第497話、デスクワークは重要
翌日、ポータルを経由してヴィルヤに赴き、そこから空路でエルフの宝物庫へ飛んだ。
宝物庫に入り、シップコアを探すためである。
同時に、格納されてる浮遊船をどうやって外に出すのか、その手段を探す。浮遊船をまさか宝物庫の中で組み立てたわけではあるまい。きっと外に通じる通路があるはずだ。
そして調べた結果、転移魔法陣が各浮遊船の下の床に設置されていて、それで出入りすることが判明した。
カレン女王とエルフ近衛の立ち会いのもと、俺とシェイプシフター兵はシップコアを捜索。宝物の中に、無事それを発見した。なお魔力切れでうんともすんとも言わず、最初は壊れているかと思ったけどな。
ついでに、古代文明時代の小型艦もいただいた。カレン女王曰く、人間の作った代物――しかも修理が必要なものを、エルフが後生大事に抱えている必要はないと、エルフの重臣たちが処分したがっているとのことだった。
捨ててしまうというのなら、もらっておこう、ということで、俺が引き取ったわけである。
後日、浮遊船の操船要員の選抜が終わり次第、船と共にポータルを経由してウィリディスにやってくるらしい。はいはーい。
しかし……これはいよいよいかんな、と思う。格納庫の手狭感だ。
艦艇類は高度一二〇〇〇メートルを漂うスカイベースに預けてあるとはいえ、エルフの浮遊船が来たら、ウィリディス内で停泊できる場所を確保しなくてはならない。
今回引き取った小型艦の置き場所もだ。シップコア『アンバル』の照合により、この小型艦は、シズネ級ミサイル艇であることが判明した。
大きさで言うと、全長はポイニクスとほぼ同じ。主翼がないので幅は、むしろ同機より小さい。とりあえず第三格納庫に置いて、どう扱うか決める。
パワードスーツ部隊の増強に戦車。その都度、格納庫を拡張していたのだが、実家の地下周りが格納庫や軍事施設だらけってのも考え物だな。
これでも、まだまだ用意するものとか、作りたいものがいっぱいあるんだが……。
水属性パワードスーツの製作に取りかかった早々だが、それとは別に一機、急ぎ作らなくてはならないものがある。
だというのに、俺はただいま書類整理の真っ最中。その内容は、大帝国に潜入しているシェイプシフター工作チームからの報告書。
大帝国帝都の様子、国内政策、軍の動き、新兵器開発とその生産体制、春期攻勢計画などなど。
シェイプシフターたちが大帝国の施設に潜り込み、資料を撮影してコピーをとり、それを定期的にポータル経由でウィリディスに寄越す。
当然ながら、獲得した情報は精査しなくては意味がない。そしてそれをやるのは、ウィリディスにて大帝国対策に軍備を整えている俺の仕事である。
だから大帝国が現在進行中の、空中艦隊や、地上戦車、人型兵器の生産や配備状況、訓練やその編成、使用する武器に至るまで、俺の手元にその情報があった。
同時に、現在、大帝国が春に連合国への再侵攻と、ヴェリラルド王国ほか西方諸国への侵攻を企てていることは、すでに把握している。またその準備も今のところ連中のスケジュールどおりに進んでいる。
正確な日付については、まだ決まっていないものの、四の月の第一週には双方の戦線にて攻撃を開始する腹づもりのようだった。
ウィリディス地下屋敷の研究室に隣接する地下執務室――俺が機密情報を処理しているその部屋の戸が叩かれた。
「はい」
『あー、あたしだ、リーレだ』
「どうぞ」
俺の返事を確認し、中に入ってきたのは眼帯の女戦士リーレだ。
「こんな地下で作業かよ。怪しい研究か何かか?」
「機密情報」
俺は机の上のかごのひとつを指さした。
「大帝国の魔法省からの情報が入ってる。主に、召喚魔法に関する資料。君も見たいんじゃないかと思って」
転移者であるリーレ、そしてここにはいない橿原にとって、大帝国の異世界召喚術は関心の対象だ。
「元の世界に帰るための協力はするという約束だからね」
「……すまねえな」
リーレが珍しく詫びると、適当な椅子に座って、かごの中の紙をとる。俺は報告書の右上の印で、どの関係の報告かを見やり、表題を確認してから仕分ける。
「……そういえば、リーレはここの文字読めるか?」
「馬鹿にするな! って言いたいところだが、あいにく、この世界の文字は勉強中」
眉間にしわを寄せながら、リーレは短めの自身の黒髪をかく。異世界から来た人間だからね。言葉を話せるようになっても、文字は別、ということも珍しくない。
「あとでトモミと一緒に見る。……あ、この紙切れは持ち出していいんだよな?」
「もちろん。ここには来ないと思うけど、王族関係者の目の届くところには置いておかないでくれよ」
下手に異世界召喚に関心を持たれても困る。
「一応、後で俺も中身見ておきたいから、間違っても処分しないように」
「目を通してないのかよ?」
「他にも色々見ておかないといけないのもあるからな」
俺はテーブルの置かれたかごを順番に指さしていく。リーレは口をへの字に曲げた。
「これ、全部見るのかよ?」
「当然。大帝国関係は全部見るよ。うちの兵器は、連中を凌駕していると思いたいが、戦いはスペックがすべてじゃないからな。正しく運用してナンボ。少数精鋭ならとくにな」
「大変だな……」
「まあね」
俺は報告書に視線を向けたまま笑った。リーレのため息が聞こえる。
「よくやるよ。あたしに何か手伝えることはあるか?」
「その力が必要な時は、いつでも言うよ。ああ、そうだ」
俺は顔を上げて、リーレを見た。
「話変わるけど、君、いま何か欲しいものってある?」
「あたしの欲しいもの?」
リーレは小首をかしげた。
「……何だろ、いきなり言われても浮かばねえな。なに、くれるの?」
「何かあるか?」
俺は頷きながら言った。考えておく、と言い残し、リーレは召喚系の報告書を持って部屋を後にした。
とりあえず、異世界召喚関係は、いまは関心の高いリーレや橿原、そしてダスカ氏に任せておけばいいだろう。
俺自身、元の世界に帰りたい欲求がないので、当面の問題に注力できる。そう、何から何まで俺ひとりでできるはずがないのだから、任せられるところは任せる。
のんびりするための準備段階で働きすぎて過労死なんて、洒落にもならない。……のんびり。
俺は自嘲する。少なくとも、あと二日ほどは、多忙を極めるなぁ。
その代わり、三日後は終日お休みにしてやる――ということで、ちょうど仕分けが終わったので、重要度の高そうなものから順に目を通す作業。
その前に――
「サフィロ」
『はい、マスター』
ダンジョンコアの声が、部屋に響いた。
「SSメイドに言って、コーヒーを持ってくるように頼んでくれ」
『かしこまりました』
うん。返事を聞きながら、俺の視線はすでに報告書の文章を追っていた。
その表題は『西方諸国に派遣する工作員の増派について』。
スパイを送り込むのは、何もこっちだけではない。……やれやれ、こっちも対策を立てないといけないな。すでに入り込んでいる奴らのことも含めて。




