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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第496話、エルフと交渉


 エルフの里から、カレン女王とアリンがウィリディスにやってきた。


 ポータルを経由してやってきたエルフたちは、ウィリディス食堂での久々の食事をご堪能――に留まらず、俺との会食を希望した。

 まあ、大方、先日の宝物庫の一件についての何かだとは予想がつく。


 展望席は、VIPの密談用に遮蔽魔法があり、俺たちはそこで昼食を摂る。すっかり冬の景色が広がるが、環境操作により席の周りは春のように暖かだった。


 赤ワインソースのたっぷりかかった鹿肉のローストを、ナイフで切り分けながら、フォークで口に運ぶカレン女王。


「んー、久しぶりのウィリディスでのお食事! 美味です」


 一応お忍びということで来ているので、エルフの魔術師衣装なのだが、それでも女王陛下の美しさは目を引く。隣の席で小さくなっている近衛のアリンは、モリモリ鹿肉を食べている女王に呆れの視線を向ける。


「エルフが神聖視している鹿の肉を食べるのは……」


 すべてのエルフがどうかは知らないが、カレン女王の治める里は、鹿を神聖なものとしている。菜食主義と思われがちなエルフだが、きちんと肉を食べる。

 彼らが弓の名手なのは、日頃の狩りの成果なのだ。皮だけとって肉を捨てるなどというもったいないことはしない。


「あら、ここのお肉は本物の鹿の肉ではありませんよ? そうですよね、ジン様」

「ええ、食事中にいうのも台無しなのですが、すべて魔力生成によるものです」


 つまり、何を食べても皆、元を正せば同じということである。でも味はしっかり付いているし、元は魔力でも生成された時点で、肉は肉である。

 そう考えるなら、鹿の肉で間違いない。生きていた鹿を加工したわけではない、という限りは、まあセーフと言えなくはないだろう。大人の建前。


「魔力でできたお肉なのですから、何も問題ありません。あなたも食べてみては、アリン?」

「いえ、遠慮いたします」


 そう言ってキノコのリゾットを食するアリン。俺は咳払いした。


「それで、お楽しみのところ恐縮なのですが、お話は――」

「そうですね。ジン様もお忙しいですし、手短に」


 そう言いながら、すでに皿の上の肉は綺麗に片付いていた。口元をナプキンで拭い、カレン女王は背筋を伸ばした。


「先の宝物庫の件です」


 エルフのお宝について、俺が報告を受ける義務もないのだが、まあたぶん俺が絡むことになるんだろうなぁ。


「ジン様は空を飛ぶ乗り物にお詳しいと見込んで、お願いがあります」


 聞きましょう。女王陛下の要請だ。


「回収された浮遊船ですが、エルフたちにその操船の術を指導していただけないでしょうか?」

「お言葉ですが、私はエルフの船の扱いは知りませんよ?」

「承知しております。里のほうで調べてみたのですが、一応操船方法の手がかりはありました。ただ、扱った経験のある者は皆無でして」

「千年以上前ですからね」


 さすがにご存命のエルフはいなかったか。カレン女王は物憂げな視線を寄越した。


「昨今、大陸の情勢はきな臭くあります。外部とは関係を持たないようにしているわたくしたちですが、それが通る相手ばかりではありません。噂のディグラートル大帝国……わたくしも脅威と感じています」

「里のエルフが生き延びるために、できることをしようと?」

「そういうことです」

「なるほど。お話はわかりました。私と部下で、できる範囲で協力いたしましょう」

「ありがとうございます、ジン様」


 頭を下げるカレン女王。もぐもぐとリゾットを食べていたアリンも、それに気づいて慌てて頭を下げた。

 そこで俺は表情を引き締める。


「とはいえ、大帝国の脅威はこの国にも及んでおります。春になれば、おそらく戦端が開かれるでしょう。……できれば、協力する見返りをいただきたい」

「……ヴェリラルド王国が大帝国と衝突した際、エルフに軍を派遣せよ、と」

「いえいえ、まさか!」


 そういうのは王国が決めることで、俺がどうこういう問題ではない。


「報酬をいただきたい、つまりはそういうことです」

「なるほど、協力の対価ですね。確かにタダで手伝ってもらおうというのは虫が良すぎますね」


 ある程度予想していたか、カレン女王は微笑んだが、すぐに真顔に戻った。


「しかし、わたくしたちエルフに差し出せるものがあるでしょうか? 何でも与えられるわけではありませんから。――具体的には、何がよろしいでしょうか?」

「そうですね……。万が一の事態が起きたときの緊急避難先として、ポータルを使用する」


 これはウィリディスから要人を逃がす場合もあれば、もしエルフの里で脱出の必要があった場合、エルフ側の要人を受け入れる。


「言ってみれば、相互に亡命のための一時避難場所の確保ですね」

「それはこちらとしてもありがたい話です。万が一の時は、ジン様を頼ってもよいということですね?」

「まあ、そうなりますね。で、次なんですが、ポータルの使用の件で、エルフの里ないしヴィルヤを、トルネード航空団の中継点として使用する許可をいただきたい」

「!」


 カレン女王が息をのみ、アリンの手が止まった。


「それはつまり、軍事的な拠点をヴィルヤに置きたい、と?」

「いえ、あくまでポータル移動の中継点です」


 休憩基地や燃料補給をしてくれ、というわけではない。


「大帝国の行動を阻害するために、かなり広範囲を移動することになると思います。必要なら、連合国近辺まで足を伸ばす必要もあるかもしれません」

「……」

「あ、誤解のないように言っておきますが、ヴェリラルド王国は関係ありません。あくまで俺個人の要請です。もちろん、部隊の移動の際は、事前にお伝えします」

「エルフの里に軍事拠点を置く、ではないのですね?」


 念を押すようにカレン女王が聞いた。

 その国にとって、他国の軍勢が進駐することは大きな問題である。警戒して当然だ。軍の利用を許したことで、それを知った敵側から狙われるリスクだってある。

 もちろん、部隊を常駐させるつもりはない。


「そのつもりです。ですが、この件については無理なら断っていただいて結構です。そのときは別ルートを開拓するだけなので、必ずしも必要と言うわけではありません」

「別ルート……」

「それなら、何故それを言ったんです!?」


 アリンが口を開いた。軍事戦力の駐留にも発展しかねない提案をあまりに軽い調子で言ったので、少々お冠のようだ。


「エルフの里ではすでにポータルがあるので、改めて設置するために場所を探したり、隠せる場所を探す手間が省けるんだよ。……こうみえて、俺も多忙なんだ、アリン」


 実際、やることたくさんあるのよ。それにエルフの浮遊船の件でも、時間が取られるわけで、俺を忙しくしてくれちゃったわけだけどわかるかな?


「お忙しい中、時間をとってもらっているのはわたくしたちのほう。ジン様の要請は慎重に話し合いたいと思います」


 女王は神妙な面持ちだった。俺は頷くと、本命をぶつけた。


「で最後なんですが、エルフの宝物庫に古代文明時代の(ふね)がありましたね? あの修理が必要なやつ」

「あれですか? その船が欲しいのでしたらお譲りしますが」


 あ、くれるの? ラッキー――じゃなくて!


「いえ、あんなスクラップを押しつけられても。私が欲しいのは、シップコアという、古代文明時代の艦を制御する装置なのですが……」

「シップコア……?」


 初めて聞くだろうその単語に、カレン女王はアリンと顔を見合わせた。知らないのも無理はない。


「宝石みたいな球体です。エルフの宝物庫にあると思うのですが、それを(ゆず)っていただきたい」

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