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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第481話、平原を駆ける狼


 戦車の試作モデルの形態変更を一通りテストしたが、トラブルもなかったので試走をする。


 まあ、ゴーレムコアやシェイプシフター・ドライバーたちによって、試作モデルの試作モデル――合体機能なしにおいて、すでに走行テスト自体は済んではいた。

 だが、俺やアーリィーは初めて戦車に乗るのだ。


 選んだのは主力戦車形態。76ミリ砲搭載のB1砲塔に本体、浮遊ユニットで構成される。運転したいというアーリィーの希望なので、ドライバーシートは彼女に譲る。俺は車長席だ。


 戦車の操作マニュアルは、リアナの助言をもとに俺が作ったが、実際に動かしているSSドライバーたちの証言や記録から改訂してあったりする。


 動かす気が満々だったアーリィーは、ばっちり予習してきたと豪語するだけあって、特に迷うことなく、ドライバーシートに収まるとスイッチを入れて車体を立ち上げていく。

 ほんと、覚えるの早いよなぁ。俺は後ろの車長席から、その様子を眺めながら感心する。


「砲も試射をするから、目的地は演習場な」

「了解」


 戦車兵用の魔力通信機付きヘルメットを被りながら、アーリィーは振り返った。俺もヘルメットを付け、格納庫の外に出る旨を通知しながら、視界モニターをオンにする。


 外の景色は、車体各所のカメラとペリスコープ(潜望鏡)が頼りだ。ハッチを開けて身を乗り出すのは非常時の最終手段である。


 モニターには、開け放たれた格納庫ゲートと、そちらへと誘導灯を動かすシェイプシフター整備員が見えた。周囲の安全をゴーレムコアが確認し、車体管理モニターが青に変わる。


「アーリィー、前進だ」


「了解」と、アーリィーがフットレバーの一つ、浮遊ペダルを軽く踏み込む。するとすっと車体が浮かび上がる時の感覚が身体に伝わる。


 ちなみに浮遊ペダルを全開まで踏み込むと、高さ十メートル程度までは浮かび上がったりする。今は、高さは50センチくらいに調整。


「前進ー」


 アーリィーが両手のレバーを押し込むと、戦車は滑るように格納庫を進み出した。

 さすが浮遊推進。デゼルトなどの装輪式だと地面と触れている感覚が伝わるが、それを感じないなめらかな移動だ。

 もっとも、車好きはこの浮遊感が逆に不快かもしれないけどね。地面を感じられないってさ。


 格納庫を出た時、一瞬モニターが眩しく感じた。外は快晴だった。ゴーレムコアがモニターの明度を調整して、若干暗めにした。……目に優しい仕様。


 アーリィーはと言えば、彼女も操縦席モニターを見ていた。ちなみに操縦席は、モニターのほか、直に外を見て運転できるように三方向に小窓がついている。しかし実際の戦車同様、視界はあまり広くないけど。


「ねえ、ジン。この戦車って、名前あるの?」

「名前?」

「戦闘機やパワードスーツにはあるじゃない? トロヴァオンとか、ヴィジランティとかさ」

「そうだな。ブロック組み替えも問題なさそうだし、そろそろ正式な名前を発表しようか」


 作動不良などでBVSが失敗した時のために控えていたが、一応名前は考えてあった。


「動物の名前で揃えてみようと思うんだ。主力戦車(こいつ)は『ルプス』」

「……それはどんな動物?」

「『狼』さ」


 ラテン語だけどね。


「歩兵戦闘車は『エクウス』。軽戦車形態は『ケルウス』。輸送車は『フェルス』。偵察車は『ムース』だ」


 馬、鹿、イノシシ、ネズミである。全部ラテン語で統一した。もっと適切な動物があったかもしれないが、俺もラテン語を全部把握していないからね……。


「どれも聞いたことないや」

「異国の言葉だからな」


 戦車――ルプスはウィリディス内側の森の道を抜ける。アーリィーが左右の操縦レバーを小刻みに修正しながら動かす。


「……車体の幅、結構ギリギリだよね。」

「Dブロックがな……」


 車体中央のCブロックの両側に付いているメイン推進装置であるDブロック。この戦車群の移動速度を支える屋台骨であるが、同時にこれのせいで、通常の戦車と比べても車体幅が大きくなっている点がネックであった。


