間の言語などを覚えるための手助けをしたことが判明した。


 交流は互いにストレージにいる間にしていたと言うので、俺からしたら最近の話であるが、彼女たちにとっては、もう何十年来の付き合いになっているとのことだった。


 さて、そんなディーシーは、元は天然物のダンジョンコアである。彼女の食事は、魔力であり、魔力生成されたウィリディス産の食材は大好物となった。

 ここの食材は不純物がない魔力の塊と称し、その細い身体に反してもりもり食べる姿が、ウィリディス食堂で見かけられることになる……。

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