第490話、シルフィード
ラジコン的な玩具の飛行機とはいえ、自分で操縦しながら、空からの景色を見ることができる、というのは、ジャルジーが興奮するのも無理もなかった。
超巨大飛竜フォルミードーや、ワイバーンを撃退した我らがトルネード航空団の戦闘機。そしてグリフォンエンジン搭載航空機の開発。
ジャルジーは航空機に強い関心を持ちながらも、果たされていないことが一つある。
自分の手で操縦して空を飛ぶことだ。
果たされていない理由は、彼が未来のこの国の王様だからだ。万が一の事故があって、死亡ないし再起不能な重傷を負ってしまった場合、王位継承問題が再燃してしまうらしい。
アーリィーが女になったという扱いで、継承権がかなり下がった。この国では、こと王位継承権については男性優先である。エマン王に息子はおらず、王の弟の息子であるジャルジーが現在、継承権一位である。
が、二位以降というと、エマン王の祖父の代の兄弟の一族となり、かなり王族の血が薄れてしまっていると言う。順位付けはされているものの、万が一、王位が回ってくることがあれば、どうもゴタゴタが避けられないだろうというのが予想だ。
そんなわけだから、大帝国との間に問題が控えている現状、ジャルジーに死なれるようなことがあっては困ってしまうわけだ。
実際、非公式にはジャルジーはエマン王の血を引く息子であるわけで、王自身も彼を次の王にしたいと思っている。
結果的に、ジャルジーは飛行機に乗ることを制限され、自ら操縦することは夢のまた夢であった。玩具の飛行機でも、操縦感覚を味わいたいというのもわかる話である。
そんな彼に、グリフォンを預けたら……それはもう、飛ばしまくった。搭載コアのカメラでコクピット視点があることが裏目に出るほど、ジャルジーはグリフォン機でウィリディスを飛び回った。
寝食忘れる勢いでモニターにかじりつく公爵の姿は、彼の部下であるフレックや、他の者たちも呆れるほどだった。
……昔、ゲームに夢中になってやりまくっていたのを怒った親の気持ちが俺にもわかった気がする。
ただ、コア搭載の遠隔操縦機について、いいデータ収集になっている。俺が空飛ぶ玩具を作った理由のひとつに、偵察型ドローンのためのデータを集めるためというのがある。
特に偵察のウルペース浮遊バイクに搭載する偵察機材にドローンを用意したが、無人でも遠隔操作のどちらでも対応するドローンは、偵察員のためにも必要となる。
それともう一つ、いずれ王国空軍となるだろう戦闘機部隊のパイロット育成の教材にするためである。先にも言ったが、空を飛ぶ感覚がわかる人間がほとんどいない世界だからね。
閑話休題。
ジャルジーやフィレイユ姫の注意を引いている間に、白亜屋敷の近くの林にシェイプシフター兵たちが仕掛けを施し、無事帰還した。イベント当日が楽しみである。
次に俺は、ウィリディス食堂に足を運ぶ。料理人以外立ち入り厳禁の調理場へ――王城からやってきて働いている料理人たちが、一斉に俺を見た。
「これは、ジン様!」
「賢者様!」
「あー、はい、料理作っている人は、そのまま続けて」
ウィリディス食堂は、最新の調理器具と豊富な食材が使える天国である、というのがここの料理人たちの共通認識である。
俺自身、料理人ではないのだが、伝えた現代風料理とその手法は、彼らの技術を飛躍的に高めた。
料理長――宮廷料理人であり、王の食事を担当していたコッホ氏が俺を出迎える。
「ジン様、本日はいかがされました? ……何か、新しいレシピですか?」
今年50歳を迎える経験豊富な料理人は、鋭い目を向けてくる。見た目は頭の硬そうな職人風な人物なのだが、料理に関する知識を得ることにはかなり積極的な御仁だ。
