第493話、エルフの宝物庫
ポータルを再形成。俺はウィリディスからワスプ戦闘ヘリ3機と、シェイプシフター戦闘機ことTF-1ファルケを1個小隊4機を呼び寄せた。
空中都市ヴィルヤの精霊宮の前に到着した、トルネード航空団の機体は、たちまちエルフたちの注目を浴びた。
もっとも、先の青肌エルフとの戦いで、里を救ったウィリディスの航空隊ゆえ、パニックになることもなく、むしろ好意と好奇心の目を向けられた。
『女王陛下が、エルフの里周辺を上空視察する』
それが、カレン女王がヴィルヤを離れる口実である。ウィリディスとの同盟関係が続いていることを示しつつ、空からの目線で里を見たいという女王の希望を叶えるという格好だ。……同盟なんて組んでたっけ?
まあ、そうでも言わなきゃ、人間の作った乗り物に女王自ら乗るなんて、頭の硬いエルフたちが許さないだろう。ジン・アミウールの名前をフルに活用した信用というやつである。
今回、俺のほかは、ベルさんとダスカ氏、姿形の杖であるスフェラとシェイプシフターのみという人選である。
エルフ王家の秘密の場所に行くことが確定しているので、こちらも人員は最小限である。ベルさんとダスカ氏は、俺のジン・アミウール時代の仲間としてエルフ側からもすでに信頼を獲得しているから連れてきた。
ダスカ氏は、青肌エルフとの一戦は知らないので、久しぶりのエルフの里となる。
「女王陛下、再び相まみえることができ、恐悦至極に存じます」
「マスター・ダスカ、また会えてうれしく思います。……若返りましたか?」
「ははっ、ひげをばっさり剃ってしまいましたから。もう棺桶に片足を突っ込んでおります」
自嘲するダスカ氏。エルフの寿命に比べたら人間の寿命なんて短すぎる。ただ、初めて会った頃の、いかにも老練な魔術師といった彼を知っている者からすれば、十歳は若返ったように見えるのもまた事実だった。
さて、エルフ側の同行者だが、カレン女王を除くと、近衛が十名ほど。側近の魔術師ヴォルのほか、かつて俺をエルフの里へと呼ぶ使者としてきたアリンも含まれていた。
この人選は、女王が信頼する面々というほかに、俺たちウィリディス勢への配慮も働いていると思われる。
ワスプ戦闘ヘリは、いずれも兵員輸送コンテナを腹に抱えていれ、俺たちはそれに乗り込んだ。ヒンメル君操縦の一番機には、俺やカレン女王など主な面々が乗り込み、二番機はシェイプシフター兵、三番機は一番機に乗れなかった近衛の残りの面々が乗る。
『ワスプ1、離陸準備よし』
「了解、ワスプ。ファルケ5、先行して周辺警戒に当たれ」
俺が魔力念話で指示を出す傍ら、初めてヘリに乗るカレン女王は、緊張を隠せないようだった。いや、ヴォルやアリンらエルフ全員がそうだった。浮遊魔法で浮かんだことくらいは……高さが違うか。
轟々たるメインローターの音が響く。砂埃がヘリの周囲に飛散する。
矢じりのような形をしたファルケ戦闘機が飛び立つのに続き、ワスプ戦闘ヘリも飛び上がった。
うわ、と声をあげたのはエルフの魔術師ヴォルだった。見ればアリンが、ヴォルにすがりついていた。ひょっとして高いところダメな人だったりするのかな……?
俺は、カレン女王に聞く。
「大丈夫ですか!?」
「ええ! これが空を飛ぶということなのですね!」
風の音に負けないように声を張り上げる。世界樹の上から、エルフの里、その深い森が眼下に広がる。黒猫姿のベルさんが身震いした。
「王国より暖かいっていうけど、空はやっぱ寒ぃや……」
「このあたりも晩秋ですからねぇ」
ダスカ氏は、のんびりとした調子で景色を見やる。ファルケ隊が戦闘ヘリの四方を、やや離れたところを飛んで警戒している。
ぐるりと、里の上空を回るようにしながら、東南方向へ機首を巡らす。森の外縁へと目指す先には、木もまばらな荒野と深い谷。
・ ・ ・
鉄の谷へ侵入する。ファルケ戦闘機2機が先行する中、台地の合間にある谷へとワスプ戦闘ヘリは飛び込んだ。谷の間隔は平均三〇メートルほど。ローターのことを考えるとあまり広いとは言えない。
ヘリは縦に一列に並び、速度と間隔に注意を払いながら進む。眼下に見えるのは赤茶けた大地。土が向き出しで、所々に壁のような形をした黒い岩っぽいものがあった。あれがここを鉄の谷と言わしめる金属の類だろうか?
