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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第494話、エルフの遺産


 不気味な沈黙に満たされた宝物庫内。といっても入り口すぐのフロアはとくに何もなく、三方へ伸びる扉があるだけだった。


 魔石照明に照らされる室内は、近衛兵たちの甲冑のこすれる音、俺たちの立てるブーツの足音以外、静寂に包まれていた。


 数百年生きているエルフのカレン女王よりさらに昔に作られた宝物庫らしいが、果たして罠の類はあるだろうか?

 遺跡や墓標というなら、墓荒らし対策にあるかもしれないが、宝物庫――まして所有者たるエルフが正当な手順で入った場合、罠があったとしても発動はしないだろう。


 突然、光が走った。

 カレン女王の身体に、緑のレーザーのような光が照射される。


「陛下!?」


 近衛たちが慌てるが、レーザー光に斬られるということもなく、女王は静かに、と仕草をとった。


「まるで本人確認のスキャンみたいだな……」


 SFなどで見るような光景に思わず呟けば、アリンが「スキャン?」と俺を見た。

 やがてレーザー光は発生した時同様、唐突に消えた。同時に、部屋の三方にあった扉が音を立てて開いた。


「なるほど、女王かどうか確認してたわけか」


 宝物庫の鍵を開けるにはカレン女王の力が必要、と聞いていたが、彼女自身が鍵だったようだ。といっても本人が生まれる前の宝物庫だから、王族の血筋に反応するようになっていた、と見るべきか。

 しかしこれ、エルフの技術というより、古代文明時代とかのやつっぽいなぁ。


 ともあれ、これでさらに奥に進める。


 扉が三つあるので、手分けして捜索することになった。カレン女王と俺たちは正面を、エルフの近衛とシェイプシフター兵は左右の部屋をそれぞれ探索する。


 扉をくぐると、さらに広いフロアに出た。軽くグラウンドが二、三枚程度入りそうな空間。右を見れば、大型ボートほどの大きさの木造小型船が三隻。左に向ければ、小型船より遙かに大きな帆船型の船が一隻、停泊していた。

 ……停泊でいいのかな。ここは水の上ではないし、そもそも何故、宝物庫の中に海洋船があるんだ?


 カレン女王は、大型船をきょとんとした目で見ている。ヴォルやアリンも同様だ。ダスカ氏は首をかしげている。


「帆船のように見えますが、どうしてこんなものがここに?」

「いや、ダスカよ。あれがエルフの浮遊船なんだろうよ」


 ベルさんが、ひょいと右の前足で大型船の後部を指し示した。何だかオールのようにも見える板状のものが複数並んでいた。それぞれ描かれた文様は、魔法文字の類か。


「あれで方向や速度を制御するんだろうな。ほら、パワードスーツの可動ブースターみたいに」

「なるほど。帆船にオールとは妙だと思っていたんですよ。するとあれ、魔法系の推進装置でしょうかね」

「だろうね」


 俺は頷いた。おそらく魔力を流して、発生させた風を一点に噴射する装置と見る。


「もちろん、船に浮遊石を使っている場合だけど……」


 重量をほぼ無効化する浮遊石がなければ、あのオールのような推進装置では推力が足りないと思う。仮に船を動かす程度の大推力があったとすれば、今度は魔力消費が馬鹿にならないだろう。よっぽどの仕掛けか、浮遊石がない限りは。


「ジン様は、これのことがわかるのですか?」


 女王が聞いてきた。


「まあ、詳しく見てみないとこにはわかりませんが、ある程度はわかると思いますよ」

「ぜひ、お願いします。なにぶん、わたくしたちには浮遊船の動かし方はおろか、その仕組みすらわかりませんから」

「承知しました」


 答えつつ、俺は、彼女の側近魔術師であるヴォルを見やる。いいのかな俺で、と視線をやれば、ヴォルは頷きで返した。

 では、エルフの浮遊船にお邪魔させてもらおう。



  ・  ・  ・



 調査の結果、この帆船じみた船は、伝承の浮遊船に間違いなさそうだった。


 大形船は、全長60メートルほど。船体中央に浮遊石をひとつ搭載。マストが三本あり、帆船同様、風を受けて推進力とすることができる。


 モデルは海洋型帆船なのだろう。古代文明時代の機械的な艦艇とは、まったく異なる文明の形だ。

 木造だが、所々に銀の縁取りや装飾がある。劣化防止の保護魔法がかけられており、千年以上の月日が経過していてもまったく腐ることもなく保存されていた。起動させれば、すぐにでも飛行が可能なようだ。


 船体には推進装置であるオール型の風魔法発動板が8枚。前に2枚、後部に6枚という割り振りだ。


 魔力を流せば、風を一点に噴射させて船体を進ませる。発動板は180度の範囲で自由に可動し、前進や後退、左右スライド、旋回、上昇下降に対応する。浮遊石の効果もあって、比較的機敏に動けるようだ。


 武装は電撃属性魔法を放つ電撃砲――つまり、俺たちの使うサンダーキャノンと似たようなものを16門備える。威力や射程については実際に撃ってみないことにはわからない。


 大形船の次は小型船である。こちらも浮遊石を積み、マストは一本。風魔法発動板は6枚。旋回式電撃砲2門を装備し、どうも小型快速の護衛艇といった感じだ。あるいは連絡用かもしれない。保護魔法で守られ、三隻ともすぐに動かせる状態だと思われる。


 ダスカ氏と意見を交わしながら、調べた結果を俺はカレン女王に報告した。


「遊覧船や移動用とするなら、よい船でしょう。女王専用の船として使いますか?」


 政府専用機的な使い方をする分には優良物件と言える。軍事面で言えば、大帝国が空中艦隊を編成している点を見ると、劣るのは否めない。


 そもそも、エルフ側は数が圧倒的に少ないのだ。一〇〇を越える大帝国艦隊に、小型船入れて4隻では、正面からの決戦など望むべくもない。

 俺たちトルネード航空団と敵対したとしても、あっという間に撃沈だろう。


「ありがとうございます、ジン様。浮遊船のことは、里の重鎮たちに明かした上で相談したいと思います」


 エルフの問題である。俺がどうこういう話でもないので、相談でもされない限りは何も言わない。


 俺たちが船を調べている間、宝物庫のほうの調査も進んだらしい。金銀財宝、宝石などいかにもといったものから、予備の浮遊石、エルフ用の魔法武具、戦闘用ゴーレムなどなど。


「お宝だ」


 ベルさんは普通と言いたげな調子だった。あくまでエルフの宝物庫の確認にきただけで、俺たちが持って帰られるわけじゃないぞ。 

 ヴォルが報告した。


「下の階層に、もう一隻、船らしきものがありました。ただ、かなり劣化していますが」


 保護魔法のかけられていないものがあったか。宝物庫の中で腐ってしまったようだ。


 確認のために俺たちがいけば、先ほどまで見ていた帆船じみた浮遊船とは、まったく異なるものがそこにあった。

 黒猫が口を開いた。


「どう思うよ、ジン?」

「エルフの作ったものではないな」


 思いっきり金属でできた船。木製の船と明らかに違う材質と形。ロケットのようにも、艦艇のようにも見えるシルエット。翼のない航空機っぽくもあり、宇宙船っぽくもある。大きさは40メートルほどか。アンバルなどの巡洋艦に比べると遙かに小さい。


「おそらく、古代文明時代か、それに近い頃のものだと思う」

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