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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第513話、マルカスの帰郷


 雪がやんだ。

 昨日まで降り続いていた雪のせいで、外はうずたかく積もった白銀の世界が広がっていた。


 澄み切った青い空。朝早く、俺はDCロッドを使って、格納庫前の除雪作業をしていた。まあ、ただ杖を前に出して、まっすぐ歩くだけなのだが。


 ダンジョンテリトリー化からの、半径二メートル以内の雪を根こそぎ消滅。熱で溶かしてもいいのだが、その場合地面が水浸しになるからね。ぱっと見、積もった雪が溶けているようには見えるのだが。

 ふと、気配を感じて視線を向ける。メイド――サキリスがやってきた。


「おはようございます、ご主人様。雪かきをされているのですか?」

「うん、まあ、そんなところだ」


 雪かき、と言っていいのかどうか。奇妙な除雪作業なのは認める。


「言ってくだされば、わたくしがやりましたのに」

「君に力仕事やらせるくらいなら、近衛にやらせるよ」


 体力作りも兼ねて、一石二鳥だろう。しゃべる間も、俺は足を止めない。二メートル先の雪が掃除機に吸い込まれるゴミのように消えていく光景を、サキリスは俺に続きながら見つめる。


「ずいぶんと便利なのですね、DCロッドは」

「まあね。サフィロとかの人工コアではないが、これでもダンジョンコアだからね」


 もっとも、俺の言うことを理解して、色々こなせるようになるには結構な時間がかかっている。

 ダンジョンコアを手に入れ、それを従わせて杖にした。だが、なにぶん天然のコアは人間の考えを理解しているわけではなかった。言うなれば獣を従わせているようなもので、当時はわからないことのほうが多かった。


 ただ、それなりに付き合いを経れば、獣だって賢くなる。天然ダンジョンコアもこちらの言うことがわかるようになって最近では素直に反応してくれる。ま、初めてやることに関しては、理解が及ばなくて困惑することもあるが。


「あと、何往復するのですか?」


 サキリスの問いに、俺は視線をたどる。


「十往復くらいかな……?」

「わたくしが代わりましょうか?」

「申し出はありがたいけど、DCロッド(こいつ)は俺の指示しか聞かないからな」


 持ち主というか、制御下に置いている俺専用の杖になっている。天然コアを従わせるというのは意思疎通の面でも難しい。

 かの大魔術師マントゥルだって、自身の身体にコアを半ば埋め込んで制御していたくらいだ。

 コアが持ち主を選んで従わない限り、見ず知らずの人間がそれを使いこなすことはできない。


「とはいえ、俺も面倒になってきた」


 残りは近衛にでもやらせようか。どうせ最近では訓練以外は暇を持て余している。……いや、年末だし、休ませてやるか。

 もとの世界にいた頃、年末年始に働いている人たちを見て、気の毒に思ったことがある俺である。


「範囲を指定して払ってしまおう」


 除雪有効範囲の拡大。俺が歩くのをやめ、DCロッドを雪の方向に向ければ、除雪予定だった範囲の雪が、熱によって溶けるのを早回しで見るように、あっという間に消えた。


「……最初からこうすればよかった」



  ・  ・  ・



 雪かきも済んで、朝食タイム。

 上空からの走査と観測班による天候予想では、数日は晴れとの予報。しかし気象の専門家でもなく、データ自体不足しているから、細かな予測は難しいんだけどね。


 だが晴れは晴れである。

 マルカスを故郷へ送ってやろう。


 移動手段は、BVS搭載戦闘車両、その歩兵戦闘車形態であるエクウス。浮遊式車両なら雪上でも問題はあるまい。仮にトラブったらポータルを使ってウィリディスに戻ればいいのだ。

