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第3話、ひとりと一匹


 俺がブルート村での個人的な依頼を受けたことで、この国を騒がす反乱軍とやらの後を追うことになった。


 フィデルさんに聞いた話では、反乱軍は王都へと進撃しているらしいので、奇しくも目的地は同じということになる。


「反乱軍ということは、正規軍とやり合うんだろうなぁ、やっぱ」


 助手席側の専用席に座るベルさんが適当にぼやいた。


「もしドンパチやってたら、そのコラムとかいう傭兵、見つけるの面倒じゃね?」

「まあな。実際どうなってるか、見ないことにはわからん」


 魔法車は大草原を疾走する。相変わらず道がないので、ガクンガクン揺れる。全速にはほど遠いが、それでも車の速度をもってすれば、さほど時間もかからず追いつけるだろう。


「うん?」と、黒猫は首をかしげた。


「気のせいかな、ジン。この車、スピード落ちてねえか?」

「……アクセルは踏んでるんだけど」


 それまでこの世界の地上を走る乗り物の中で、最速に近い速度をたたき出していた魔法車が、のろのろと行き足を止める。おいおい、冗談だろ……?


 俺の願いもむなしく、まさに力尽きた感じで魔法車は止まった。フロントガラス越しに見える景色は大草原。そのど真ん中で動かなくなったのだ。


「マジかぁ……」


 俺はため息をついた。ここにきて故障か。ドアを開け、降りるとエンジンルームを覗き込む。


魔法車の外観は、俺のいた世界で言うところの軽自動車に似せている。

 金属を想像の魔法で車の形に加工。見た目は軽のイメージで作り出したが、想像の魔法で作れるのは外枠とか部品だけ。機械的なものは別に作っている。


 ハンドルや運転席、内部の作りも乗用車のそれだが、エンジンは魔石による魔力駆動。ハンドルやペダル、その他稼動部に接続している魔力伝達線を通して、魔石エンジンからの魔力を送り、それぞれのパーツに刻んだ魔法文字がその命令に従って車を動かしている。タイヤは想像の魔法でゴムっぽい素材をでっちあげて作った。


 この世界には他に存在しない魔力駆動の車は、ここまで結構走らせてきたのだが――。


「……寿命だ」


 肝心の魔石エンジンが、完全に魔力を失っていた。本当はこうなる前に安全装置代わりの魔法文字が停止させるはずだったのだが、それが働かなかった。エンジンのコア――大地の大竜を討伐した時に入手した貴重な大魔石が、ただの石になっていた。


「これじゃ、もう動かない」

「駄目か? 他の魔石で代用は?」

「すぐ使える魔石だと一時間ともたないよ。そもそもエンジンのサイズに合わせる加工は時間がかかるし。労力とコストが合わない」


 俺は動かなくなった愛車を見やり、頭をかいた。


「エンジン以外にも、いろいろガタがきている。これはちょっと今すぐどうこうできるものじゃない」


 初めて作った車だった。魔石エンジンや魔力伝達線も、今作ればもう少しマシなものができるのだが、これを作った時はまだまだ未熟だったし。

 俺の傍らに座り込んだベルさんが言った。


「で、ここからどうするんだ?」

「徒歩だな」

「だろうと思った。……オイラが乗せてやろうか?」


 黒猫姿は仮の姿。本来の姿は別であるベルさんが申し出てくれたが、俺は首を横に振った。


「やめよう。反乱軍までさほど離れていないだろうし」


 アイテムストレージ――異空間に収納する魔法を使って、魔法車をそちらへ移動させる。重い車は、浮遊の魔法で浮かせて収納だ。


 この世界で、正規の魔法の講義を受けたことがない俺だけど、思い描けばだいたいできるのが魔法のいいところだ。まあ、何でもできるわけではないけど。


 空は雲が増えてきた。日が傾き、もう二時間ほどすれば太陽が地平線に沈むだろう。俺はベルさんを肩に乗せると、草原を加速の魔法のかかったブーツの力で滑るように進んでいった。


 しばらく進むと正面に『目的地』が見えてきた。平原の真ん中に無数の天幕が立ち並んでいる。


 一大野営地。

 遠視魔法で視覚を強化すれば、武装した戦士らが多くいるのが見えた。


 さながら軍勢だ。話に聞いた通りなら、彼らは『反乱軍』と名乗っている。ヴェリラルド王国に反旗を翻した連中だ。

 その数は、およそ千から二千人ほどいるらしい。王国と戦っていると言うが、通り道にある集落は軒並み襲われ、食糧などの略奪を受けている。ブルート村も反乱軍の一部隊に襲撃された。