「滑るとぶつかりそう」

「その割には、ぶつけずに進ませてるじゃないか。上手いな、アーリィーは」

「えへへ、そうだよ。これに関してはもっと褒めていいよ」


 笑ってはいるが、シビアなのだろうな。ルプスやエクウスの運用は開けた場所か、それなりに広い道幅が望ましい。そんなんだから、Dブロックを外した軽戦車形態のケルウスの運用も考えていたわけだけど。


 ようやく森を抜け、演習場への道を進む。アーリィーがスピードを上げた。浮遊推進にした最大のメリットである快速ぶりを発揮するルプス戦車。


 まるで戦闘機が超低空を這って進んでいるような感覚になる。速い速い……!

 もっとも、俺もアーリィーも戦闘機(トロヴァオン)でスピードには慣れているけど。


 あっという間にゴツゴツした岩場、演習場へと到着する。さて、76ミリ砲の威力を、戦車視点から見てみようかね。


 俺は、持ってきた70口径76ミリ砲の射撃レポートに目を落とす。SS兵の射撃記録と、その際の注意点などが記載されている。


 実際の発射手順は、ゴーレムコアが処理してくれるので、車長が砲手を務めるにしろ、コアに任せるにしろ負担はあまりない。最悪、車長である俺は、攻撃目標を指示すれば、砲の旋回、照準、発砲からの装填も、全部自動でやってくれる。


 浮遊している状態で砲をぶっ放すと、角度によってはかなり滑ると予想されているが……。

 それを試すのもテストのうちだ。 



  ・  ・  ・



 結果から言うと、移動しながらの発砲は、隊列を組んでいる場合はしないほうがいいことが明らかになった。


 進行方向と同じ方向に砲を向けている場合は、腹に響くような反動を感じるものの、滑ることはなかったのだが、移動する方向と別方向に砲を向けての発砲だと、その滑り幅が大きく、隊列によっては味方車両と衝突する可能性があった。


 予想されたとおりではあるが、実弾系主砲の反動問題については、基本的に地面に接地しての静止状態で撃つものとした。


 砲には駐退複座機がついているが、あくまで反動を軽減させるのみで、完全に殺せるものでもない。Cブロック下面にダンパーを装備することで、設置状態では問題なく反動を抑え込んだ。


 つまり、ルプスの76ミリ砲運用に関しては、攻撃地点まで移動。一度停止して発砲。必要なら再度移動して、撃つときのみ停止を繰り返すことになる。アウトレンジスナイパーとして考えるなら、ある意味適切な運用か。


 仮想敵である大帝国の戦闘車両の攻撃の届かない位置から一方的に撃ちまくり、敵の射程に入る前に移動して距離を稼ぐ。


 アウトレンジ戦法。


 ……なお、多少、海軍関係の戦史をかじっていると、アウトレンジ戦法という響きにあまりいい印象はない。旧日本海軍のいうアウトレンジ思想は大抵失敗しているからだ。

 当たらなければどうということはない、つまりそういうことだ。射程外から一方的に撃てる=必ず当たるなら、話は別なんだがね……。


 ちなみに、反動の問題は実弾系のB1砲塔を扱う場合のみなので、歩兵戦闘車のエクウスなどは、ガンガン最高速度を出しながらマギアカノーネを撃ち放題だったりする。


 その後、運用テストを行い、正式にBVS戦闘車両群の生産が決定。ウィリディス工場において、各ブロックの生産と、76ミリ砲の砲弾などが魔力生成にて製造された。

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