「いつからあるか知らねえが」
ベルさんが首を横に振った。
「あれ、本当に鉄なのかね? 普通なら錆びてとっくに朽ちてるんじゃね?」
「鉄によく似た他の金属かな?」
「あるいは、保護の魔法がかけられて錆びないようになっているかもしれませんね」
ダスカ氏がそうコメントした。金属の腐食を防ぐ魔法、ね。
「……だとすると、誰がそんなことをしたんだ? ここの金属が誰かの手が加えられているってことになるが」
「さあな、これから行く宝物庫とやらを作ったエルフのご先祖様じゃね?」
適当な調子でベルさんは言った。
グリフォンなどの飛行する魔物の襲撃に備えていたが、現れなかった。この谷付近には住んでいないのかな? グリフォンの住処にはわりと適しているように思えるが……。
『こちらファルケ5。最深部上空に到達。敵性存在は確認できず』
警戒機からの報告。女王を抱えて、空中戦に巻き込まれなくてホッとするべきところなんだろうな。
やがて、その場所にワスプ隊も到着した。
谷の行き止まり、その壁面に刻まれた弓の形をした白い岩――それが宝物庫の目印。
カレン女王が指し示すその手前で、ワスプ戦闘ヘリは降下した。スペース的に一機しか降りられなかったので、まず一番機から順番に乗客を降ろすことになった。
三番機はそのまま谷底で待機。残る二機は飛び上がり適当な場所に降りて警戒することになった。ファルケ隊は上空警戒を続ける。
さて、俺たちは、目印とされる巨大な弓――三日月にも見える岩の刻まれた岩壁の前に立つ。
「ここで間違いないですか?」
「ええ、伝承の通りです」
そう答えたカレン女王は瞳を閉じ、呪文の詠唱を始めた。隠された秘密の扉を開く鍵というやつか。シェイプシフター兵やエルフの近衛兵が周囲を警戒する中、やがてそれは音を立てて開いた。
軽い地面の揺れと共に、分厚い岩の壁が左右に開いた。黒猫姿のまま、変身する様子がないベルさんがニヤリとした。
「面白くなってきやがった」
「わくわくしますねぇ」
ダスカ氏も好奇心を抑えきれないようだった。まあ、俺自身もちょっと期待はしてるよ。
女王に続き、俺たちも入り口をくぐり、中へと入る。
ひんやりとした空気。暗い室内だが、ぼぅ、と光が規則的に点灯し始める。魔石照明だろうか。柔らかな光が、がらんどうな空洞内を照らした。
と、前言撤回。遺跡ないし城系のダンジョンといった内装で、人工的に成形された床や壁、天井となっている。エルフの近衛たちが息をのむ中、ダスカ氏は天井を見上げる。
「どこか、ウィリディスの地下格納庫を連想させますね」
「そうかな?」
言われてみれば、確かに適当なスペースに戦闘機やら車両を置けば、格納庫として使えそうな雰囲気がある。
見える範囲に魔物の気配はない。封印された地下であるなら、本来なら魔物などはいないはずではあるが、何らかの魔力的発生でダンジョンコアが生まれるように、長い年月を掛けて魔物が……いや、それはないか。
そもそもこんなところに魔物が発生して、何喰って生きてるっていうんだ? ま、ゴースト系なら別か。念のため、魔力サーチをかければ、ベルさんもかけていたようで、俺たちは顔を見合わせる。
「何か引っかかったか?」
「いいや、何も」
だよなぁ。俺たちは、カレン女王に続き、部屋の中央を進んだ。




