第487話、近衛隊の装備更新
ウィリディスの地に、アーリィーの近衛隊が配備された。
俺個人としては、別に希望していなかったが、アーリィーを警護する専門部隊がいるというのは俺がお留守の時も任せられていい。
逆に言うと、留守も守れないような近衛は必要ないということになる。
その近衛隊だが、天国と地獄を味わっていた。
まず天国。ウィリディス食堂の料理。
「美味! 美味です、ジン様! あぁ、このような料理を我らのような雑兵が味わってもいいのでしょうか!」
そう言いながら、モリモリとドラゴンカレー――フロストドラゴン肉が具に入っているカレーをオリビアが頬張る。ここのところ寒いからね、温かなカレーは身にしみるだろう。
「雑兵って……。君たち近衛は、一応はエリート部隊だろう?」
「一応は。ですが、ウィリディスの方々に比べたら、私たち近衛は雑魚ですよ」
オリビアは謙虚な物言いをしたが、それには当然わけがある。
彼女たち近衛隊がみた地獄、それはウィリディス式戦闘訓練と体力作りである。
何せ、教官役がリアナ軍曹と不死身のリーレである。魔法騎士学校を卒業したマルカスや、実戦経験豊富なサキリスにさえ、手も足もでない近衛騎士たちは、新兵時代に戻ったかのように現代式戦闘術を基礎から叩き込まれていた。
俺が大帝国から送られてくる情報の分析や、制作中の兵器の設計、開発や監督をしている間、近衛隊は徹底的にしごかれていた。
配属された騎士、魔術師たちの多くが感情を削ぎ落とされたような感じで追い込まれていた。音を上げないのはさすがは近衛と言ったところか。
疲れてはいるものの隊長であるオリビアだけはあまり表情に変化がなかった。……元から体力バカなところがあるのと、マゾっ気があるのが原因かもしれない。
なお、遠巻きにその様子を見ていたエマン王とジャルジー公爵は、リアナとリーレの繰り出す猛訓練を、自軍強化に取り入れられたら、などと話していた。
昼夜を問わない体力強化。さらに特殊部隊経験者のリアナによる座学は、近衛隊の練度を急速に上げ、またいい感じに兵士として鍛え上げていた。
中身が鍛えられている中、外側、つまり装備をどうこうするのは、俺たち開発部のお仕事である。
先のライトスーツ、その量産化に向けての研究を行っていた俺たちは、その技術を応用して、鎧の下に着込むインナースーツを開発した。
ベースはパワードスーツに入る時に着る、身体にぴったりフィットするインナースーツである。
強靱なジャイアントスパイダーの糸を使った強化繊維にミスリル銀を織り込んだそれだが、今回、コストダウンのために高価なミスリル銀はオミットした。魔力を増幅し、かつ丈夫なミスリルを取り除いた代わりに、低下した防御力を補うために一工夫を施す。
近衛のオリビア隊長を研究室に呼び、さっそく披露する。
「スライムゴムです」
銀髪の女魔術師ユナは、机の上のぴっちりスーツを指し示した。オリビアは表情を引きつらせた。
「ス、スライムですか?」
「もちろん本物ではありません」
俺の弟子であるユナは淡々と説明した。
「スライムの物理防御力の高さに着目し、それと同等の効果を発揮するゴム膜をインナー表面に使っています。通常のナイフでは刃が表面で止まりますし、突きに対しても……」
取り出したナイフを振り上げ、インナースーツを刺す。ガン、と机を叩く音が響いたが、刃はスーツを貫かなかった。
「この通り、軽度の力では貫通しません。もちろん、全体重を掛けた一撃までは保証しませんが」
「素晴らしい……! が、着心地のほうはどうでしょうか?」
オリビアはインナースーツの表面を手で撫でる。
「くっつくほどではありませんが、表面が若干粘着質です。着用した時に粘ついたりはしませんか?」
「内側は蜘蛛糸繊維なので、不快感はありません」
そう言うとユナはおもむろに羽織っていた外套兼魔術師マントの前を開いた。着ていたのはぴっちりインナースーツ。ユナの大きな胸の形もぴっちり強調。
「ユ、ユナ殿!?」
「この通り、問題ありません」
「あ、いえ、見ただけでは実際の着心地まではわからないです、はい……」
オリビアが困ったように目をそらした。同性でも、立派すぎるユナの胸から目をそらすんだな。俺は何とも言えない気分になる。ちと、刺激が強すぎるな、ぴっちりスーツは。
「そうですか……」
若干不満そうなユナである。オリビアが気を取り直す。
「そういえばジン様、スライム系は炎に弱いのですが、このスライムゴム、でしたか……これは大丈夫なのでしょうか?」
「それについては対策済みだ」
火属性防御の魔法文字を刻んであるからね。ちなみに魔力の供給源は袖の部分にある小さな魔石から。そのあたりはサキリスのSS装備からの流用だったりする。
……ちなみに、サキリスは外も内側もスライムゴムでできたインナースーツの試着を行っていたりする。吸着感がどうとか言っていたが、自前改造のシェイプシフタースーツのほうが気持ちいいなどと言っていた。……何がどう気持ちいいのかは突っ込まないぞ。
「あと寒いとき用にヒーター機能もついているぞ」
「おおっ、それはありがたい!」
いまは絶賛、冬だからね。
「ちなみに、そのインナースーツはパワードスーツ用にも対応している」
「魔法甲冑ですか!?」
「近衛にも配備するつもりだから、そのように」
「承知しました!」
踵を鳴らしてオリビアが敬礼した。パワードスーツについては、近衛も興味津々だったようだな。
「偵察用のウルペースも、人数分を手配する。それぞれ操縦できるように訓練してくれ」
「はい、ジン様」
「では、次の装備。ユナ――」
はい、お師匠、とユナが机の上に、盾を一枚用意した。バックラー程度の小型盾である。
「魔法障壁内蔵の、マジックシールドだ。見た目は小さいが展開すれば、人ひとりの全身をカバーできる範囲を防御できる。要人警護であまり大きな装備を身につけられない時でも、これなら携帯できるだろう」
目を見開くオリビア。この盾は、ただの防御用シールドだけではない。以前、マルカスに作ってやったコバルトシールド(電撃)と同じく、雷属性の魔石を仕込んであるのだ。
「向かってきた敵を逆に無力化したりすることができる。すでに実戦でも使ってるから、信頼性も抜群だ」
「これを近衛に……?」
オリビアは、小さく首を振った。
「至れり尽くせりですね、ジン様」
「以前、君に渡した魔力通信機があるな? あれの改良型も全員に用意する。個々の連絡の取り合い、報告、連携をスムーズにする」
あとは――机にライトニングバレット、その拳銃型を置く。
「これの使い方にも慣れてもらう。魔術師たちにも、専用の魔法装備を用意するつもりだ。……ああ、そうそう」
俺は、オリビアを見やる。
「武器も魔法金属を使ったものを作れるんだが、希望はあるか? ああ、もちろん、近衛隊員全員だ」