エマン王直々に『料理を学べ』と言われ、ウィリディスにやってきた一人だ。苦虫を噛んだような顔をしていたのは最初だけ。豊富な調味料を自由に使える状況は、彼の好奇心を刺激し、より完全な料理を目指す熱意を彼に再燃させた。
勤務地が王城からウィリディスになったのだが、エマン王ら王族も食事はこちらで摂るので何の問題もなかった。
「一週間後、白亜宮殿でパーティーを開くつもりでいる。ついてはそこで出すケーキを作ってもらいたい」
「ケーキ、でございますか?」
要領を得ない顔のコッホ氏に、俺は相好を崩した。
「そう、ケーキだ」
・ ・ ・
戦車がひと段落したところで、お次はパワードスーツ作りである。
例の魔法金属装甲を利用した計画案を進めるのだ。
先のシャッハの反乱事件で、王国軍にレンタルしたパワードスーツ部隊、そして参戦したバトルゴーレム部隊は、少なくない被害を被った。
倒した敵の数を考えれば、十分な戦果を上げた。だが受けた損傷は直さなくてはいけない。それはそれ、これはこれである。
軽微な損傷のものは、パーツ交換や修理をした。だが激しく壊された機体は、無事な部位をパーツ取りの予備として解体した。
結果、1個中隊12機を定数とする我がパワードスーツ部隊、バトルゴーレム部隊はその数を満たしていなかった。
そこで、新型機の開発である。魔法金属装甲を採用した第二期生産型とも言えるこのシリーズを、今冬中に製作、配備するのだ。
「とは言っても、基本は、ヴィジランティと同じなんだけどね」
俺はユナやガエアにそう言った。使う装甲、武器が変わることで重量と挙動に変化が出るくらいである。……と思っていた頃が、俺にもありました。
TPS-3――空中機動力を高めたタイプは、ヴィジランティHM型をベースにしながらも、その運用法についてはTPS-2バーバリアンの簡易量産型を目指している。
風属性の魔法金属を装甲に張ったこの機体は、装甲表面に風の膜を展開しており、風の抵抗を操作すると共に、飛来する投射系の攻撃を逸らす防御効果も発揮する。
「お師匠、このエアリアル装甲を盾にしましょう」
ユナがそんなことを言えば、ガエアは「エアロシールドですね!」と風属性の魔法盾の名前を出した。魔法防具としては、わりと有名なやつだ。
「盾を持たせれば、機体に使うエアリアル装甲をある程度抑えて、生産コストを下げられるのではないでしょうか?」
「つまり、なんだ……」
俺は頭の中に浮かんだものをそのまま言った。
「ヴィジランティの一部装甲を張り替えて、専用シールドを持たせつつ、機体各所にブースターを積めば、それでTPS-3と同等のものができあがると」
「「……!」」
なに君たち今気づきましたみたいな顔してんの? 言い出したのは君らだろうに。
ということで、TPS-3の有人機仕様を、全面エアリアル装甲採用型。バトルゴーレム型を装甲材を一部ケチった、もとい省略したヴィジランティベースの簡易量産型とすることにした。
どちらも希少な浮遊石を搭載しており、背中や肩のフレキシブルブースターなど、その配置はバーバリアンに準ずる。なお、他の魔法金属装甲の機体には浮遊石は載せない。数が限られているから、全機に載せられないのだ……。
かくて、TPS-3は、風の精霊にちなんでシルフィードと名付けられた。パワードスーツでありながら軽快な運動性と飛行能力を持つ機体だ。
武装は、手持ちは基本どれでも装備できるが、20ミリロングレンジライフル、新開発のMR-1マギアライフル、風属性弾を放つエアリアルランチャーが主武装となるだろう。
ユナが言った風の盾として、エアリアルシールド。近接戦用にサンダーブレードを二本装備している。
1機できれば、あとはダンジョンコアとシェイプシフターズが何とかしてくれるので、次の製作に取りかかる。
TPS-4――水装甲採用パワードスーツ。うちの軍事顧問、リアナさんの所望する特殊作戦機である。