 なあ、とベルさんが口を開いた。


「本当にあそこに行くつもりか?」

「そういう依頼なんだから」


 ブルート村の未亡人から受けたお仕事である。そう言う俺に、ベルさんは鼻を鳴らした。


「別に引き受けなくてもよかった話なんだがな」

「女性の依頼は断らない主義だ」

「ああ、知ってるよ、Sランク冒険者」


 ベルさんの言葉に俺は苦笑いを浮かべる。


 冒険者とは、魔獣を狩ったり、ダンジョンに潜ったり、その他少々手荒な仕事をこなす者たちのことを言う。だいたいは冒険者のギルドを通した依頼をこなしていくものだが、乱暴に言えば何でも屋に近い。


 英雄魔術師時代、冒険者としても名を馳せ、そのランクはトップのSランクにまで上がっている。そのランクプレートにはしっかり『ジン・アミウール』の名が刻まれている。

 だが、俺はその名を捨て、本名で生きることにした。


 つまり、その冒険者ランクは俺の中では無効で、現在、冒険者でもないことになる。


「まあ、別に、俺はこの国と反乱軍の争いに干渉するつもりはないんだ」


 俺は何ともないと言った調子で告げた。


「依頼は、あそこにいるコラムって傭兵を見つけて、依頼の品を取り戻せばいい。たったそれだけだ。それだけやったら、他のことは知らん」

「それで? あの兵士どもが蠢く陣地にどう入り込むつもりなんだ?」


 ベルさんは鼻を鳴らした。


「堂々と正面から行けば、陣地の入り口でとっ捕まるか、追い返されるのがオチだぞ」

「実力行使……ってのも面倒だな。別に反乱軍に喧嘩吹っかけにきたわけじゃないから」


 俺は考えるふりをするが、実はもうどうするかは決めてある。


「透明化でどうだい、ベルさん? 擬装で化けてもいいんだけど、誰何されて、合言葉とかあったら面倒だし」

「そいつが無難だろうな」


 ベルさんは頷いた。

 そんなわけで、光学迷彩で姿を消すが如く、俺とベルさんは透明化した。これで人間の目からは姿が見えなくなったわけだが、この状態は常に魔力を消費し続けるので、あまり長い時間継続するのはよくなかったりする。

 つまり、さっさと目的を果たすのが吉ということだ。俺たちは反乱軍の野営地へ近づく。


 見張りは立っていたが、ずいぶんとゆったりとした空気が満たしていた。じきに夕飯の時間なのか。野外で火を起こし、鍋に入れた食材を煮込んでいる者の姿もある。


 お邪魔しまーす。


 心の中で呟きつつ、俺とベルさんは野営地に踏み込んだ。思い思いに休息をとっている反乱軍の兵士たち。……いや、兵士というより、傭兵やゴロツキの集まりのように見える。

 その構成員たちは、腰に剣や斧をぶら下げ、あるいは槍を持った者もいるが、全体的に薄汚れ、装備も不揃いだった。いかにも寄せ集めといった感じだが、農民や低身分の者たちというより、盗賊や山賊といったほうがすっきりする姿をしている。


「王都に着いたらよぉ――」


 男たちの話し声が聞こえてきた。


「貴族の屋敷に乗り込もうぜ! そこでお宝いただきだ!」

「金もいいけど、女だな。田舎の女はイモくてかなわねぇ。小洒落た王都の娘をヤるってんだ」


 ガハハっ、と笑い声が連鎖する。


「じゃあ、貴族の娘を犯す!」

「「「それだ!」」」


 何とも胸くその悪い会話だ。無理矢理というのはどうにもいただけない。そりゃ異性に邪な感情を抱くこともあるだろう。だがもっとこう……ううん。


 憤りを感じながら俺は歩を進める。

 ブルート村や通りかかった村も同様に襲い、若い娘を犯した連中である。王都が戦場となったら、同様のことが起こるだろう。いっそここでこいつらを――脳裏によぎった考えだが、俺はコラムって傭兵を見つけ出して、依頼者に成り代わりお礼参りをするという仕事がある。まずはそっちが優先だ。


 さて、コラムさんよォ、どこにいるのかなァ……?

 ただいま俺、半ギレ中。

2019/01/01 改稿&スライドしました。


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