 車両後部のEパーツこと、兵員輸送室にマルカスと俺、そしてアーリィーが乗り込むと、シェイプシフタードライバーが操縦するエクウスはウィリディスを出発した。


「……すみません、団長。お手を煩わせて」


 故郷への荷物を詰め込んだバッグを空の席に置いたマルカスが詫びた。向かいの席に座る俺は首を横に振った。


「なに、気にするな。エクウスの長距離移動と長時間の座り心地のテストにはいい機会だ」


 ついでだよ、ついで。


「団長は、何でも機会を捉えるんですね」

「色々試す時間が足りないからね。できる機会があるならどんどん試すさ」

「なるほど。……それで、アーリィー様が一緒なのは?」


 苦笑するマルカスが、真面目ぶって視線を変える。小窓から外を眺める素振りを見せていた金髪のお姫様は振り返った。


「観光ついで、かな。君の領地を見てみたいというのもある」

「昨日まで大雪でしたから、あまり見るものはないかもしれません」

「それでもいいよ。たまには違うところへ出かけるのはいいことだから」


 気晴らしの一種だろう。防寒具を着込んだアーリィーが、再び隙間みたいに小さな小窓を覗き込む。


「ねえ、ジン。見て」


 何が見えるというのか。彼女が見ていたのは戦車の後ろの方向。……ほう、浮遊推進で前進するための噴射が地面に吹き掛かり、細かな雪を後方へと散らしていた。

 遠目からは、波しぶきのように見えるかもしれない。


「何か凄い……んだけど、大丈夫かな? これ目立たない?」


 アーリィーが眉をひそめた。

 一応、ウィリディスの戦闘車両は秘匿(ひとく)しておく代物ではある。それがウィリディスの外を走っているわけだ。ただ派手に雪を散らしていると、遠くからも見えて、人に気づかれる率が高まるが――


「昨日までは大雪だった。町や村の外を出歩いている人なんて、そうはいないよ。仮にいたとしても、得体の知れない何かにしか見えないから、未確認生物程度の噂に留まると思うよ」


 巡航速度で時速一〇〇キロ以上の猛スピードで突っ走る地上物なんて、化け物としか思えないだろう。今回ウィリディス外で走らせるからと、エクウスは白ペンキで塗装したから、雪上ではなおそのシルエットが見づらくなっているはずだ。


「……お言葉ですが、団長」


 マルカスは困ったような顔をした。


「ヴァリエーレ領に入ったら、普通に目撃されると思うのですが。そもそも、おれの家に着いたときも、見られますよ?」

「うん、君の家の人たちには逆に見せつけようと思ってね」


 俺は意地の悪い顔になる。


「お兄さんは話のわかる人だったけど、君の話じゃお父上とお爺さまは、たいぶ頭の硬い人だって言うじゃないか。誰のところにいるのか、そういう意味ではエクウスは見せつけてやる価値はある」

「……あぁ、そういうお考えでしたか」


 マルカスは頷いた。


「しかし、いいんでしょうか? おれのために、ウィリディスの兵器を見せて」

「一台くらいなら、希少な魔法具程度でごまかせるさ」


 ダンジョンからのレアアイテム。古代文明時代の遺跡から発掘されたオーパーツで済ませられるレベルだ。空を飛ぶ飛行機ではなく、馬のない馬車程度なら、まだ理解もしやすいだろう。


 かくて、俺たちを乗せたエクウスは、目的地までは極力、集落を避けつつ雪原を疾走した。懸念通り、何人かに目撃されたが、どれも遠く、あっという間に過ぎ去ってしまったので問題はないだろう。しばらく噂にはなるだろうがね。


 ヴァリエーレ領に到達。マルカスにとっては久しぶりの帰郷であるが、やはり集落は避けて通った。少し悪い気もするが、ひどく恐縮してしまっている彼は、むしろ胸をなで下ろしていた。

 生真面目な彼は、機密兵器を必要以上にさらすことを心配しているのだろう。


 だが最後だけはそうはいかない。ヴァリエーレ屋敷のある町には、エクウスは人目も気にせず侵入した。

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